カレンダーが真っ黒になる恐怖と、誰にも言えない本音

カレンダーが真っ黒になる恐怖と、誰にも言えない本音

気づけば、予定がぎっしり——“嬉しい悲鳴”にはほど遠い

朝、スマホを開くとカレンダーが真っ黒。これはもう何かのバグかと思いたくなるくらい、びっしりと予定が詰まっている。ありがたいことなんだろうか?いや、たしかに無職よりはマシかもしれない。でも、この“ありがたさ”は、心が壊れかけてる自分を慰めるための言い訳じゃないか。私は司法書士として地方で事務所を構えて15年。いつの間にか「暇よりマシだよね」が口癖になった。だが最近は、その「マシ」が、心をじわじわと蝕んでいる気がするのだ。

午前10時から詰まる相談予約、昼食の隙間すらない日々

電話で「10時からお時間ありますか?」と聞かれれば、あるとは言えない。でも「10時しか無理なんです」と来られると、じゃあその時間に…と応じてしまう。午前中から詰まった予定は昼まで食い込み、気づけば昼食は夕方に。コンビニおにぎりを車の中で詰め込んで、次の現場に向かう。昔は「働き者だね」と言われるのがちょっと嬉しかった。でも今は、「何してるんだろう」と、鏡を見て思うようになった。

“忙しいのはありがたいこと”…本当にそうか?

「忙しいのはいいことだよ」「暇な方がつらいよ」——誰かがそう言ってくれたとしても、もう素直にうなずけない。確かに収入はある。でも心の余裕はどこに行った?たまにカレンダーにポツンと空白があると、それが嬉しくもあり、逆に不安にもなる。いつからか、“仕事がない=不安”と条件反射するようになってしまった。この矛盾が、頭の片隅でいつもひりついている。

断れない性格がカレンダーを埋めていく

私は典型的な「断れない人間」だ。別に聖人でもなんでもない。ただ、断った後の空気が苦手なのだ。「あ、この人困ってるな」「しょうがないな」って思ったら、もう引き受けてしまっている。カレンダーがどれだけ真っ黒でも、予定を入れること自体が「人助け」だと思っている節がある。だがそれが、自分を苦しめている皮肉にも気づいている。

「それならこの日に入れときましょうか」その一言の重さ

依頼者との電話やLINEでのやりとり。「●日って空いてます?」という質問に対して、即答できない時点で察するべきだったのだ。「ちょっと詰まってるんですけど…まあ、なんとかしますよ」。この“なんとかしますよ”が、積もり積もって自分を首絞めることになるのに。手帳に予定を書き込むたび、どこかで「本当に自分がやるべきだったのか?」という問いが浮かぶ。だが、後悔はいつも予定を書き終えた後にやってくる。

空白があると不安、埋まると憂鬱

カレンダーに空白があると「大丈夫か俺?」と焦るくせに、埋まると「また一週間休みがない」と落ち込む。この自己矛盾こそ、今の私を象徴しているのかもしれない。空白=恐怖、予定=苦痛。どう転んでも安らげない心の構造に、最近では諦めの境地すら感じている。まるで冷蔵庫の電気がついているかどうか、毎回開けて確認するような強迫観念だ。

事務員さんの気遣いと、申し訳なさのループ

私の事務所には、ひとりの事務員さんがいる。よく気がつくし、手際もいい。彼女がいなければ今の業務量は到底回せない。けれど、そのぶん「この人にも無理をさせてるんじゃないか」と思うと、申し訳なさでいっぱいになる。そう思ってるくせに、また依頼を受けてしまう。もう、この無限ループからは逃げ出せないのかもしれない。

「また今日もバタバタですね」笑顔が痛い

彼女はよく笑う。「今日も大変ですね〜」と明るく言ってくれる。でもその笑顔が、胸に刺さることがある。本当は休みたいんじゃないか、早く帰りたいんじゃないか。私の「断れなさ」のせいで、彼女まで巻き込んでしまっている。何度か「無理しなくていいよ」と言おうと思ったが、その言葉を飲み込むたびに、何かがこぼれていっている気がする。

人に任せることへの罪悪感と自己嫌悪

「これ、お願いできる?」と言うのに10分かかるタイプだ。頼むことが苦手で、結局自分で抱えてしまう。そして夜中に「ああ、また抱え込んじゃったな」と自己嫌悪に陥る。司法書士の仕事って、信頼が重いからこそ人に任せるのが怖い。でも、自分の限界はとっくに超えているのに、それでも頼れないというのは、プロ意識というよりただの不器用なのかもしれない。

手が回らない業務と“いつか怒られる”恐怖

「あれ、これ処理されてないですよね?」と聞かれるのが怖い。お客さんからの一言に冷や汗が出る瞬間が、最近増えてきた。手が足りないことは自覚してる。だけど、それを誰にも言えない。ギリギリでなんとか回してるふりをするのが日常になっている。“怒られる未来”を常に想像しながら働いていると、精神が消耗していくのが分かる。

モテない人生、恋のスケジュールは空白のまま

カレンダーを埋め尽くしているのは「登記相談」「書類作成」「法務局」ばかり。恋愛の予定なんて、最初から存在しない。そもそもこんな生活じゃ、誰かと出会う暇もない。たまに「結婚しないんですか?」と聞かれると、「そんな余裕ないですよ」と笑って答える。でも、心のどこかでは「自分は選ばれない側」だと、ずっと思っているのかもしれない。

独りで乗り切るしかない、と思っていたけれど

ある日、同業者と久しぶりに話す機会があった。「忙しそうですね」と言われて、「まあ、なんとか」と答えた私に、「でも、なんか疲れてますよ」と笑いながら言われた。それが妙に刺さった。頑張ってるけど、疲れてる。そんな自分に、誰かが気づいてくれるだけで救われた気がした。やっぱり、人と話すって大事なんだなと、しみじみ思った。

カレンダーを見てため息をついた日から、少しずつ

ある朝、予定を確認して深いため息をついた。それを聞いた事務員さんが「予定、少しずつ減らしていきましょうか」とぽつりと言ってくれた。そうか、自分だけで全部抱える必要はないのかもしれない。まずは週に1日、半日でもいい。空白を自分のために確保する。それだけで、ずいぶん気持ちが違った。少しずつ、自分の時間を取り戻していきたいと思う。

「頑張ってるけど疲れた」——その声に正直になってもいい

誰にも言えないけど、正直しんどい日がある。「頑張ってるね」と言われるたびに、頑張ってる自分を演じなきゃいけない気がして、ますます苦しくなる。でも、疲れたって言ってもいいんだ。声に出さなくても、心の中で「もう限界」と呟くことから始めよう。もしかしたら、その小さなつぶやきが、未来の自分を救う一歩になるかもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。