新しい案件より今の整理が優先

新しい案件より今の整理が優先

新しい話より今ある山を崩すことのほうが大事

新しい案件の打診が来ると、正直なところ心が揺れる。忙しくても「頼られている証拠だ」とか「ここで断ったら次はないかもしれない」と思ってしまう。だけど、冷静になって自分のデスクを見ると、今抱えている仕事のファイルが積み上がって崩れそうになっている。そんなとき、「本当に新しい案件を受ける余裕があるのか?」と自問する。野球部時代、キャッチボールですら相手が取りやすいように配慮した。今も同じで、目の前の依頼者にきちんと投げ返せていないなら、新しい相手を迎える資格はないんじゃないかと思うのだ。

「仕事が増える」のは一見嬉しいけど

地方で司法書士をやっていると、「あの先生は忙しいらしいよ」と噂が立つのは、ある意味で名誉なことだ。でも、それが「丁寧にやってくれない」「なかなか連絡が取れない」という印象につながってしまったら本末転倒だ。忙しさが、信用を削ってしまうのは皮肉な話だ。私もかつて、紹介で入った新しい案件を優先した結果、既存のお客様に資料の提出を待たせてしまったことがある。「あれ、どうなりました?」という電話が鳴るたびに胃が痛くなる。その後のフォローは大変で、むしろ倍以上の時間と気力を使った。

新規案件に目がくらむ自分の浅はかさ

「新しい仕事=チャンス」と思ってしまうのは人情だ。特に、毎月の売上に不安があるときほど、つい手を伸ばしてしまう。でもそれって、冷蔵庫の中に腐りかけの食材があるのに、新しい食材を買ってきてしまうようなもの。結果的にどっちも無駄にしてしまう。私も、報酬が高めの新案件を受けたばかりの頃、既存の登記手続きに手が回らず、依頼人から「もう別の事務所に頼みます」と言われてしまったことがある。正直、あの一言はこたえた。手元の仕事をないがしろにして得られる信頼なんて、長続きしない。

実績を増やしたいという焦りが失敗を呼ぶ

開業から数年は、とにかく「件数を稼がなきゃ」と思っていた。履歴に残る数字があれば安心、という気持ちもあった。でも、案件の量が増えるほど「終わらせるためだけの仕事」になってしまいがちだった。ひとつひとつの依頼に思いを込める余裕がなくなり、気づけば「自分がやる意味」を見失っていた。あるとき、事務員から「先生、最近ちょっと雑じゃないですか?」と言われてハッとした。焦りはミスを生むし、自信のないまま案件を重ねるのは、土台のない家を建てるようなものだと、今では思う。

地元では「忙しそう」がステータスになりがち

田舎の世界は狭い。どこで何をしているか、誰と関わっているかはすぐに噂になる。そんな中で「○○先生は今めちゃくちゃ忙しいらしい」という話が出ると、なぜか評価されたような気がしてしまう。でもそれは、ある意味で危うい称賛だ。「忙しいからすごい」という感覚に酔って、自分をすり減らしてしまう。実際、ある年末、私は書類の山を前に事務所で一人、夜中まで働いていた。「忙しいですね」と言われるたび、ちょっと笑ってごまかしていたけれど、内心は「誰か助けてくれ」と思っていた。

頼られるのは嬉しいけど、全部は受けきれない

「先生にしか頼めない」と言われると断りづらい。それがたとえ、自分の手に余る内容でも、「ここで断ったらもう来ないかもしれない」と不安がよぎる。でも、全部受けて全部こなすのは不可能だ。むしろ、無理をして失敗すれば、次に頼まれることすらなくなる。だからこそ、断る勇気が必要なのだ。私も最近、勇気を出して「すみません、少し落ち着いてからでないと難しいです」と返したことがある。すると意外にも「待ちますよ」と返ってきた。人は、ちゃんと説明すれば理解してくれるものなのかもしれない。

机の上の「積み上がった今」を見て見ぬふりしてないか

朝出勤してまず目に入るのは、昨日片付けきれなかったファイルとメモの山。そこにまた新しい依頼や電話が重なると、気持ちがどんよりしてくる。「これ、ちゃんと終わらせてないのに…」という後ろめたさが、常に心のどこかにある。私の場合、未処理の資料が見えるだけで、気持ちが焦ってしまう。たとえるなら、洗い物がシンクに溜まっているのを横目に新しい料理を始めるような感覚だ。やりかけの仕事が視界にあるだけで、集中力が持っていかれるのだ。

整理されない書類の山が精神を削る

書類が物理的に散らかっていると、それだけで頭の中までゴチャゴチャしてくる。あれはどこにしまったっけ?この資料の確認は済んだんだっけ?と、思考が散らばってしまう。私は一時期、整理整頓が本当にできていなくて、探し物に1日30分以上使っていた。30分×月20日=600分、つまり月10時間。それを計算したとき、自分でもゾッとした。その時間を案件処理や休憩に使えていたら…と後悔した。環境が整っていないと、思っている以上に自分の気力と効率は削られていく。

目の前のものを片付けないと脳内も散らかる

一つの仕事が未完のまま残っていると、それがずっと頭の中で「やらなきゃ」「忘れそう」「あとでやろう」と鳴り続ける。まるで通知が消えないスマホのように、脳内のメモリを圧迫していく。実際、私もその状態が続くと集中力が切れて、ミスが増えていた。だから、最近はあえて新しい依頼の着手を遅らせてでも、今あるタスクを完了させるようにしている。脳内の通知を1つ1つオフにしていくと、不思議と気持ちも軽くなって、余裕が出てくる。すると、依頼者の言葉にも前より耳を傾けられるようになった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。