アリバイは登記簿に眠る

アリバイは登記簿に眠る

午前十時の登記完了通知

一通の封筒から始まる違和感

僕の机の上に、青い封筒がぽつんと置かれていた。差出人は市内の不動産業者。中には、登記完了通知書と、簡単な礼状が同封されていた。日付を見た瞬間、僕の眉間にしわが寄った。どう考えても、依頼人が登記の完了時刻に役所にいたとは思えなかったのだ。

届出時間と現場時刻の食い違い

警察から聞いていた被害者の死亡推定時刻は、午前十時前後。奇しくも、その登記の完了時間とほぼ一致していた。登記の完了時刻は記録に残る。まるで、「その時間、私は役所にいた」という完璧なアリバイとして提出されたようだった。

アパートの一室で発見された遺体

他殺か事故かサトウさんの推察

現場写真を見せられたサトウさんは、ため息交じりに呟いた。「これ、たぶん突き飛ばされてるわね。事故じゃない」被害者は室内で転倒して頭を打っていた。だがその痕跡は、ただの転倒には見えなかった。彼女の目は鋭く、そして冷静だった。

司法書士としての違和感

不動産登記の完了時刻は、確かにアリバイとして使える。けれど、登記業務に長年携わってきた僕には、そこに小さな違和感があった。依頼人は、普段は紙の書類を持ち込む主義だったのに、今回はなぜかオンライン申請を選んでいたのだ。

事件関係者と登記依頼人の接点

なぜ登記申請はその日だったのか

依頼人と被害者が交際関係にあったことが判明した。別れ話のもつれだろうか。しかも、その登記は当初、三日後に予定されていたという。急きょ前倒しされた申請日。これもまた、意図的な時間調整のように思えた。

怪しすぎる完了日指定の謎

オンライン申請のタイムスタンプを確認すると、申請自体は前夜の23時台。だが、完了は翌朝10時きっかりだった。あたかも「その時間」に確実に処理されるよう、計画的に仕組まれたように感じた。まるで、ルパンが予告状を出すかのように。

謎を呼ぶ受付番号の時系列

登記簿が語る犯行可能時刻

ふと、受付番号の順序に目が留まった。申請時刻順に並ぶその番号が、その朝の受付状況を雄弁に物語っていた。依頼人の申請番号が、他の9時台の申請より前に処理されていたのだ。つまり、これは自動処理。本人がその場にいる必要はなかった。

「やれやれ、、、」の一言と気づき

その瞬間、僕は小さくつぶやいた。「やれやれ、、、こんな細工、まるで小学生のアリバイ工作だな」アリバイは偽装されていた。僕たち司法書士にとっては、数字とタイムスタンプこそが語る証言者だ。地味だけれど、嘘は見逃さない。

サザエさん的すれ違いと真実の照合

犯人の目論見と一歩足りなかった盲点

依頼人は、登記が完了した時刻にアリバイが成立すると思っていた。でも、僕たちは見逃さなかった。申請処理の順番、事前の申請時刻、そして紙でなくオンラインを選んだという不自然さ。全てが、小さなほころびとして繋がっていた。

司法書士が証明した嘘の時刻

アリバイの崩壊と犯人の動揺

警察に同行し、僕は資料を手に説明した。「彼の言う“その時間は役所にいた”というのは成立しません。本人は、事前に送信しただけで、完了は自動処理ですから」依頼人の顔が一瞬凍りついたのを見て、サトウさんは小さく頷いた。

サトウさんの冷静な仕上げ

「人って、証拠を作ろうとするとむしろボロを出すのよね」彼女は淡々とそう言った。まるで波平さんのスリッパが飛んでくるタイミングのように、絶妙に的確だった。今回も彼女のおかげで、事件は静かに終息へ向かった。

登記簿に残る真実と新しい依頼

地味だが役に立つ職業の逆襲

司法書士という職業は派手じゃない。けれど、地味な記録の中にこそ真実がある。数字と書類と、しつこいほどの手続き。その一つひとつが、今日も誰かの嘘を暴いているのかもしれない。

もう少しだけ続く忙しい日常

「はい次、山田さんの相続登記」サトウさんが冷たく告げる。うんざりしながらも、僕は背筋を伸ばす。やれやれ、、、事件が終わっても、僕らの日常は終わらない。事務所の中にある真実は、今日も静かに眠っている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓