仕事に追われていると、感情が鈍くなる
司法書士として日々いくつもの案件に向き合っていると、いつの間にか「感情」を感じる余裕がなくなってきます。目の前にあるのは、登記申請の締切、相続書類の不備確認、役所とのやりとり…どれも「処理すべきもの」として流れていく。そんな毎日に身を置いていると、人とのやりとりさえも段取りの一部に感じてしまって、誰かの気持ちに触れる機会が減っていくんです。でも、そんなある日、ふいに投げかけられた「ありがとう」が、妙に心に染みる瞬間があるんですよね。
「やるべきこと」だけが目の前にある日常
毎日、やることリストは終わる気配を見せません。書類の作成、確認、郵送、提出…一つ片付けたと思ったら、次の案件がやってくる。「終わった」という感覚がないまま、時計だけがどんどん進んでいく。そんな日々の中で、「人のために働いてる」っていう実感が、どこか薄れていくんですよね。手を抜いているわけじゃない。だけど、心が置いてけぼりになる感覚は拭えません。
感謝を求めて働いてるわけじゃないけれど
別に「ありがとう」と言われたくて司法書士になったわけじゃない。だけど、まったく感謝されない日々が続くと、ふと「何のためにやってるんだっけ？」と考えてしまいます。特に、手続きの遅れや書類の不備で責められることが続いたときなどは、その感情が一層強くなる。やって当たり前、できて当然。そんなプレッシャーが、心を無感覚にさせていくんです。
それでも、報われなさに疲れてしまう
たまに、「これ、自分じゃなくても良かったんじゃないか」と思う案件があります。頑張っても、喜ばれるどころか文句を言われる。そういう瞬間が何度か重なると、心がすり減っていきます。「期待されること」と「感謝されること」は違うんだなと実感する日々です。そしてそのギャップが、じわじわと心にダメージを与えていく。自分で選んだ仕事なのに、どこか置き去りにされてるような孤独感があるんです。
依頼人とのやりとりが機械的になっていく
最初の頃は、依頼人一人ひとりに丁寧に向き合おうとしていました。でも今は、限られた時間と体力の中で効率を求めてしまって、どこか「処理する」感覚になっている自分がいます。マニュアル通りの説明、必要な書類を揃えてもらうための指示。それだけで終わってしまう会話が増えてきた気がします。本当はもう少し、相手の表情や言葉に耳を傾けたいのに、そんな余裕すらなくなってきています。
事務員の一言に救われた昼下がり
そんなある日、ふとした瞬間に、事務員が「先生、最近お疲れですか？ほんとにお疲れさまです」と声をかけてくれたんです。たったそれだけの言葉だったのに、思わず涙が出そうになってしまいました。別に大げさに心配されたわけでもない。ただ、自分の頑張りを見ていてくれた人がいた。それだけで、心がほどけた気がしたんです。
「お疲れさまです」のひと声に心が緩む
その日は、朝から立て続けにトラブル対応があって、昼食も取れずにバタバタしていた日でした。自分では「いつものこと」と思ってこなしていたのに、誰かに「お疲れさま」と言ってもらえたことで、ふと気づいたんです。ああ、ちゃんと頑張ってたんだなって。自分では気づかないうちに、心はだいぶ疲弊していたみたいです。
気づかないうちに、誰かが見てくれていた
毎日一緒に働いている事務員だからこそ、ちょっとした変化に気づいてくれたのかもしれません。「私も同じくらい疲れてるはずなのに」と思うと、逆に申し訳ない気持ちにもなります。でも同時に、「見てくれてる人がいるんだ」という事実が、何よりの救いになりました。たとえ小さな言葉でも、それはちゃんと届くんだと、改めて実感しました。
「ありがとう」が不意に刺さる瞬間
司法書士の仕事には、派手な演出もなければ、拍手喝采もありません。でも、ごくたまに、不意打ちのように「ありがとう」という言葉が飛び込んでくる瞬間があります。それがあまりに優しくて、沁みて、思わず黙り込んでしまうほどです。いつもは流してしまう一言が、ある日ふと、深く心に刺さる。そんな日があります。
高齢の依頼人からの震える声
ある日、相続登記の相談で来られた高齢の女性がいました。何度も書類の書き方がわからずに来所されて、正直こちらとしては業務的に少し困っていたんです。でも、無事に登記が終わった帰り際、その方が深々と頭を下げて、「本当に、本当に助かりました…ありがとう」と言ってくれたんです。声が震えていて、両手をぎゅっと合わせる姿に、胸がじわっと熱くなりました。
たどたどしくても、心のこもった一言
「言葉は不器用でも、こんなにも感謝って伝わるんだ」と感じました。その方の「ありがとう」には、きっといろんな意味が込められていたんだと思います。不安だった気持ち、誰にも頼れなかった思い、やっと終わったという安堵…。それが全部、ひとことの「ありがとう」に詰まっている。どんなに疲れていても、この瞬間のためにやってるんだと、しみじみ思いました。
書類以上に、大事なものを渡せた気がした
司法書士としては、手続きを無事に終えることが仕事。でもそのとき、「自分はこの人に“安心”を渡せたのかもしれない」と思いました。それは、書類以上に大切なものだった気がします。依頼人の人生の一部に関われること。その重みを、あらためて噛みしめました。
「こんな私にでも、役に立てるんだ」と思えた
日々の仕事の中で、自分に価値があるのか分からなくなることがあります。特に、独り身で、家庭もなく、華やかな実績もない自分が、人の役に立てている実感は希薄です。でも、その一言がすべてを変えてくれました。「ありがとう」が心に染みた日、自分がまだ誰かの役に立てていると、素直に思えたんです。
仕事の意味を思い出す日
日々のルーチンに埋もれていると、なぜこの仕事をしているのか見えなくなることがあります。でも、「ありがとう」と言われることで、自分の存在を肯定してもらえたような気がする。そんな日は、初心を少しだけ思い出せるんです。
過去の自分なら聞き流していたかもしれない
駆け出しの頃だったら、「ありがとう」は当然のやりとりとしてスルーしていたかもしれません。でも、経験を重ねるうちに、気づきました。感謝の言葉って、当たり前じゃない。特に、心からの「ありがとう」は、受け取る側の余裕がないと響かないんです。だからこそ、染みるんだと思います。
疲れ切った今だからこそ、沁みる言葉がある
疲れて、心が乾いているときほど、人の優しさが沁みます。元気なときは気づかなかったことに、ふとした瞬間で気づく。それが、「ありがとう」というたった一言だったりします。だから、疲れていることも、悪いことじゃないのかもしれません。その分、優しさを受け取れる器ができているのかもしれません。
「ありがとう」があるだけで、また机に向かえる
どんなにしんどくても、たったひとつの「ありがとう」が、次の日も机に向かう力になります。司法書士として、人と関わり、制度と向き合う日々の中で、この言葉がくれる力は計り知れません。仕事の報酬はお金だけじゃない。心に届く言葉もまた、大切な報酬なんだと思います。
たった一言で、心が整うこともある
誰かに何かをしてあげたとき、その反応がそっけないと「なんだかな」と思ってしまう。でも、「ありがとう」と言ってもらえたら、全部帳消しになるような気がするんです。それほどまでに、一言の力は大きい。だから自分も、誰かに「ありがとう」をちゃんと伝えられる人間でいたいと思うようになりました。
今日も誰かの「ありがとう」を待ちながら
忙しさに埋もれて、落ち込む日もある。でも、それでも事務所に足を運ぶのは、また誰かの「ありがとう」に出会いたいからなのかもしれません。たった一言が、救いになる。それを知っているから、今日も変わらず、仕事を続けています。
