終わったはずの案件がなぜか帰ってくる日々

終わったはずの案件がなぜか帰ってくる日々

終わったはずの案件が戻ってきた朝の絶望感

「あれ?この件、もう片付いてたよな…」と思いながら、机の隅に置かれた封筒を開ける。そこには、かつて終わったと信じていた案件に関する新たな書類。心臓がドクンと音を立てる。「またか…」という感情が、体中に重くのしかかる。司法書士という職業は、確かに慎重さが命だが、どれだけ完璧に処理したと思っても、こうして何かしらの形で戻ってくることがある。この「戻ってくる現象」が日常茶飯事になると、もはや何を信じていいのか分からなくなってくるのだ。

完了報告を出した後の油断が裏目に出る

報告書をまとめ、依頼者にも完了の連絡を入れ、ようやくひと息ついたあの日。いつものように「お疲れ様でした」と自分に言い聞かせて帰路についた。しかし数日後、「先生、ちょっとだけ確認したいことが…」と電話が鳴る。嫌な予感は的中。何かが抜けていた。完了報告を出したという達成感が油断につながる。司法書士の仕事には「ここで終わり」という明確な線がない。やったはずの案件が、まるでゾンビのように蘇ってくる。この業界、安心するタイミングなんて存在しないのかもしれない。

「あれ、まだ終わってなかったんですか」と言われた瞬間

依頼者の言葉はやけに軽く聞こえるが、こちらにとっては地雷だ。心の中で「もう終わったって言ったよね?」と叫びたいが、そんなことを口に出せるはずもない。過去のメールを何度も確認し、やり取りを洗い出す。結果、微妙な表現や、添付忘れのような人間味のあるミスが見つかる。ミスをしたときの恥ずかしさと、それを指摘されたときの情けなさ。どちらも胃に穴が開くほどのストレスになる。そしてまた、自分の確認不足に頭を抱えることになる。

すでに書類をシュレッダーにかけていた悲劇

少しでも机の上を片付けようと、完了済みの書類を処分した日。まさにそれが裏目に出た。「先生、あの書類ってもう手元にありませんか?」という電話に、「ああ…ないです」と答えるしかないときの気まずさたるや。バックアップ?スキャン?そもそもそんな余裕があるなら、とっくにやっている。紙文化が根強く残る業界において、デジタル化の波に乗り切れないまま、手動での整理が裏目に出ることも多い。シュレッダーの前に立っていた自分を、叱りたい。

依頼人からの一本の電話で蘇る記憶

その一本の電話は、不意打ちのようにかかってくる。着信表示に依頼人の名前があると、心臓がキュッと締めつけられるのが分かる。「ちょっとだけ…」と切り出される相談が、予想以上に重たいことはよくある。あのときの会話、あのときの判断、すべてが頭の中で巻き戻される。時間が経った案件は記憶も薄れていて、書類を探すのにも一苦労。過去と現在が交錯し、目の前の作業が止まる。小さな波紋が、大きな負担となって返ってくるのだ。

「すみません、ちょっとだけ…」が長い

依頼人は悪くない。むしろちゃんと確認してくれるのはありがたい。でも、「ちょっとだけ」の電話が30分以上続くと、こちらも心が折れそうになる。「このあと別件があるんだけどな…」という気持ちを押し殺し、丁寧に対応し続ける。終わった案件について話すのは、気持ちの整理がついていない元カノと再会するようなもの。もう終わったはずの感情が、むくむくと蘇ってくる。そしてまた、自分の中で「この仕事、向いてるのかな…」という疑念が頭をもたげる。

地味にメンタルを削られるやりとり

ひとつひとつの言葉が、じわじわと効いてくる。指摘されたことは小さいけれど、「こういうの、多いですよね」と笑いながら言われると、妙に傷つく。自分では「完璧」と思っていたものが、他人の目では「雑」に映っていた。そんな風に思われていたのかと、自己否定の波が押し寄せる。元野球部だった頃は、失敗しても仲間がいた。でも今はひとり。机に向かいながら、心の中で「今日はもう終わりにしたい」と何度もつぶやく。

なぜ案件は終わったはずなのに戻ってくるのか

一度終えたはずの案件が戻ってくる理由はさまざまだ。確認不足、依頼人の認識違い、法務局の対応の変化…。一つひとつは小さなほころびでも、それが連鎖すると精神的にも時間的にも大ダメージになる。原因を突き止めようとすればするほど、深みにはまることもある。完璧を目指しても、どこかで“抜け”は出る。そう思うようになったのは、皮肉にもこの業界に慣れてきた証かもしれない。

自分の確認不足か相手の都合か

実際のところ、自分の見落としなのか、相手の都合によるものなのか、判別が難しいことも多い。契約内容の変更、当事者の気まぐれ、あるいは法律の解釈が微妙に変わることだってある。責任の所在を追いかけるより、目の前の仕事に集中する方が建設的。でも、本音を言えば「またかよ…」とため息が漏れる。誰も悪くないからこそ、やり場のないモヤモヤが残るのだ。

誰も悪くないパターンが一番きつい

書類に不備はない、手続きも正しい、対応も期限内。それでも「戻ってきてしまった案件」はある。法務局側の内部手続きで止まっていたり、関係者の気まぐれで話が蒸し返されたり。こういう時、一番つらいのは“怒る相手がいないこと”だ。怒りも悲しみも向ける先がないから、自分の中に溜まっていく。何事もなかったように処理しながら、心の中で静かに傷が深まっていく。

そういう時に限って時間がない

なぜか、こういう「戻り案件」は、忙しい時期に限って舞い戻ってくる。決算期、月末、連休前…。一番バタバタしている時に、あの封筒やメールが届く。きっと向こうも「今なら返事が早いだろう」と思っているのだろう。だが現実は真逆で、こちらは寝不足と締め切りでフラフラだ。タイミングの悪さに苦笑しながらも、結局は対応してしまう自分がいて、そんな自分にもまた、少し腹が立つ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。