婚活イベントより司法書士会の研修に行ってしまう僕の話

婚活イベントより司法書士会の研修に行ってしまう僕の話

婚活の案内状と研修の通知が同じ日に届いた

ある日のこと。封筒が2通届いていた。1通は市の婚活イベントの案内、もう1通は司法書士会の定例研修の案内状だった。日付を見ると、どちらも同じ土曜日。まるで神様が試しているかのような偶然だった。でも、そんな葛藤も束の間、「研修に行こう」と即決している自分がいた。これが、僕の人生を物語っているような気がして、少し情けなかった。

「また被ったか…」といういつものため息

こういうことは、実は何度もある。市の独身者向けパーティー、友人に誘われた合コン、時には親が用意したお見合いの話。なのに、なぜかいつも研修とバッティングする。いや、たぶん「バッティングするように見えるだけ」で、内心では行かない理由を探しているだけなんだろう。「また研修あるから」と言えば、誰にも文句を言われないし、自分も逃げた気にならなくて済むのだ。

研修:義務でもあるし、行かないと不安になる

司法書士にとって研修は義務である。義務なのだが、出席するかどうかは人による。実際、出ていない人もたくさんいる。でも僕は、出ないと落ち着かない。「知らなかった」が通じない世界だから、不安になるのだ。実務に直結しない内容だとわかっていても、出ておくことで安心できる。これは責任感ではなく、どちらかというと“不安回避”に近い。

誰かに見られてなくても、自分の中で気が済まない

出席していないことを誰かに責められるわけじゃない。でも、自分自身が気にしてしまう。昔、研修に行かずに仕事でミスをして、「あの時出ていれば…」と悔やんだことがある。それ以来、研修を休むと心がざわつくようになった。誰も僕を見ていなくても、自分の中の“監視役”がいるのだ。その監視役は、婚活イベントよりずっと僕に厳しい。

なぜか“出会い”よりも“出席”を選んでしまう

自分でも不思議だが、婚活という響きには腰が引けるのに、「司法書士会の研修」と聞くと身が引き締まる。どちらも“将来のため”なのに、なぜか一方には義務感が伴い、もう一方には気まずさがある。恋愛に関しては長らく逃げ腰で、「きっと誰も僕なんか選ばない」という思いがある。それに比べて、研修は行けば終わるし、誰にも否定されない。そんな安心感が、僕の行動を決めている。

研修という安全地帯に逃げているのかもしれない

恋愛には、うまくいかなかったときのダメージがある。でも研修には失敗がない。出て、聴いて、帰る。それだけで“ちゃんとしてる人”になれる。この手軽さと安心感に、どこか逃げている自分がいる。恋愛では“否定される可能性”があるけど、研修は“受け入れられる場所”なのだ。そういう自分の弱さが、無意識に研修を選ばせている気がする。

異性と会うより、条文と向き合うほうがまだ楽

婚活では、第一印象や話し方、収入や性格が問われる。でも条文には顔もなければ感情もない。ただ静かにそこにあるだけで、僕がどうであろうと否定しない。言い換えれば、条文は裏切らない。研修資料が僕を好きになるわけじゃない。でも、それでいい。何かに拒絶されるくらいなら、最初から受け入れられる場所にいたほうが、傷つかずに済むのだ。

恋愛が怖いんじゃなくて、自分が空っぽなのが怖い

恋愛を避ける理由は、実は“他人”ではなく“自分”にある。婚活に行って、相手に何を話す?自分の仕事の話か?趣味もない。好きなことも聞かれて困る。笑われたくなくて黙ってしまう。自分の中に、話したいと思える“何か”があまりに少ないことが怖いのだ。だから、婚活が怖いわけではない。自分自身を見せる場が怖いのだと思う。

事務員にも「また研修っすか」と苦笑される日常

僕の事務員は20代の女性で、真面目だがドライなところがある。「先生、また土曜は研修っすか?」「ええ、まあ…」そんな会話が週に一度はある気がする。彼女は特に興味もなさそうに笑うだけだが、その笑いが地味に刺さる。自分でも、「またか…」と思っているのだから、他人の反応が余計に響くのだ。

少しバカにされてるけど、反論できない自分

「先生、婚活とか行かないんすか?いい人いないの?」と聞かれたことがある。僕は「いやあ、なかなかね」と笑ってごまかしたけど、内心はザラザラだった。行けてないだけじゃなくて、行く気力もない。誰かにバカにされたとしても、反論できるような“実績”が何もないのだ。だから結局、黙って研修会場に向かうしかない。

「でも行かないと落ち着かないんだよな」と言い訳する

誰に責められてるわけでもない。でも、心のどこかでは「お前、また逃げてるな」と自分が自分に言っている気がする。だから、「いや、今回の研修は業務に直結する内容だから」とか、「このテーマは一応押さえておかないとね」なんて、聞かれてもいないのに言い訳を口にする。誰に言い訳してるんだろう。たぶん自分自身に、だ。

婚活イベントに行かなかった過去の“言い訳リスト”

これまで婚活イベントを断った理由は、いくつもある。仕事が入った、急ぎの登記がある、クライアントと打ち合わせがある…。どれも一理ある。でも、振り返ってみれば“行こうと思えば行けた”はずの日も多い。言い訳が癖になってしまって、逃げ道になっている。それが一番の問題だと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。