法務局よりも近い誰かが、ほしかっただけなんです

法務局よりも近い誰かが、ほしかっただけなんです

事務所と自宅の往復、それだけの毎日

朝8時に事務所に入り、メールチェックと登記の確認。昼過ぎに外回りを済ませて、夕方からまた書類と格闘。気づけば空は真っ暗。自宅に戻ってもテレビはつけっぱなし、コンビニ弁当を片手に無言で咀嚼する夜。そんな生活がもう何年も続いています。悪く言えば単調、よく言えばルーティン。でも、ふと我に返ると、誰とも「ちゃんと話していない」ことに気づいて胸が詰まるんです。

書類は山積み、人との会話は最小限

この仕事は黙々と作業する時間が圧倒的に多い。お客様とは用件を交わす程度で、事務員さんとの会話も「これお願いします」「はい」程度の日もある。昔は「静かで集中できていいな」と思っていたけれど、今はその静けさが苦しい。言葉がなくても仕事は回る。でも、気持ちは回らない。そんな日々が積もっていくと、どこか心がカサカサしてくるのです。

雑談ひとつで救われることもある

ある日、事務員さんが「先生、カップ麺ばかりじゃダメですよ」と言ってくれた。その一言が妙に嬉しかった。彼女は気まぐれにスーパーの惣菜を一緒に買ってきてくれることがある。たったそれだけで、今日は人間として扱われた気がする。形式的な感謝よりも、そんな些細な雑談の方が、どれほど心を救ってくれるか。司法書士という肩書きの前に、一人の人間としての交流が、何よりも貴重なのです。

「ありがとう」を伝える相手がいるかどうか

「ありがとう」と言ってもらえることはある。でも、それを「心で返す」相手がいるかどうかは別の話。登記が無事完了しても、書類のやりとりだけでは関係は終わる。感謝されても、どこか空っぽな気分になるのは、その「ありがとう」が通り過ぎていく感じがするからかもしれません。自分の存在が誰かにとって“役に立った”と実感できる瞬間はあるけれど、“必要とされた”という実感は案外少ないものです。

法務局には用事があっても、心は通わない

毎日のように通う法務局は、もはや職場の延長です。顔なじみの職員さんもいますが、会話は業務連絡ばかり。機械的に受付番号を呼ばれ、機械的に書類を受け取る。淡々とした空気の中、ここで交わされる言葉に感情はありません。人間関係がシステムの一部になってしまったようで、寂しさを感じる瞬間が多々あります。

業務として割り切るのは簡単だけど

「業務は業務」と割り切れば気は楽です。でも、それができないのが人間というもの。ときどき、法務局のカウンター越しに「あぁ、自分ってただの番号でしかないんだな」と虚しくなる日があります。書類は通っても、心は通っていない。そんな気持ちをどう処理すればいいのか分からず、事務所に戻る足取りも重くなります。

もう少しだけ、踏み込んだ関係が欲しいときがある

深い関係を求めてトラブルになるのもご法度。だから一線は引いてきたけれど、それでも“もう少しだけ”話していたいと思うことがある。特に独身で家に誰もいないとなると、仕事中の何気ない一言が、一日で唯一の他人との会話になることだってあるのです。それって、案外重たい現実なんですよ。

「それ、私がやっておきますよ」…そんな一言に救われる

一度だけ、疲れてうっかり書類を出し忘れたときがありました。慌てていた僕に、事務員さんが「もう出しておきましたよ」と笑って言ってくれた。些細なことかもしれないけど、涙が出るほど救われた。仕事って、人と人とのつながりで成り立ってるんだなと、そのとき心から思いました。効率より、温度。そういう瞬間が、働く意味を支えてくれている気がします。

同業のつながりが希薄すぎる問題

司法書士同士って、意外と距離があります。会合では名刺を交換するけど、それっきり。SNSでつながっていても、深く話せるわけじゃない。若い頃は「この業界、同士がいて心強い」と思っていたのに、今では「孤独な戦士の集まり」みたいな感覚に近い。せめて一人、腹を割って話せる司法書士仲間がいたら、どれほど救われるか……。

どうしても「孤独」に慣れてしまう職業

この仕事の性質上、孤独に慣れることが求められます。電話対応もメールも全て一人で処理。誤字脱字に気を配り、印鑑の位置に神経を使い、ミスのない書類を積み重ねるだけの日々。いつの間にか、人との“距離の取り方”ばかり上手くなって、心の近づけ方が分からなくなっている自分に気づきます。

同じ悩みを話せる相手がほしい

どうにもならない悩みって、司法書士の世界にはたくさんあります。例えば「報酬を値切られたけど断れなかった」とか「急な依頼で休みが潰れた」とか。でも、これを話せる相手が少ない。愚痴っぽく聞こえるのが怖くて言えないんですよね。だから余計に孤独になる。でも、みんな同じようなことで悩んでいると思うんです。

SNSに書くにはちょっと重たい話

X(旧Twitter)に「今日もひとりで寂しかった」なんて書いたら、フォロワーが引くだけ。だから結局、誰にも言えず、心の中でぐるぐるするだけ。もっと気軽に「今日、ちょっときつかったね」って言い合える場所があればいいのに。気軽さと深さを両立できる関係って、いまの世の中では本当に貴重なんだなと思います。

愚痴のこぼし先がない

たまの飲み会でも、業界の話になるとどうしてもポジティブな面ばかり話しがち。仕事が大変なんて話したら「じゃあ辞めれば?」と返されそうで言えない。でも、本音はそうじゃない。好きな仕事だからこそ、しんどさもあるし、愚痴もある。それを受け止めてもらえるだけで、明日がちょっとだけ違って見えるんですよ。

「なんでこの仕事選んだんだろう」って考える夜

夜、自宅で一人になると「なぜ司法書士になったんだっけ?」と自問することがあります。誇りを持って始めたこの仕事が、いつの間にか“生活のための作業”になってしまったような気がして。もちろん食べていかなきゃいけない。でも、それだけで終わる人生だったら、あまりにも味気ない。そんなことを考えて、眠れなくなる夜があるんです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。