頼られることが嬉しいはずなのに
司法書士として仕事をしていると、「先生、頼りにしてますよ」と言われることがあります。本来ならば誇らしく思うべき言葉です。でも最近、その言葉を素直に受け取れない自分がいます。むしろ、胸が締め付けられるような気持ちになるのです。応えられないかもしれない不安、十分に尽くせない焦り、そういった感情のほうが強くなってしまうのです。
感謝の言葉が逆に重く感じる瞬間
ある日、相続の相談で来られた年配のご夫婦に「あなたがいてくれて本当によかった」と言われました。一瞬、言葉に詰まりました。ありがたいはずなのに、「この人たちの期待に応えられるだろうか」と不安が押し寄せてきたのです。目の前の信頼に、自分の力が釣り合っていないと感じるのは苦しいものです。
「あなたがいてくれてよかった」と言われて
そのご夫婦とは、一から丁寧に話を聞いて、書類を整え、不安をひとつずつ潰していきました。でも内心では、ミスをしないか、説明が足りているか、何度も何度も自問していました。結果的には無事に登記が完了し、笑顔で帰っていただけましたが、自分の中の「不十分だったかもしれない」という思いは消えませんでした。
その期待に応えられない自分が嫌になる
期待を裏切ってしまうことが怖い。それが年々強くなってきているような気がします。歳を重ねるごとに、経験と知識がある分だけ「失敗してはいけない」というプレッシャーが重くのしかかる。自分を追い込んでしまう癖が、余計に辛さを増幅させるのかもしれません。
余裕のなさが優しさを奪っていく
昔は、どんなに忙しくても笑顔で対応することができました。でも今は、事務員が少しミスをすると、きつい言い方になってしまうこともある。そんな自分が嫌になります。余裕がないと、人に優しくする余地もなくなるんですね。いつの間にか、自分が自分じゃなくなっていく感覚があるのです。
事務員への当たりの強さに気づくとき
事務員の子が、あるときふと「すみません、私のせいですね」とぽつりと呟いたんです。そのとき、ハッとしました。怒ったつもりはなかったけれど、態度や言葉が刺さっていたんだと。彼女が悪いわけじゃないのに、自分のイライラをぶつけてしまったことに気づいて、深く反省しました。
忙しさのせいにして逃げている自分
「忙しいから仕方ない」と思い込んでいたけれど、それは逃げだったのかもしれません。本当は、もっと落ち着いて対処する方法もあったのに、自分の感情に任せてしまった。そういう積み重ねが、人との信頼関係を少しずつ蝕んでいくのだと、改めて痛感しました。
一人で背負いすぎた結果
この仕事は孤独です。相談される側なのに、誰にも相談できないことが多い。全部、自分で解決しなければならない。そうやって一人で背負っていると、だんだん心が重くなっていきます。相談者の「助けて」に、心から「任せてください」と言えない日もあります。
断れない性格が限界を招く
「ちょっとだけでいいから」と頼まれると、つい断れずに引き受けてしまう。そうして自分の予定は後回し、昼ごはんも抜き、夜まで机にかじりつく。最初はそれでも何とかなっていたけれど、体力も気力も限界が見えてきました。無理をしても喜ばれない結果になることもあるのです。
「ついでにお願い」から崩れていく日常
あるとき、別件の依頼人から「ついでにこの書類も見ておいて」と言われ、軽い気持ちで受けたことがありました。でもその書類に思わぬミスが見つかり、修正に追われる羽目に。しかもそのせいで本来の仕事が遅れて、他の案件にも支障が出てしまった。小さな頼みごとが、大きな負担になるときがあります。
休みの日もスマホが鳴る恐怖
日曜の朝、ようやく布団の中でぼんやりしているとスマホが鳴る。「お急ぎの件」とわかっていても、心の中では「またか…」とため息が漏れる。そんな風に休みが休みでなくなる感覚が積み重なって、休日にも緊張感が抜けなくなってしまいました。
一人事務所の孤独と責任
職員がひとりしかいない事務所というのは、良くも悪くもすべて自分の責任です。うまくいけば自分の手柄、でもうまくいかなければ全部自分のミス。それが当たり前になってくると、プレッシャーに押しつぶされそうになる日もあります。
相談できる相手がいない日々
「これってどう判断すべきか？」という場面でも、周りに聞ける人がいない。仲間も先輩もいない場所で、判断を一つ間違えるだけで信頼を失う。そんな現場にいると、判断すること自体が怖くなってしまいます。ひとりきりの壁打ちのような日々が、知らず知らず精神をすり減らしていくのです。
失敗も全部自分のせいという現実
どんなに努力しても、たった一つの見落としで信頼は失われる。しかもその責任は、事務所の代表である自分に全て降りかかってくる。その現実に、何度も押しつぶされそうになります。誰も責めないけれど、自分が責め続ける。そんな夜が、たまらなく苦しいのです。
自分を責める癖から抜け出せない
人に頼られると「応えたい」と思う。でも応えられなかったとき、自分をひどく責めてしまう。この繰り返しが、心のどこかを蝕んでいくのがわかります。優しくなりたいのに、優しくなれない。完璧を求めすぎて、結局誰にも届かない。そんな自分に疲れてしまうこともあります。
「もっとやれたはず」が頭を離れない
どんな仕事も終えたあと、「もっとできたんじゃないか」「あのときこうすれば」と考えてしまいます。まるでスポーツの試合を振り返る元野球部のクセが抜けないような感覚。けれど仕事においては、その反省が自己否定へと変わりやすく、心の負担となって残り続けるのです。
ミスじゃないのに自己否定する癖
客観的には問題なかった案件でも、「もっとスムーズにできたかも」「もっと安心させられたかも」と悩みが頭をよぎる。結果が良くても納得できないのは、期待に応えたい気持ちが強すぎるからかもしれません。でもそれが積み重なると、心がすり減っていくのです。
自己評価の低さが悪循環を生む
どうせ自分は大したことができていない——そんな思いが根底にあると、どんなに評価されても素直に受け取れません。頼られても、それに見合っていないと思ってしまう。だから応えられないときの苦しさは倍増します。そしてまた自分を責める。そういう悪循環から、なかなか抜け出せずにいます。
