気づいたら秋になっていたある日のこと
朝、事務所に向かう途中の道端で、ふと金木犀の香りに気づいたとき、思わず立ち止まりました。「あれ、もう秋か」と小さく呟いた自分に驚いたのを覚えています。日々の仕事に追われていたせいで、夏が終わったことにさえ気づかなかった。冷房の効いた部屋と、パソコンの光の中で暮らしていると、季節なんてものは頭の中から消えてしまうものです。司法書士の仕事は、決まった書類、決まった手続き、そして決まったルールの中で成り立つ。それゆえに、日常がどこまでも「いつものこと」になってしまう。そんな中で、季節が変わっていたという事実に、なんとも言えない虚しさと、ほんの少しの救いを感じました。
コンビニのおでんが季節を教えてくれた
あの日、昼休みに立ち寄ったコンビニで、「おでん始めました」ののぼりが出ていました。それを見て、ようやく季節の移ろいに気づいたのです。そういえば、蝉の声もしなくなった。朝の風が少し冷たくなった。けれど、そんなことさえも、意識の外に追いやっていた自分に気づき、思わずため息が出ました。季節というのは、本来もっと肌で感じるものだったはずです。でも、目の前の案件、締め切り、依頼者対応に追われる日々の中で、そんな感覚はどこかに置き去りにされていた。おでんの湯気が、なんとも言えないやさしさで、心に染み込んできたのを覚えています。
仕事に追われる日々で見失う感覚
朝起きて、メールを確認し、電話を取り、役所に行き、事務所に戻って書類を作る。その繰り返しの中で、感覚はどんどん鈍っていきます。五感で季節を感じる余裕なんて、どこにもない。特に、ひとりで事務所を回しているような日には、昼食もコンビニで済ませ、誰とも会話をしないことさえある。こんな生活の中で、何を感じろというのかと、思わず投げやりになる瞬間があるんです。
ふとした瞬間に訪れる違和感
でも、そんな中でもふとした瞬間に「あれ？」と思うことがあります。たとえば、朝事務所の鍵を開けるときの風の冷たさ。誰かが送ってきた書類の封筒に貼られた紅葉柄の切手。何気ないところに、ちゃんと季節は顔を出している。気づかないのは、自分の感覚が閉じているから。そう思ったとき、少しだけ自分が情けなくなりました。
忙しさと季節感のすれ違い
忙しいというのは、言い訳になる。でも実際、時間が過ぎていくスピードに、心が追いついていかない感覚は常にある。気がつけば季節だけでなく、年齢も重ねている。何かを感じる余裕がなくなることほど、怖いものはありません。特に、日々の仕事に誠実であろうとすればするほど、生活が単調になりがちです。
四季に鈍感になるという悲しさ
四季のある国に住んでいながら、それを味わえないというのは、なんとも損をしているような気がします。昔は、春には花見、夏には海、秋には紅葉、冬には鍋と、それなりに季節を楽しんでいたのに、今はどうでしょう。季節イベントなんて他人事のように感じる。自分の生活に四季がないというのは、少し寂しいことです。
自然の変化に気づけない日常
一番怖いのは、それに慣れてしまうことです。今日と同じような明日が来ることが当たり前になってしまい、外の世界の変化に対して無関心になる。その無関心が、自分自身の老化や孤立につながるんじゃないかという不安が、時々よぎるんです。自然に目を向けることが、自分の心の健康にもつながっていると気づかされました。
毎日がコピーのような仕事の繰り返し
司法書士という仕事は、ルールに則った手続きを正確にこなすことが求められます。それ自体は重要なことであり、誇れる仕事でもあります。でも、その日々の繰り返しの中で、心がどんどん無機質になっていくのを感じることがあります。特に個人事務所の場合、自分の時間と仕事の境界線があいまいで、余計にルーティンに飲まれてしまうのです。
午前中は電話とメール、午後は書類
毎日のスケジュールはほぼ固定です。午前中は依頼人や役所からの電話とメールへの対応で終わり、午後は各種書類のチェックと作成、そして登記の申請。そうこうしているうちに日が暮れて、事務員も帰宅。気づけば自分一人が事務所に残り、コーヒーの残り香の中で書類と向き合っている。これは、毎日のように繰り返されている光景です。
今日が何曜日かも曖昧になる
「あれ？今日って火曜日だっけ？」そんな風に曜日感覚さえ曖昧になってくることがあります。祝日すらスルーしてしまい、気づけばカレンダーがめくられていない。曜日にメリハリがなくなると、生活全体がぼんやりしてくる。これは心にもよくない。特に孤独な仕事環境では、それが加速していきます。
人と話すのは事務員と依頼人だけ
1日の会話量が極端に少ない日があります。事務員とほんの少し話して、あとは依頼人と形式的な会話。それだけで1日が終わる。以前、役所の担当者と雑談したとき、「先生、最近疲れてません？」と言われたことがあります。普段話さない分、ちょっとしたひと言にぐさっと来るんです。
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気づいたら秋になっていたある日のこと
朝、事務所に向かう途中の道端で、ふと金木犀の香りに気づいたとき、思わず立ち止まりました。「あれ、もう秋か」と小さく呟いた自分に驚いたのを覚えています。日々の仕事に追われていたせいで、夏が終わったことにさえ気づかなかった。冷房の効いた部屋と、パソコンの光の中で暮らしていると、季節なんてものは頭の中から消えてしまうものです。司法書士の仕事は、決まった書類、決まった手続き、そして決まったルールの中で成り立つ。それゆえに、日常がどこまでも「いつものこと」になってしまう。そんな中で、季節が変わっていたという事実に、なんとも言えない虚しさと、ほんの少しの救いを感じました。
コンビニのおでんが季節を教えてくれた
あの日、昼休みに立ち寄ったコンビニで、「おでん始めました」ののぼりが出ていました。それを見て、ようやく季節の移ろいに気づいたのです。そういえば、蝉の声もしなくなった。朝の風が少し冷たくなった。けれど、そんなことさえも、意識の外に追いやっていた自分に気づき、思わずため息が出ました。季節というのは、本来もっと肌で感じるものだったはずです。でも、目の前の案件、締め切り、依頼者対応に追われる日々の中で、そんな感覚はどこかに置き去りにされていた。おでんの湯気が、なんとも言えないやさしさで、心に染み込んできたのを覚えています。
仕事に追われる日々で見失う感覚
朝起きて、メールを確認し、電話を取り、役所に行き、事務所に戻って書類を作る。その繰り返しの中で、感覚はどんどん鈍っていきます。五感で季節を感じる余裕なんて、どこにもない。特に、ひとりで事務所を回しているような日には、昼食もコンビニで済ませ、誰とも会話をしないことさえある。こんな生活の中で、何を感じろというのかと、思わず投げやりになる瞬間があるんです。
ふとした瞬間に訪れる違和感
でも、そんな中でもふとした瞬間に「あれ？」と思うことがあります。たとえば、朝事務所の鍵を開けるときの風の冷たさ。誰かが送ってきた書類の封筒に貼られた紅葉柄の切手。何気ないところに、ちゃんと季節は顔を出している。気づかないのは、自分の感覚が閉じているから。そう思ったとき、少しだけ自分が情けなくなりました。
忙しさと季節感のすれ違い
忙しいというのは、言い訳になる。でも実際、時間が過ぎていくスピードに、心が追いついていかない感覚は常にある。気がつけば季節だけでなく、年齢も重ねている。何かを感じる余裕がなくなることほど、怖いものはありません。特に、日々の仕事に誠実であろうとすればするほど、生活が単調になりがちです。
四季に鈍感になるという悲しさ
四季のある国に住んでいながら、それを味わえないというのは、なんとも損をしているような気がします。昔は、春には花見、夏には海、秋には紅葉、冬には鍋と、それなりに季節を楽しんでいたのに、今はどうでしょう。季節イベントなんて他人事のように感じる。自分の生活に四季がないというのは、少し寂しいことです。
自然の変化に気づけない日常
一番怖いのは、それに慣れてしまうことです。今日と同じような明日が来ることが当たり前になってしまい、外の世界の変化に対して無関心になる。その無関心が、自分自身の老化や孤立につながるんじゃないかという不安が、時々よぎるんです。自然に目を向けることが、自分の心の健康にもつながっていると気づかされました。
毎日がコピーのような仕事の繰り返し
司法書士という仕事は、ルールに則った手続きを正確にこなすことが求められます。それ自体は重要なことであり、誇れる仕事でもあります。でも、その日々の繰り返しの中で、心がどんどん無機質になっていくのを感じることがあります。特に個人事務所の場合、自分の時間と仕事の境界線があいまいで、余計にルーティンに飲まれてしまうのです。
午前中は電話とメール、午後は書類
毎日のスケジュールはほぼ固定です。午前中は依頼人や役所からの電話とメールへの対応で終わり、午後は各種書類のチェックと作成、そして登記の申請。そうこうしているうちに日が暮れて、事務員も帰宅。気づけば自分一人が事務所に残り、コーヒーの残り香の中で書類と向き合っている。これは、毎日のように繰り返されている光景です。
今日が何曜日かも曖昧になる
「あれ？今日って火曜日だっけ？」そんな風に曜日感覚さえ曖昧になってくることがあります。祝日すらスルーしてしまい、気づけばカレンダーがめくられていない。曜日にメリハリがなくなると、生活全体がぼんやりしてくる。これは心にもよくない。特に孤独な仕事環境では、それが加速していきます。
人と話すのは事務員と依頼人だけ
1日の会話量が極端に少ない日があります。事務員とほんの少し話して、あとは依頼人と形式的な会話。それだけで1日が終わる。以前、役所の担当者と雑談したとき、「先生、最近疲れてません？」と言われたことがあります。普段話さない分、ちょっとしたひと言にぐさっと来るんです。
変わらない毎日に変わらない自分
このままでいいのか。そう思うことが、月に一度はあります。45歳、独身、元野球部。体力も気力も、それなりにはあるけれど、人生の節目らしきものが見当たらない。変わらない毎日が続き、ふと振り返ると季節だけが過ぎていく。この先も変わらずに年を重ねるのかと思うと、少しだけ怖くなるのです。
45歳独身司法書士の孤独
結婚に対して焦りがあるわけではありません。でも、「このまま一人で年を取っていくのか」と思ったときに、ふと寒気がするような感覚になります。特に、夜の静まり返った事務所で一人、書類に囲まれているとき。「もうちょっと賑やかでもよかったかな」と思ったりもするんです。
気づいたら「来年もこのままかな」と思っている
1年が経つのが早すぎる。気づいたら年末で、「今年何か変わったっけ？」と自問する。でも、答えはいつも同じ。「いや、何も変わってないな」。だからといって何かを変える勇気もなくて、ただ同じ生活を繰り返してしまう。変化を恐れている自分がいるのかもしれません。
恋愛はもう非現実の話
昔は合コンにも行ってました。でも、今は誘われることもないし、誘われたとしても気が進まない。自分の生活が「恋愛」というフィールドから完全に外れてしまったように感じます。テレビドラマでキスシーンを見ると、「へぇ〜」くらいの感想しか出てこない自分に気づいて、ちょっと寂しくなったりします。
それでも季節は回っていく
自分が気づこうと気づくまいと、季節は確実に移り変わっていく。桜は咲き、梅雨が来て、蝉が鳴いて、また金木犀が香る。それを感じられるかどうかは、自分次第なんですよね。少しだけ、意識して周りを見てみる。それだけで、少し心が動く気がするんです。
変わらない日々の中にも何かを見つけたい
どんなにルーティンな日々でも、小さな変化はあります。朝の空の色が違ったり、事務員が新しいヘアスタイルにしてきたり。そういう細かい変化を見逃さないようにするだけでも、日常が少しだけ違って見える気がします。変化を起こすのではなく、変化を見つけることから始めたいのです。
朝の空気の匂いが違った日
ある朝、事務所のドアを開けたとき、空気がいつもと違うことに気づきました。湿度が低くて、少し肌寒くて、でもなんだか気持ちいい。そのとき「あ、季節が変わった」と感じたんです。何でもないようなことだけど、その小さな気づきにちょっとだけ救われた気がしました。
事務員のひと言に救われたこと
「先生、今日は空がきれいですね」——何気なく言われたそのひと言に、思わず外を見ました。たしかに、雲ひとつない秋の空。そういうの、久しく見ていなかったなと感じました。人に言われて初めて気づくこともある。自分ひとりで全部を感じようとしなくてもいいんだなと、少し肩の力が抜けました。
「気づくこと」がささやかな希望になる
自分の生活を大きく変えるのは難しい。でも、日々の中の小さな変化に気づけるようになること。それだけで、少しだけ人生に彩りが戻ってくるように思えます。変わらない毎日を過ごしていても、「今日は違う風が吹いていた」と思えたら、それは前進かもしれません。
季節に気づけた自分を少しだけ褒めたい
秋に気づいたあの日の自分を、ほんの少しだけ褒めてあげたくなりました。忙しさの中でも、ほんの一瞬、立ち止まれた自分を。これからも、そんな「立ち止まりの瞬間」を忘れずにいられたら、もう少し楽に生きられるかもしれません。
明日も同じ日でも、違う気持ちで始めたい
明日もきっと、今日と同じように書類と向き合う日になるでしょう。でも、気持ちは少しだけ違う。「あの花はまだ咲いているかな」とか、「空気はどんな匂いかな」とか、そんなことを考えながら歩けたら、それはもう違う一日なんだと思います。
