愚痴をこぼすしかない朝の始まり
朝、目が覚めた瞬間から今日も仕事が始まる。時計を見ると、まだ起きたくない時間。けれど、司法書士という職業は、待ってはくれない。着慣れたスーツに袖を通し、アイロンをかける手もどこか重たい。今日も愚痴が先に頭をよぎる。大きな事件があるわけでもない。ただ、積もり積もった小さな面倒が、じわじわと気力を削っていく。そんな日々の繰り返しに、気づけば笑うことすら忘れている気がする。
スーツにアイロンをかけながらため息
洗いたてのYシャツにアイロンをかけながら、「なんで自分だけこんなに忙しいんだろうな」と独り言。誰にも聞こえない声で、毎朝つぶやくこのセリフが、最近すっかり習慣になってしまった。かつては朝練に向かう元気な高校球児だったのに、今じゃ朝の数分が苦痛で仕方ない。仕事に追われる毎日、考える暇すらない。でも、だからこそアイロンをかける数分が、唯一、立ち止まって愚痴を言える時間なのかもしれない。
予定表を見ただけで気が重くなる
机の上に広げた予定表。赤ペンでびっしり書かれた案件の数々。登記、相談、役所まわり。ひとつひとつはそれなりに意味のある仕事だと分かっている。でも、それが何十件も並んでいるのを見ると、やる気なんてどこかに飛んでいく。月末が近づくと「終わる気がしない」が口癖になる。こうして毎日、予定表をにらみながら、無意識に溜息をつく自分がいる。自営業って、自由そうで全然自由じゃない。
天気も気分もどんよりなスタート
カーテンを開けると、どんより曇った空。まるで自分の気分を映したかのような天気だ。天気のせいにはしたくないけれど、やっぱり曇りや雨の日は、気持ちが沈む。通勤は徒歩数分。だからこそ、逆に気持ちの切り替えができず、気分を引きずったまま事務所に着いてしまう。これが片道1時間の電車通勤なら、眠るか読書するかでリセットできるのかもしれないが、近すぎるのも善し悪しだ。
事務員の一言に救われる朝もある
そんな暗い気分を少しだけ和らげてくれるのが、事務員さんの存在だ。年下だけどしっかり者で、いつも淡々と業務をこなしてくれる。僕が朝から不機嫌そうにしていても、さりげなく話しかけてくれるのがありがたい。無理に励まさないところも、逆に救いになる。愚痴を聞いてくれとは言わない。でも、誰かの存在があるだけで、少しだけ心が落ち着く。そういう距離感が、今の僕にはちょうどいい。
「先生、コーヒーいれましょうか?」の魔法
「先生、コーヒーいれましょうか?」と言われた瞬間、心の中で「ありがとう」と叫んでいる。あの一言には、本当に救われる。温かいコーヒーと一緒に、少しの会話を交わすだけで、不思議と心がほどけてくる。ちょっとした雑談が、朝のバタバタを中和してくれる魔法のようなものだ。決しておおげさなやり取りではない。でも、そのささやかな気遣いが、僕を事務所に留めている理由の一つかもしれない。
それでも締切は待ってくれない
ひと息ついても、やることは減らない。むしろ、待っているのはプレッシャーの塊のような案件たち。書類のミスは許されないし、クライアントからの電話はどれも急ぎ。緊張感の連続に、また胃が重くなる。司法書士はミスできない職業だ。責任の重さを背負いながら、ひとつひとつに向き合う毎日。たとえコーヒーで一息ついても、その先には容赦ない現実が待っている。それが、この仕事の常だ。
やってもやっても減らない業務
気合を入れてデスクに向かっても、なぜか終わらない。処理しても処理しても、次の仕事が舞い込んでくる。まるで底の抜けたバケツに水を注いでいるような気分になる。午前中のうちに片付けようと思っていた案件も、電話対応や飛び込みの相談で後回し。結局、今日もToDoリストはほとんど消えずに一日が終わる。こういう日が続くと、「このままでいいのか」と、つい考えてしまう。
登記の波に飲まれて溺れそう
一件ずつ、誠実にこなしているつもりだ。でも、登記の波はひっきりなしに押し寄せる。しかも、その多くは複雑で、期日が迫っているものばかり。分かっていても、気持ちが追いつかない。集中力も途切れがちになり、ミスを恐れて作業が遅くなるという悪循環。昔はもっと要領よくやれていた気がするが、今は慎重さばかりが増して、スピードがついてこない。そんな自分に、また落ち込む。
手続き一つにも神経を削られる日々
登記って、正直地味な仕事だ。でも、地味だからこそ怖い。ひとつのミスでお客様に迷惑がかかるし、信用問題にもなる。だから、細部まで何度も確認して、神経をすり減らす。おかげで帰るころには、どっと疲れが押し寄せてくる。誰に褒められるでもなく、ただ黙々と正確さを求められる仕事。たまに「好きでやってるんですよね?」と聞かれるが、正直なところ、好きかどうかすら分からなくなってきた。
「またこのパターンか」の連続
不動産登記にも商業登記にも、ある程度の“パターン”がある。でも、そのパターンに慣れたところで、楽になるわけじゃない。むしろ、似たような手続きを延々と繰り返すことで、ミスのリスクが増えることもある。油断が命取りになる仕事だ。「またこのパターンか」と思ったときこそ、注意が必要。分かっていても、気が緩むこともある。だから毎回、気持ちを切り替えるのに一苦労だ。
電話は鳴るのに恋のベルは鳴らない
この仕事を始めてから、プライベートはどんどん後回しになっていった。電話はひっきりなしに鳴るけど、恋のチャンスはまったく鳴らない。元野球部で少しはモテた時期もあったけど、今は見る影もない。独身生活が長くなりすぎて、誰かと暮らす想像すらできない。街中で幸せそうなカップルを見ると、心の中で「いいなあ」とつぶやくが、それ以上は踏み込めないまま、今日も仕事に戻る。
元野球部だったのが唯一のモテ要素だった
高校時代は坊主頭で毎日泥だらけになっていた。だけど、あの頃はそれなりに注目もされたし、打席に立てばチャンスがあると思えていた。でも今は違う。仕事でどれだけ頑張っても、誰かが評価してくれるわけじゃないし、恋愛においても打席に立つ機会すらない。元野球部という過去の肩書きも、今や自虐ネタでしかない。時々、昔のバットを眺めながら、「あの頃はまだ夢があったな」と思う。
45歳独身、そろそろ諦めも必要か
周囲の同級生はほとんど結婚して、子どももいる。年賀状には家族写真。正直、それを見て焦る気持ちもあった。でも、最近はもう焦りよりも「まあ、このままでもいいか」と思うようになってきた。寂しさはあるけど、それよりも日々を無事に終えることで精一杯。結婚がゴールだとは思わない。でも、何か一緒に笑える人がいたら、それだけで救われる気がする。そう思うのに、また今日も一人の夜が来る。