裁判所常連の肩書がついてしまった

裁判所常連の肩書がついてしまった

裁判所常連の肩書がついてしまった

裁判所の受付に名前を呼ばれるようになった日

最初は「お世話になります、〇〇司法書士事務所の稲垣です」と名乗っていたのに、ある日を境に、受付の方から「稲垣さん、どうぞ」と呼ばれるようになった。正直、誇らしさよりも恥ずかしさが勝った。これってもう顔パスってこと?そんな気持ちが交錯するなか、「あ、今日は少し混んでますね」と、受付の人と雑談するまでになってしまった。知らぬ間に、裁判所が“行きつけの店”みたいになっていた。

最初は丁寧だった対応が変わっていく

かつては一件一件の相談ごとにドキドキしていた。書記官の名前をメモして、間違えないように手続きして。でも、月に何度も足を運んでいるうちに、書記官の方から「今回はどういう内容ですか?」と聞かれるようになった。それはそれでありがたいのだが、どこかで緊張感がゆるんでしまうのも事実だ。相手も人間、対応がフレンドリーになってくると、こちらもつい気を抜いてしまう。

笑顔より先に「また来た」が飛んでくる

つい先日、窓口に書類を持っていくと「また来たね」と笑顔で言われた。笑顔なのが救いではあるが、その言葉には少々の皮肉も混じっていたように感じた。まるで常連の居酒屋に入って「いつものね」と言われたような気分だ。喜んでいいのか、反省すべきなのか。いや、たぶん後者なのだろう。

書類の内容よりも顔で覚えられる恐怖

事件番号や当事者名ではなく、「ああ、稲垣さんの件ですね」と言われるようになると、なんだか気恥ずかしい。書類のプロであるはずが、顔と名前で認識されている。しかもそれが数件ではない。まるで“裁判所付き”の司法書士のような錯覚に陥る。確かに仕事はしているが、これはちょっと違うんじゃないか。

通い詰める理由なんてこちらも聞きたい

なぜか不思議と依頼が重なる時期がある。登記業務が一段落したと思ったら、今度は調停や訴訟の案件がドッと入る。まるで天気のように読めないのがこの仕事。だからこそ予定が立たない。裁判所通いが続くと、事務員からも「また裁判所ですか」と呆れ顔で言われる始末。自分だって行きたくて行ってるわけじゃない。

依頼が重なる不思議な法則

なぜか月末になると、トラブルの依頼が増える。給料日が関係してるのか、それとも“今月中に”という心理が働くのか。とにかく「緊急です」「すぐお願い」と言われる案件が重なる。そして、結果的にこちらは毎週のように裁判所へ通う羽目になる。ある意味、季節感のない四季折々の修羅場だ。

なぜか同じ日に複数の訴状が届く

郵便受けを見た瞬間に嫌な予感がする日がある。あれ、この厚みは…と封筒を手にした瞬間、やっぱり裁判所からの訴状だ。しかも一通だけじゃない。時には三通、四通が重なることもある。事務員も「開封作業が怖い」と言う始末。こっちは心臓が縮み上がる。

調停に巻き込まれるのは予定外

本人訴訟の相談に乗っていたはずが、なぜか調停の場に呼ばれる展開に。手続きだけのはずだったのに、気づけば関係者みたいな立ち位置にされている。そうなると裁判所に行く回数も増える。予定にない日も裁判所に呼ばれると、もはやこれは“第二の職場”だと思えてくる。

裁判所の中での雑談が日課になる異常

裁判所というのは、本来は緊張感のある場所だ。だが、何度も足を運ぶうちに、雑談が交わされるようになる。「最近忙しいですか?」なんて言われて、「まあまあですね」と返している自分がいる。そのやりとりが自然になってしまったら、もう手遅れだと思う。

書記官の方が事務所の状況に詳しい

あるとき、書記官に「この間の案件、終わりました?」と聞かれて驚いた。自分の事務所の進捗を、裁判所の人に聞かれる日が来るとは思ってもみなかった。しかも的確なタイミングで聞いてくる。まるで自分の仕事仲間かのように思えてくる。

雑談が「最近どう?」から始まる

裁判所で書類の確認を待つあいだ、つい話しかけられる。「最近どう?」と。これ、親戚か美容師のセリフだよな…と思いながらも「いやあ、例の件でてんやわんやです」と返してしまう。ふと我に返ると、ここは裁判所だと再確認する。

裁判所で人生相談を受けた日の話

とある午後、書記官の方から「実はうちの家族もトラブルがありまして…」と切り出された。まさかの逆相談。一応、専門家として真面目に答えたが、なんだか立場が曖昧になっていくような感覚が残った。あの日は仕事じゃなくてカウンセリングだった。

それでも行かざるを得ない日常

裁判所が好きなわけじゃない。行かないで済むなら行かないほうがいいに決まっている。でも依頼があれば動くしかない。小さな事務所だからこそ、断る余裕なんてないし、逃げ場もない。気づけばまた裁判所へ。きっと明日も、書記官の笑顔が待っている。

仕事だから仕方ないのだけど

割り切っているつもりでも、やっぱり気持ちはすり減る。「このペースで通ってたら、マジで机持ち込んだ方が早いんじゃないか」なんて冗談も、もう冗談に聞こえなくなってきた。昔は法務局ばかりだったのに、今では裁判所がメインステージになっている。これが時代の流れなのか、それとも自分の運命なのか。

お客様第一と自分に言い聞かせる

誰のためにやっているのか。そう考えたときに、やはり依頼者の顔が浮かぶ。面倒な案件でも、疲れていても、「先生がいて助かった」と言われる瞬間があるからやっていける。だから、今日もまた裁判所に向かう。誰かのために動く、それが自分の役割なんだと自分に言い聞かせる。

自虐をネタにでもしないとやってられない

この業界、真面目にやってるだけじゃやっていけない。だからこそ、ちょっとしたネタや自虐が大事になる。笑ってくれる人がいると救われる。「また裁判所ですか?」「そう、今日も元気に通ってます」そんな会話が、自分の救いになっている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓