司法書士としての第一歩は「不安」から始まった
司法書士試験に合格したときは、正直ホッとしたというより、「これからどうするんだ…」という不安が勝っていた。資格を取ったからといって、すぐに食っていけるわけでもない。地方での開業となればなおさらだ。自宅兼事務所の看板を掲げた日は、近所の視線がやけに冷たく感じた。スタート地点に立ったはずなのに、誰からも祝福されることのない静かな船出だった。
資格を取っても仕事があるとは限らない現実
勉強している間は「資格さえ取れば何とかなる」と思っていた。しかし、実際は「資格を取ってからが本番」だった。広告費をかける余裕もなく、紹介もゼロ。電話は鳴らないし、来客もない。毎日机に座っているだけで、時間だけが過ぎていく。コンビニのレジ打ちの方がまだ社会とつながってる気がして、情けなさと焦りが募るばかりだった。
合格の喜びと、すぐに押し寄せた孤独感
合格発表の翌日、同期たちは都内の大手事務所に入所が決まり、飲み会で盛り上がっていた。SNSには「これからが楽しみ!」というポストが並ぶ中、私は田舎の実家に戻り、畳の上で天井を見つめていた。「合格=ゴール」なんて、幻想だった。むしろここからの孤独こそが本当のスタートだったと、後から気づくことになる。
周囲と比べてしまう自分が嫌になる
比較しても意味がないと分かっていても、どうしても周囲の同期と比べてしまう。「あいつはもう法人の役員か」「あの子はYouTubeで解説チャンネル始めたらしい」などと聞くたびに、自分がどんどん置いていかれるような気がした。そんな自分を「情けない」と思う。でも、それを止められない。そんな日々が、今でも続いている。
最初の依頼が怖すぎて震えた話
開業して3ヶ月、ようやく来た最初の依頼は、亡くなったお父さんの相続登記だった。何度もマニュアルを読み返し、書類をチェックしたが、手が震えるのは止められなかった。万が一、登記が通らなかったらどうしよう。家族の大事な手続きを台無しにしたらどうしよう。そう思うと、毎晩寝る前に吐き気がしていた。
「これ、間違ってたらどうしよう」という悪夢
司法書士の仕事は、形式がすべて。書類に不備があれば容赦なく却下される。そんなことは分かっていたのに、最初の依頼では細かなミスが怖くて、何度も同じ箇所を確認した。にもかかわらず、提出の前夜には「どこか見落としてるかも」という夢にうなされ、何度も目が覚めた。依頼人の顔が浮かんでしまうから、余計に恐ろしかった。
法務局の窓口で汗だくになった日
提出当日、法務局の窓口で書類を差し出す手が汗でびっしょりだった。係員が黙って内容を確認している間、心臓の鼓動が耳に響くほどだった。何とか受理されたときは、緊張の糸が切れてその場で立ち尽くしてしまった。あの感覚は今でも忘れられない。成功というより「ギリギリで死なずに済んだ」という感じだった。
事務所経営という現実にぶち当たる
登記業務が少しずつ入ってくるようになっても、経営の苦しさは変わらない。1件こなしても、1件終わるたびに売上の不安が押し寄せる。月末が近づくたびに胃が重くなる。司法書士は士業とはいえ、経営者でもある。「業務」よりも「生きるための算段」に頭を悩ませる日々だ。
お金のことを考えるたび胃が痛くなる
開業したての頃は、最低限の生活ができればいいと思っていた。でも、現実はもっとシビアだった。思った以上に費用がかかるし、税金の支払いもバカにならない。依頼が少ない月は赤字になることも珍しくない。口座の残高を見てため息をつくのが日課になり、「このままやっていけるのか」と何度も思った。
家賃と給料のプレッシャーが重い
事務所の家賃、光熱費、備品代、そして事務員さんの給料。どれも削れない固定費だ。特に人件費は、責任の重さが違う。「ちゃんと払わなきゃ」というプレッシャーが、毎月どっしりとのしかかる。収入が安定していないのに、支出は待ってくれない。そのギャップに、夜中に何度も目が覚めたことがある。
「もう少し稼げてたらな」と思う日々
他の職種に転職した友人の話を聞くと、「その年収、俺の倍じゃん」と思うこともある。高望みしてるつもりはないけど、せめてもう少し余裕があればと思うことは多い。けれど、仕事は好きなんだ。やめたいわけじゃない。だからこそ苦しいのかもしれない。
事務員さんの存在に救われることも
唯一の救いは、うちの事務員さんだ。静かで、てきぱきしてて、文句ひとつ言わずに働いてくれる。自分一人だったら、とっくに潰れていたかもしれない。感謝の言葉を口にするのは苦手だけど、何度も助けられてきた。
気が利くって、こんなにもありがたい
「コピーしておきましたよ」「これ先に確認しておいた方がいいと思います」など、何気ない一言がどれだけ助かっているか。細やかな気配りは、自分にはない才能だと毎回思う。事務仕事が苦手な自分にとっては、神のような存在だ。
でも雑談が続かない自分がつらい
とはいえ、雑談が苦手な私は、休憩時間にうまく話せない。気まずい沈黙が流れると、「自分ってダメだな…」と落ち込む。もっと人間らしい距離感を築けたらと思うが、それが一番難しい。
ふと気づく孤独と、未来への小さな希望
忙しい毎日に追われる中で、ふと気づくと誰とも会話していない日がある。そんなとき、孤独が急にのしかかってくる。でも、仕事の中に小さな光があることも確かだ。その光を信じて、今日も机に向かっている。
恋愛?結婚?気づけば誰とも縁がない
気づけば45歳。恋愛も結婚も、どこか遠い話になってしまった。仕事が忙しいから…なんて言い訳だけど、実際はそういう機会を自分から避けていたのかもしれない。土日も電話が鳴るし、デートの約束なんて怖くてできない。恋人よりも補正通知の方が身近だ。
「司法書士ってモテないよね…」と本音が出る
たまに会う同期とも、「モテないよなー」「忙しいしなー」なんて愚痴を言い合う。真面目で地味で、スーツばっかり着て、書類とにらめっこする日々。そんな生活に魅力を感じる人なんて、なかなかいないのかもしれない。
休日に話す相手がいないという現実
日曜日、ふと時間ができても、話す相手がいない。LINEの通知はゼロ、電話は営業ばかり。そんな静かな休日に、テレビの音だけが部屋に響く。そういう日が続くと、自分が社会から切り離されてるような気分になる。
でも、今日も仕事をする意味がある
それでも、仕事を通して誰かの力になれていると感じる瞬間がある。登記が無事に終わって「ありがとう」と言われたとき、やっててよかったと心から思える。その一言のために、頑張れているのかもしれない。
お客様の「ありがとう」が唯一の救い
ときには涙ぐむお客様もいる。「これでやっと一歩踏み出せます」と言われたとき、自分の存在価値を感じることができた。金額の多寡じゃない。その人にとっての「安心」を提供できた瞬間、それがこの仕事の本質だと思う。
誰かの役に立ってると、信じたい
孤独や不安や愚痴の多い日々だけど、それでも誰かの役に立てていると信じたい。それが希望になる。司法書士のしごとはじめて日記は、そんな不器用で地味な日々の積み重ねだ。