登記簿の迷宮に消えた名義

登記簿の迷宮に消えた名義

登記簿の迷宮に消えた名義

依頼は突然に

午前十時。書類の山と格闘していたところに、分厚い封筒を抱えた女性が事務所にやってきた。
「父の家を売ろうとしたら、知らない人の名義になっていたんです」
そんな一言から、妙な事件は始まった。こっちは登記の相談だけで十分手一杯だってのに。

古びた権利証と見知らぬ所有者

持参された権利証は、30年前のもので、きちんと所有者名も印影も揃っている。
ところが最新の登記事項証明書を見ると、所有者はまったく別人の名前。
「一度も売ってないんです」と依頼人は繰り返した。

法務局にあった違和感の正体

法務局の職員も、この物件には以前から違和感を覚えていたという。
登記の連続性に空白がある。いわゆる「飛び地登記」のような状態。
だが公的記録にミスなどあるのだろうか?昭和のドラマなら陰謀かもしれないが。

あの家は誰のものだったのか

名義が変わった経緯を辿ると、登記原因が「贈与」となっていた。
しかし依頼人の父はそんなことをした記憶も、文書も残していない。
しかもその「受贈者」とされる人物は、すでに10年前に死亡していた。

迷路のような登記簿の記録

物件は郊外の古い住宅地にあり、地番の区画が複雑に入り組んでいる。
登記簿には何度も地番変更が記載され、その都度所有者名が切り替わっていた。
複数の土地の一部が錯綜している、まるで迷路のような構造。

サトウさんの冷静な推理

「この登記、平成十四年の訂正登記から変ですね」
サトウさんがパラパラと登記簿をめくりながら指摘した。
その登記だけ、なぜか印鑑証明書の提出が省略されていた。

名義変更の空白期間に潜む影

平成十四年といえば、相続人同士のトラブルで手続きが中断したとされる時期。
その空白を縫うようにして、突如現れた贈与登記。
まるで『怪盗ルパン』のように、静かに、証拠も残さず書類をすり替えたかのようだった。

元野球部の記憶がひらめきを呼ぶ

俺はしばらく登記簿と地図をにらんだあと、ふと気づいた。
「これ、同じ名字で番地が1つ違うだけの家と取り違えてるな…」
高校野球部時代、同姓同名の控え選手が二人いて、スコアボードでよく間違えられていた。そんな記憶が役に立つとは。

やれやれ、、、どうしてこうなる

「やれやれ、、、俺がサザエさんのマスオさんなら、今頃こめかみを押さえてるな」
そんな冗談を言いつつ、地番の誤記を訂正するための手続きを準備した。
うっかりでは済まされないが、原因は古い記録の転記ミスだった。

登記官のミスか それとも意図か

法務局にて、当時の担当者の記録を確認すると、修正の申請がなされていたが、処理が途中で止まっていた。
ミスだったのか、それとも誰かが都合よく利用したのかは不明。
しかし悪意を証明する証拠は残されていなかった。

旧地主の失踪と幽霊名義の関係

かつての地主が消息を絶った時期と、名義変更のタイミングが一致していた。
一説では、遠縁の親族が勝手に登記を進めた可能性もあるが、既に時効が成立している。
これ以上深追いしても、闇は深くなるだけだ。

鍵となったひとつの押印跡

唯一の物的証拠となったのは、コピーに微かに残った古い印影。
サトウさんがスキャンして拡大し、過去の資料と照合してくれた。
結果、それが偽造印である可能性が極めて高いと分かった。

真犯人は近くにいた

まさかと思ったが、登記に関わっていた古参の不動産業者が当時の書類保管者だった。
彼が押印を代行したと噂されていたことも、昔の住民から聞き出した。
だが証言だけでは、法的責任を問うことは難しい。

地番の裏に隠されたもう一つの顔

今回の件で学んだのは、「登記簿は語らないが、語らせることはできる」ということ。
地番という数字の裏には、生活や欲望、時に罪までが隠れている。
そしてそれらを見抜くのが、司法書士の仕事なのだと再認識した。

サトウさんの一言で幕を引く

「次からはちゃんと地番も名寄せしてから確認しましょうね」
塩対応ながらも、核心を突くサトウさんの言葉に思わず頭をかく。
うっかりしていたのは、やっぱり俺だったのかもしれない。

名義が戻り そして日常へ

最終的に名義は依頼人のもとに戻り、土地は無事に売却された。
小さな町の一角で起きた迷宮のような事件は、こうして終わった。
「やれやれ、、、次は平穏な登記を願いたいもんだ」と、俺は机に戻った。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓