クレーマー対応で燃え尽きた日
「またか…」とため息しか出なかった朝
朝イチの電話のコール音が、すでに嫌な予感をさせる音に聞こえるのは、もはや職業病かもしれません。相手の声を聞いた瞬間、「あ、今日はダメな日だ」と察する——そんな朝でした。司法書士という仕事には予測不能な感情の嵐が付き物ですが、それが続くと、もう心が持たないのです。
最初の電話で察した、今日は荒れる日だと
「あなたのところ、対応が遅すぎるんじゃないの?」と、開口一番にクレーム。こちらとしては期限内に動いているつもりでも、相手にはそれが“遅い”と映るようです。しかも、説明を試みても全く聞く耳を持たない。開始5分で、心が削られるのが分かります。
声を荒らげる依頼人、説明が通じない現実
「こっちは素人なんだから、全部やってよ!」という言葉がグサリと刺さる。こっちは丁寧にやっているつもりでも、向こうにとっては“使えない”司法書士。理不尽なやりとりの末、なんとか電話を終えるころには、もう午前中の仕事の気力はゼロです。
「司法書士なら何でもできると思ってるのか?」と嘆く心の声
実際、できないことだってあります。法律の制限もあれば、職域の壁もある。それでも「何でも屋」と思われていることが多い。だからこそ、できないことを伝えると「不親切」と言われる。自分の存在価値が一気にmissing valueになったような気分になります。
繰り返される理不尽な要求に、気力が削られる
クレーム対応が一件片付いたと思ったら、次の電話、そしてまた次の対応。まるで永遠に終わらないエラー処理を手作業で繰り返しているような感覚。業務の本筋に集中したくても、横やりばかりで精神は削られるばかり。
感情のゴミ箱にされる日々——専門職とは名ばかりか
こちらは司法書士として専門知識を提供しているつもりでも、感情のはけ口にされることが多い。愚痴や怒りを一方的にぶつけられ、こちらがフォローすればするほどエスカレートする。相手にとって私は“人”ではなく、“対応窓口”でしかないのかもしれません。
怒鳴り声とため息のループに、思考が止まる
「で、どうすんの?」と詰め寄られるたびに、言葉を選んで対応していたはずなのに、ある瞬間から脳内が真っ白に。何度も説明した内容を再び繰り返し、「それ聞いてない」と返される。まるで壊れたレコード。対応しながら、自分の思考がmissing value化していくのを感じました。
対応後の静けさが、逆に虚しくなる瞬間
ようやく電話が切れて静かになった事務所。ホッとするどころか、静けさが心にぽっかりと空いた穴をより際立たせる。やるべき書類を目の前にしても、手が動かない。「これ、本当に俺のやりたかった仕事だったっけ?」そんな疑問が浮かぶ午後でした。
「missing value」——自分の中の欠落に気づく
その日一日が終わるころ、自分の中にぽっかりと空いた感情の空白に気づきました。何かが欠けている。でも、それが何なのかは分からない。ただただ疲弊して、心のデータベースがところどころエラー表示になっている感覚。それが「missing value」なのかもしれません。
やるべき仕事ができないほど心がすり減る
本来は午前中に終わっているはずの書類作成が、まだまったく手つかず。体は元気なのに、気持ちが動かない。「休んだら?」と事務員に言われても、休むことにすら罪悪感がある。こうして“何もできない時間”がまた増えていくのです。
午後3時のコーヒーにすら、味を感じなかった
いつもなら少し癒されるはずのコーヒーの香りも、今日はまったく響かない。舌に乗せた瞬間「これ、何飲んでるんだっけ?」と思ってしまうほど。心が欠損していると、五感まで曇る。そんな経験、ありませんか?
「誰のためにやってるんだろう」と自問する夜
仕事を終えて帰る車の中、ふと我に返って「そもそも何のためにこの仕事をしてるんだっけ」と思いました。依頼人のため?地域のため?それとも自分のため?——答えは、すぐには出てきませんでした。
書類を前にして、ただ虚空を見つめていた
夜の静まり返った事務所。残った書類を前に、ただ虚空を見つめていました。体も動かず、思考も止まったまま。目の前のデータに手が伸びない。まさに「missing value」の自分。それでも、明日はまた始まるんだろうなと思うと、なんだか悔しくもなりました。
事務員の何気ない一言に救われた気がした
「今日はひどかったですね。でも、先生がいてよかったです。」事務員が帰り際に言ったその一言が、胸に残りました。たったそれだけの言葉が、ちょっとだけ空白を埋めてくれることもあるのです。
この仕事に「正解」はない——だから悩む
司法書士として10年以上やってきても、正解はありません。毎回違う人、違う事情、違う空気。そのたびに“最適解”を探りながら生きているようなものです。完璧なんて無理なのに、完璧を求められる日々。そりゃ、欠けもします。
マニュアル通りにいかない人間相手の世界
登記法や不動産登記規則には沿っていても、人の気持ちや事情にはマニュアルが効かない。Aさんに通じた説明が、Bさんには通じない。同じ言葉でも受け取り方は様々。それでも、対応し続けるしかないのです。
「感情」を扱うスキルは学校では教えてくれない
司法書士試験には法律の知識はあっても、クレーム対応術なんてどこにも載っていません。実務に出てから、やっと「感情の交通整理」がどれだけ大事かを痛感します。勉強だけじゃ足りない現実が、ここにはあるのです。
それでも、もう辞めようとは思わない理由
何度も辞めたいと思ったことはあります。でも結局、翌日も出勤して、書類に向かっている。それはたぶん、「誰かの役に立った」瞬間を、ほんの少しだけでも覚えているから。仕事が全て報われるわけじゃないけど、ゼロでもない。そんな気がします。
地方で一人、事務員と支え合いながら生きる
都市部と違って、地方では選択肢が少ないぶん、期待も集中しがちです。一人事務所で、事務員さんと二人三脚。支え合うことのありがたさもあれば、孤独もある。でも、一緒に笑える瞬間があるなら、まだ続けられる気がします。
一人じゃないという錯覚が、時に救いになる
本当は一人なのかもしれません。でも誰かと働くことで、その錯覚が“支え”に変わることもあります。孤独が辛いときほど、人とのつながりが心の空白を少しだけ埋めてくれるのです。
自分を取り戻すための「空白」も、きっと必要
missing valueは悪いことばかりじゃない。空白があるから、埋めようとする。欠けているから、気づける。そう思えば、今日の燃え尽きも少しだけ意味があったのかもしれません。
missing valueがあるからこそ、埋まるものがある
全部が埋まっていたら、人はきっと成長できない。抜けているからこそ、補う力が生まれる。そう思うようにしています。失った気力や時間の中にも、何かヒントはあったはずだと。
全部を満たさなくていい、自分のペースで
完璧じゃなくてもいい。全部こなさなくてもいい。そう言い聞かせながら、また次の一日を迎えます。疲れた時は、少し止まってもいい。空白を見つめて、また少しずつ埋めていけばいいんです。