告白のタイミングも逃しがち

告白のタイミングも逃しがち

タイミングがすべて、でもその「すべて」がわからない

「あのとき言っておけばよかった」と、夜ひとりで事務所の電気を消すときにふとよぎる思いがある。司法書士という職業柄、慎重さが身についてしまっていて、感情のままに動くことができない。「仕事が落ち着いたら」と思っていた矢先に、相手の結婚報告がSNSに流れてきたこともあった。あのときの胸の奥の重苦しさといったら、誰にも言えなかった。恋愛も人生もタイミングがすべてだと痛感するけれど、その「すべて」は、振り返ったときにしか見えてこない。

気づいたときには遅い告白の瞬間

自分が特別な感情を持っていると気づくのは、たいていその人が離れていこうとするときだ。話すたびにほっとしたり、顔を見ると安心する相手がいた。でも、伝える勇気がなくて、仕事を理由にその気持ちをしまい続けた。そして彼女が別の男性と付き合い始めたと聞いたとき、胸が潰れそうになった。感情は持っているだけでは何の意味もない。口にしないと何も伝わらない。その当たり前を、何度も失敗してようやく思い知った。

仕事に追われて気づかぬ間に人が離れていく

司法書士という仕事は、相手の感情に寄り添うより、事務手続きの正確さや効率が求められる。日々の業務に追われていると、誰かとじっくり話す余裕すらなくなる。付き合っていたわけでもないのに、距離ができてしまったことに気づいたときは、すでに取り返しがつかないところまで来ていた。事務員から「最近あの人見ないですね」と言われたとき、何とも言えない虚しさに襲われた。

「今度でいいか」が一生の後悔になる

「今度ゆっくり話そう」「また今度誘ってみよう」——そんな言い訳が何度も口癖のように出てきた。でもその「今度」は永遠に来なかった。告白のタイミングも、思い切って踏み出す勇気も、日常に飲まれて消えてしまう。「今日じゃなくてもいいか」と思ったその一瞬が、人生の分岐点だったことを、あとになって痛感する。

「今じゃない」が続く日々の中で

本当に今なのか、まだ早いのか、そんなことを考えているうちに時間は過ぎる。「告白しようと思ったけど、忙しそうだったからやめた」と何度も自分に言い訳していた。だが、その言い訳が重なっていった結果、気持ちは伝えられず終わる。気づけば、思いを寄せていた相手には別の人生が始まっていた。あの人の幸せそうな笑顔を見て、何も言えずにただ遠くから見ていた。

忙しいことを言い訳にしている自分

「忙しい」が口癖になってしまっていた。確かに忙しい。でも本当にそれだけだったのか。事務所を一人で回しているプレッシャーや、失敗が許されない案件の重圧。だけど、本当は、傷つくのが怖かっただけなんじゃないか。断られるのが怖くて、「忙しいふり」で逃げていた自分に、気づいたときは情けなかった。

余裕ができたらなんて、永遠に来ない

「落ち着いたら」「余裕ができたら」なんて、現実には存在しない。仕事に完璧な終わりなんてないし、余裕は作らなければ永遠に訪れない。人生は待ってくれない。そう気づいたのは、相手がもう隣にいないと知った日だった。

司法書士という職業と人付き合いの相性

司法書士の仕事は、人と関わっているようで、その実かなり孤独な作業が多い。書類とにらめっこしている時間のほうが長く、感情を交える場面は少ない。気づけば、人との距離感がつかめなくなっていた。優しくしても、どこか一歩引いてしまう。それが「距離感を保つプロ」としての自分なのかもしれないけれど、そのせいで心の距離も開いてしまうのは皮肉だ。

相手に踏み込むのが苦手な職業病

人の領域に踏み込まないことは、司法書士としてのスキルでもある。でも、恋愛ではそれが逆効果になる。相手の心の中に入っていくには、ある程度の無神経さも必要だと思う。ところが、慎重すぎて、気づいたときには相手が「あ、この人はそういう気がないんだ」と思って離れていく。だから、踏み出す勇気を持てないまま、また誰かが去っていく。

形式的なやりとりに慣れすぎた代償

「いつもお世話になっております」「以上、よろしくお願いします」。こんな言葉ばかりを毎日使っていると、人と心で話すことがどんどん下手になる。恋愛なんて、もっとくだけた言葉が必要なのに、言葉選びに時間がかかってしまう。そうしてまたタイミングを逃す。告白も、気持ちも、言葉にしなければ伝わらないとわかっていながら、つい後回しにしてしまう。

本音で話すことに必要な「訓練」

本音を伝えることにも訓練が必要だと、最近思うようになった。普段から誰かと感情をやりとりする習慣がなければ、いざというときに言葉が出てこない。思っているのに伝えられない。それは、想いがないのではなく、慣れていないだけ。小さな本音からでも話せるようになることが、もしかしたら「タイミングを逃さない」秘訣なのかもしれない。

逃したタイミングは取り戻せないのか?

一度逃したタイミングは、もう戻らないのか。そう思うと、どうしても落ち込むし、自己嫌悪にもなる。でも、完全に手遅れなことなんて、実はそうそうないのかもしれない。新しい出会いはまた訪れるし、過去の失敗から学んだことは次に活かせる。大事なのは、過去にしがみつくより、次は逃さないという覚悟を持つことだ。

後悔しないために今日できること

今できることは、小さな行動にすぎない。でも、その一歩がなければ何も始まらない。メッセージを送る、声をかけてみる、ちょっとした言葉を伝える。それだけでも、昨日までとは違う結果が生まれるかもしれない。タイミングを逃しがちな自分だからこそ、意識して「今日やる」ことを心がけるようにしている。

「また今度」はもう言わないための覚悟

「また今度」「そのうち」「余裕ができたら」——この言葉を使うたびに、何かを失ってきた気がする。だからこそ、もう使わないと決めた。怖くても、不器用でも、気持ちは今伝える。それがどんな結果になったとしても、後悔しないために。司法書士としての慎重さは、人生のすべてには使えない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。