相続登記、簡単そうに見えて地獄:素人には見えない“落とし穴”とは?

相続登記、簡単そうに見えて地獄:素人には見えない“落とし穴”とは?

「相続登記?書類出すだけでしょ?」の裏にある現実

「相続登記って、書類を出せば終わりなんでしょ?」と軽く考える方が実に多い。しかし実際の現場では、書類を一通り揃えるまでに数ヶ月、下手をすると数年かかるケースも珍しくない。特に地方では役所間の連携もバラバラで、郵送対応や閉庁日との戦いが続く。実際、うちの事務所でも「自分でやってみたけど無理でした」と泣きつかれる依頼が増えている。相続登記は、思っている以上に複雑で、感情的にも肉体的にも消耗する業務なのだ。

見た目はシンプル、中身はカオス──はじめに心が折れる瞬間

相談者の多くが、まず戸籍集めの時点で絶望する。「こんなにいるの?」と聞かれるが、正直、私も集めたくない。亡くなった方の出生から死亡までの全戸籍、しかも本籍があちこちにあると、取り寄せだけでひと月以上かかるのもザラ。戸籍謄本を集めてる間に、気持ちが萎えて放置…そんな案件がどれだけあるか。私も一度、依頼者に付き添って役場を3箇所まわったが、閉庁日と書類不備で無駄足に。帰りの車内で「これが地獄の入口です」と伝えるしかなかった。

戸籍収集の地獄:平成・昭和・大正の旅路

戸籍の世界は時空の旅だ。平成の次は昭和、さらに大正へとさかのぼることもある。本籍が変わるたびに別の役所へ、改製原戸籍や除籍謄本の請求…。郵送で請求しても1〜2週間後に「これでは不足です」と返される。先日は、戦前に台湾に本籍があった方の相続登記で、結局資料が揃わず断念したケースもあった。これを「カンタンそう」と言われると、もう何も言えない。

本籍地が転々、役所も閉庁、届かぬ戸籍…誰がこれ設計したんだ

ある日、70代の依頼者と話していたら「私は夫の本籍がどこかも知らない」と言われた。結婚後ずっと一緒にいたのに。しかもその本籍は廃止された町村で、統廃合のせいで役所が別の市に吸収されていた。そこに郵送請求したところ、旧姓の記載が確認できないと一度突き返された。私はそのとき本気で「戸籍制度の根本を変えないと無理だ」と思った。誰がここまで複雑にしたんだ。

想定外の相続人登場:「この人誰ですか?」で始まるドラマ

戸籍をたどっていくと、依頼者も知らなかった相続人が出てくる。例えば認知された非嫡出子や、前妻との子ども。先日は、依頼者の父親に戦後間もなく認知された子がいたことが判明し、親族全員が絶句していた。「この人誰?」という話になると、まず協議は進まない。無視すれば登記はできないし、説明すればするほど人間関係が崩れる。登記の書類を作る以上に、説明と説得に時間がかかるのが現実だ。

認知された子供、行方不明の兄弟、疎遠な叔父…説明不能の相関図

中でもきつかったのは、依頼者が知らなかった兄弟が3人もいたケース。戸籍を見せると「うそでしょ…」と固まった。一人は行方不明、もう一人は音信不通、最後の一人は海外在住。結局、行方不明者のために不在者財産管理人をつけて裁判所に申立て。その間に依頼者は心労で体調を崩し、「これが終わったら引っ越します」と言っていた。もう、笑えない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。