登記簿が告げた借名の家
依頼人が語る奇妙な購入記録
「家を買ったんですけど、名義が知らない人になっていて…」
月曜の朝、眠気眼で事務所のドアを開けると、いかにも不安げな中年男性が座っていた。
資料の山を前に、「どうしてこうなるんですかね」と何度も呟く彼に、サトウさんが塩対応でお茶を出した。
所有者欄に浮かぶ違和感
権利証を確認すると、確かに依頼人とは異なる名前が記載されている。
しかもその名義人は、ここ10年ほどで一度も住所変更や売買履歴がない。
古いまま凍結されたような登記に、違和感が広がっていく。
サトウさんの冷静なツッコミ
「これ、契約書と照合しました?ローン通してないって言ってましたよね」
パタパタとファイルをめくる音とともに、サトウさんが冷たく突きつけた。
彼女の視線は、まるで名探偵コナンの如く、依頼人のうろたえた心を貫いていた。
調査開始と古い登記簿の手がかり
私は登記情報提供サービスを使い、過去の変遷を洗っていく。
平成初期に作られた古い登記簿の写しには、別の名義人が出てきた。
これは、もしかすると借名登記――いや、それ以上の闇があるかもしれない。
借名登記の可能性を探る
バブル期、税逃れや資産隠しで借名が流行ったことがある。
所有者に見せかけて実は他人、そんなスキームが未だに残っていたとは驚きだ。
「昭和の残り香ですね」とサトウさんが鼻で笑う。
名義人の影を追って
登記上の名義人を調べると、すでに数年前に死亡していたことがわかった。
だが、住所に関連する電話番号が一つ、現在も生きている。
私はその番号にかけてみることにした。
昔の登記ミスか意図的な偽装か
電話の相手は初老の女性で、故人の遠い親戚だという。
しかし彼女は、名義変更の話を聞いた覚えはないと首を傾げた。
「誰かが勝手に使った可能性もありますよ」と、不穏な言葉が漏れる。
閉鎖登記簿に隠された事実
法務局に足を運び、閉鎖された登記簿を閲覧した。
そこには、旧名義人が過去に何件もの不動産を所有していた記録があった。
「この人、名義貸しの常習犯だったかもしれませんね」とサトウさんが呟いた。
浮かび上がる死亡したはずの名義人
驚くべきことに、名義人の名前で数ヶ月前に公的な手続きがなされていた。
死亡届の記録とも矛盾している。つまり、誰かがその名を装って動いているのだ。
私は警察に連絡し、不正利用の可能性を伝えた。
やれやれと言いながら動くシンドウ
「やれやれ、、、また面倒な案件か」
そう言いながら私は重たい身体を起こし、法務局と警察署を往復する日々に突入した。
だが、野球部時代に鍛えた持久力が、今こそ役に立つとは思わなかった。
意外な人物との再会
調査の中で、私はかつての同級生と再会する。
彼は地元銀行の融資課に勤めており、この不動産のローン手続きを把握していた。
「この話、誰にも言わない方がいい」と、彼は低く警告した。
遺産隠しと贈与税逃れの真相
名義人は死後、その名義を利用して遺産を他人に移し替えていた。
背後には贈与税の回避と、相続人同士の争いを回避する思惑があった。
だがそれは、登記法と税法に明確に抵触する不正だった。
サトウさんの推理が導いた一手
「これ、贈与契約の証拠になりますね」
サトウさんが示したのは、FAXで送られてきた1枚の覚書だった。
そこには、故人の名を借りて土地を譲る旨が明記されていた。
真犯人の自白と動機の闇
やがて浮かび上がったのは、依頼人の兄だった。
彼は自らの借金を帳消しにするため、亡き父の名義を使った登記を偽装していたのだ。
「家族だからって、何してもいいわけじゃない」と、私は静かに告げた。
登記のプロが仕掛けた反証の一手
法的根拠を揃え、私は不動産登記法第74条に基づき登記の抹消申請を行った。
税務署との連携で贈与税の申告漏れも指摘し、事態は収束に向かう。
「やっぱり、書類は嘘をつかないですね」とサトウさんが一言。
真実が記された登記簿と静かな結末
依頼人は静かにうなずき、修正された登記簿をじっと見つめていた。
「父さん、こんなこと望んでたのかな…」
私は答えず、静かにペンを置いた。真実はいつも、紙の中に眠っている。