登記簿が隠した声なき告発

登記簿が隠した声なき告発

不動産の名義に潜む違和感

依頼人は無口な老婦人

秋の夕暮れ、事務所に入ってきたのは、小柄で腰の曲がった老婦人だった。名義変更の相談だという。言葉少なに語るその様子から、どこか怯えているような印象を受けた。僕の脳裏には、なぜか昔観た『明智小五郎』シリーズの一場面がよぎった。

土地の名義変更に浮かぶ不自然な記録

資料を眺めていると、ある一筆の土地が目に留まった。十数年前に所有者が変わっており、贈与の登記がされている。しかし、相続ではなく贈与という点が腑に落ちない。しかもその贈与者は、依頼人の亡夫ではなく、謎の第三者だった。

調査のはじまりと事務所の空気

サトウさんの冷静な初動

「この謄本、どこかおかしいですね」 サトウさんがパソコンに向かいながら言った。地味な言葉だが、彼女の言う「おかしい」はほぼ的中する。昔のサザエさんで言うなら、波平が「バカモン!」と叫ぶ前の空気に近い。

僕は今日も愚痴をこぼす

「まったく、こんな時に限ってプリンターのインクが切れるなんてな…」 ぼやきながらも、心はなぜか少し躍っていた。事件の匂いがする。久々に頭を使う仕事になりそうだったからだ。

消えた名義人と残された手紙

登記情報から追跡できない謎の転居

名義人とされた男は、数年前に転居し、その後の足取りは不明だった。住民票の履歴も消されており、まるで存在そのものが消されたかのようだった。まるで『ルパン三世』のような消え方だ。

古びた郵便受けの中の封筒

僕とサトウさんは、その男が最後に住んでいたアパートを訪れた。管理人の許可を得てポストを開けると、黄ばんだ封筒が出てきた。差出人は、依頼人だった。

遺産分割協議書の細部に光る違和感

フォントの違いと印影の不一致

戻って確認した協議書は、冒頭と末尾のフォントが微妙に異なっていた。印影も若干にじんでおり、明らかに貼り付けたような痕跡がある。サトウさんが無言で赤ペンを走らせる音がやけに響く。

サトウさんの地味なファインプレー

「この印鑑、同じ名字だけど違う人のものですね」 軽く言ったが、それは決定的な事実だった。まるで『コナン』のように核心を突く推理。やれやれ、、、またしても彼女の方が目立ってしまった。

対立する相続人たちの証言

長男の不自然な沈黙

依頼人の長男は口を閉ざし、何度聞いても「覚えていない」の一点張りだった。けれど、その態度こそが何かを知っている証だった。追い詰められると人は黙る、それがこの仕事で学んだ鉄則だ。

次女の涙と語られない真実

一方、次女は机越しにポロポロと涙を流した。「お母さんが全部一人で背負ってきたんです…」その一言で、事の輪郭が一気に明らかになっていった。家族という密室の中で、真実は封じられていたのだ。

判明する過去の贈与と家族の分断

十年前の登記が語る家族の分裂

十年前の贈与登記は、父親の意向ではなく、長男の強引な提案によるものだった。依頼人は渋々応じたが、その結果家族はバラバラになった。登記簿が語るのは、静かで冷たい家族の記録だった。

相続放棄の背後にあったもの

放棄された相続分、その背後には感情の断絶があった。次女は「放棄」ではなく「諦め」だったと語った。法的には正しくとも、心には深い傷が残っていた。

決め手は登記簿の訂正履歴

消された住所と訂正理由の食い違い

さらに調べると、訂正された登記簿に「誤記」とあるが、実際には住所の偽装だった。長男が書類を偽造し、自身に有利なように進めていた形跡があった。

僕が見落としていた肝心な一行

サトウさんが指差した欄を見て、僕は思わず膝を打った。「ここ、昔の所有者がまだ生きてる記録になってますよ」 やれやれ、、、これだから見落としってやつは怖い。

サトウさんの推理と決定打

公図との照合で暴かれた偽装

決定的だったのは、公図との照合だった。登記上の地番と、現地の土地の形状が一致していなかった。つまり、別の土地をすり替えて名義を書き換えていたのだ。これにより、長男の不正が完全に暴かれた。

真相の暴露と依頼人の涙

老婦人が語った後悔と贖罪

全てが明らかになったとき、依頼人は深々と頭を下げた。「私は、家族を守れなかった…」その震える声に、事務所の空気が一瞬だけ静かになった。

登記簿が告げた家族の再生

その後、次女と母親はゆっくりと話すようになったという。登記簿という冷たい書面が、皮肉にも家族をもう一度つなぎ直すきっかけになったのだった。

事件の幕引きと僕の独り言

サトウさんの塩対応は今日も健在

「今日は、カレーにします」 サトウさんの言葉に、僕はうなずいた。「うん、…ってそれだけかい」返事はない。塩対応、いつも通りである。

やっぱり俺はモテないけど司法書士はやめられない

それでも誰かのために何かを解き明かす仕事は、悪くない。やれやれ、、、こんな日々も、少しは意味があるのかもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓