完璧な証書と、いつもズレる会話
司法書士という仕事柄、書類の整合性や記述ミスにはとことん神経質になります。どんなに寝不足でも、字句の誤りや登記の不備は絶対に見逃さない。ところが、人との会話となると、どうもタイミングを外してしまう。お客さんの言葉に被せてしまったり、沈黙が気まずくて余計なことを口走ったり。書類なら一度見直せば済むけれど、人の気持ちはそうはいかないんですよね。
登記は間違えない。でも雑談は空回り
ある日、住宅の名義変更の相談に来たご夫婦がいました。形式的な説明はスムーズだったのに、世間話のときに「お子さんも大きくなりましたか？」と聞いてしまった。ご夫婦は気まずそうな顔をして、静かに首を横に振りました。ああ、やっちゃった。そういうデリケートなことは確認しないと、って何度も反省してるのに。書類と違って、人の気持ちは前提条件が見えないから難しい。
お客さんの「間」が読めない
話の途中の「間（ま）」って、本当に難しい。相手が言葉を探してるのか、もう話を終えたのか。その判断を間違えると、空気が一気に変わる。こっちは良かれと思って補足を入れたつもりでも、相手からすれば「遮られた」と感じることもある。最近も、お年寄りのお客さんに「それは○○ですね」と先回りして言ってしまい、急に無口になられたことがあった。
「で、今日はどうされました？」のタイミングすら迷う
初対面のとき、最初に世間話をはさむべきか、すぐに本題に入るべきかで毎回迷います。形式としては「今日はどういったご相談で？」と早めに聞きたい。でも、雑談を挟まずにそれを言うと、「事務的すぎる」と思われることも。逆に雑談が長くなりすぎても「早く本題を」とイライラされてしまう。この匙加減が本当に難しい。書類のバランスよりよっぽど複雑です。
人に寄り添うって、具体的にどうすればいいのか
「もっと人に寄り添ってください」なんて言われても、具体的にどうすれば？と固まってしまう。登記簿の読み取りや相続関係説明図の作成なら手順がある。でも「寄り添い方」にはマニュアルがない。優しそうに見えるように言葉を選び、相槌を打ち、笑顔を作ってみる。それでも「冷たい」と言われたこともある。自分なりにやっているつもりでも、相手の感情と噛み合わない。難しいなあ、とため息が出る。
優しさだけじゃ通じない
昔、強引な不動産業者に振り回されて怒り心頭だった依頼者に、「お気持ちはお察しします」と言ったら、「察してないですよね？形式的な言葉ばっかり」と返された。内心けっこうショックだったけど、確かに自分の口調はどこか他人事だったかもしれない。感情に寄り添うには、もっと深い共感が必要なのだと痛感した。けれど、どこまで踏み込んでいいのかはいつもわからない。
距離を詰めすぎると煙たがられ
親しみやすさを出そうとして砕けた話し方をすれば「軽い」と言われ、敬語に徹すれば「距離がある」と言われる。気持ちを伝えるって本当に厄介だ。以前、何度か来所してくれていた高齢の女性に「またお話しできてうれしいです」と言ったら、「先生、何言ってるの」と笑われたけれど、その表情はどこか冷たかった。もしかしたら営業トークだと思われたのかもしれない。
距離を空けすぎると「冷たい人」になる
無理に寄り添おうとして失敗するくらいなら、最初から距離を取ろう――そう思っていた時期もあります。でも、必要以上に事務的になると、今度は「淡白」「冷たい」と言われる。事務員にも「先生、もう少し柔らかく話せたら…」と何度か指摘された。自分では丁寧に接しているつもりなんですけどね。人付き合いには“ちょうどいい”がわからない。いつまでたっても下手くそなままです。
