「また急ぎなんですけど」って、もう呪文じゃん。
「また急ぎなんですけど」——この言葉、1日に何度も聞くようになった。誰かが唱えれば、なぜかこちらの時間が歪み始める。気づけば昼飯も食わず、夕方には机に頭をぶつけそうになってる。これはもう呪文だ。いや、呪詛に近い。司法書士として、地味で堅実に働きたいだけなのに、なぜか“緊急対応装置”として日々消耗している。私がいつから「急ぎ職人」になったのかは覚えていない。でも、今では完全にその呪いにかかってしまっている。
件名に「至急」って書いてあるだけで胃が痛い
メールの件名に「至急」「急ぎ」「本日中」——これらの単語を目にするたび、胃の奥がキュッとねじれる。まるで脳がそれらの単語を脅迫として処理してるかのようだ。実際、「至急」で送られてくる内容の半分くらいは、別に今日でなくてもいいようなもので、それがまた苛立ちを加速させる。以前、朝イチで届いた「至急」のメールに、息を切らせながら午前中に仕上げたら、「ありがとうございます、来週使う書類だったんで助かります」と言われた。……来週?なんで今日中?
たいてい前日にはわかってたはずの書類
こちらが急ぎになる理由の多くは、「相手が前日に動かなかったから」だ。そういう書類って、大体は前日にはすでに必要性が分かっていたものばかり。にもかかわらず、「昨日忙しくて手が回らなかったんです」と悪びれず言われると、怒る気力もなくなる。怒ったところで、「じゃあ他の先生に頼みます」と言われたら元も子もないし。かといって黙って受け入れると、また“次の急ぎ”がやってくる。まるで無限ループのようだ。
「急ぎ」は相手の都合、こちらの心は後回し
「急ぎ」という言葉は、発した本人にとっては便利な魔法のようなもので、相手に負担を与えるものだという自覚がない。でも、こっちは一人でいくつもの案件を回している。時には法務局や金融機関、クライアントの対応も重なっていて、スケジュールは綱渡り。それでも「急ぎだから」と言われると、なぜかこちらが折れる構図になる。この不公平感がじわじわと精神を削ってくるのだ。
返信しないと追いかけてくる電話のプレッシャー
「また急ぎなんですけど」のメールが来て、それにすぐ返信しないと、今度は電話が鳴る。「あれ、見ていただけましたか?」というセリフ。これがとにかく辛い。プレッシャーのかけ方としては控えめに見えるけど、実際には“今すぐ動け”という意味を含んでいる。以前、トイレに行ってる間に3回も不在着信が入っていたことがある。トイレにも行けない世界、それが“急ぎ呪文”の支配する現場だ。
「あれ、見ていただけました?」の破壊力
この一言、何気ないようでいて、実はかなりの破壊力を持っている。特に、朝からタスクが山積みで、順番に処理している中でこの言葉を投げかけられると、自分の努力や優先順位が全否定された気になる。「すぐに動かないのは怠慢」と暗に責められているようで、胸がざわつくのだ。気にしすぎかもしれない。でも、言われ続けると、自分の価値観すら壊れていく気がする。
本当の緊急と、そうじゃないものの境界線
本当に急ぎで動かなければならない案件は、もちろん存在する。期限が明確で、法的な制約もあるものは、こちらも最優先で動く。でも問題は、「なんとなく急いでる気がするから」みたいな雰囲気急ぎが多すぎることだ。判断が曖昧な依頼が繰り返されるうちに、どれが本当に優先すべきなのか、自分でもわからなくなってしまう。結果として、全部急ぎ、全部重要、全部苦しい。
それ、いつまで急ぎですか?という無言のツッコミ
「また急ぎなんですけど」という言葉の後に、心の中で「で、いつまで?」とツッコミを入れるのが日課になってしまった。なぜなら、相手は「急ぎです」と言いながら、具体的な期限を伝えないケースがあまりに多いからだ。期限がわからないまま仕事を急がされると、こちらのリズムは完全に狂う。逆に、ちゃんと期限を伝えてくれる依頼には、むしろ誠意を感じて前向きに取り組めるのだ。
「今日中に…できれば午前中に…」の無理ゲー感
「今日中に、できれば午前中に」——このフレーズ、よく聞く。でも、これってどう考えても無理がある。午前中に書類作成、確認、押印、発送って、物理的に間に合わないことも多い。しかもその依頼が、朝の10時に来るんですよ。「もっと早く言ってよ…」と喉まで出かけるが、グッと飲み込む。結局、無理をして対応してしまう。そしてまた、「あの先生はやってくれる」と刷り込まれる。そう、呪文は一度通じると何度も唱えられるのだ。
人の時間を“無限在庫”だと思ってる節
「できれば午前中に」などと軽く言えるのは、相手がこちらの時間を“自分と同じように自由に使えるもの”と思っているからだろう。まるでこちらの時間が無限に在庫されているかのような前提で話をされることが多い。でも、現実はこちらも一人で全部を回している。電話応対、書類作成、法務局とのやりとり、相談業務。分身できたらいいのに、と本気で思う日もある。
他の案件も抱えてるって言っても響かない世界
「今、他の案件が立て込んでまして…」と説明しても、たいてい「ああ、そうですか…」と軽く流されてしまう。まるで、「自分の依頼が最優先じゃないのか」とでも言いたげな間が生まれるのだ。相手にとって自分の仕事が全てなのは理解できるが、こちらはそうではない。すべてに優先順位があって当然なのに、その理解がされないと、ただの便利屋として扱われてるような気がしてくる。
急ぎに応じすぎた過去の自分のツケが回ってくる
正直、昔は“いい顔”をしすぎていた。「急ぎです」と言われれば「わかりました」と答え、「無理を聞いてくれる先生」と言われれば、誇らしくもあった。でも、それが繰り返されるうちに、周囲の期待値だけが上がり、こちらの体力と時間だけがすり減っていった。気づいたときには、何も言わずとも“急ぎの窓口”のような扱いをされていた。あの頃の自分に、もう少しだけ“断る勇気”があればと思う。