「おつかれさま」が消えた日常
朝から晩まで働いて、書類も片付き、無事に依頼人の手続きを完了させた。だけど事務所のドアを閉める瞬間、ふと気づく。「おつかれさま」と誰にも言われていないことに。以前は会社勤めで同僚がいて、毎日とは言わなくても、誰かがねぎらいの言葉をくれた。でも独立してからというもの、その一言がどこかに置き去りになってしまったようだ。気がつけば、業務は回っているが、心は空回りしている。
電話を切っても、無言のまま
電話対応も日常業務のひとつだけれど、通話が終われば静寂だけが残る。声を張って対応しても、電話の向こうは業務が終われば「失礼します」で終わるだけ。別に感謝の言葉が欲しいわけじゃない。でも、なんとなく「おつかれさまでした」とか、「助かりましたよ」みたいな言葉があれば、少しは心も温まるのに。孤独は音のない事務所に潜んでいて、無音の電話の後にだけ顔を出す。
依頼者には言えない、本当の疲れ
依頼者には元気そうに振る舞う。頼れる司法書士に見られたい。でも内心では、「今日は朝から相続と登記と相談でヘトヘトなんだよ」と叫びたくなる日もある。かといって、それを口に出したところで誰かが代わりに仕事をしてくれるわけでもない。だから黙って引き受ける。だけど、せめて誰か一人でも、終わったときに「おつかれさま」と言ってくれたら、それだけで少し救われる気がする。
ねぎらいの言葉が恋しくなる瞬間
19時を過ぎ、シャッターを閉めて外に出ると、ふと寂しさがこみ上げる。自分を労うのは、冷えた自販機の缶コーヒーだけ。誰かが「今日もがんばったね」と言ってくれるだけで、疲れ方が違う気がする。だから、時々ふと他人の会話で「おつかれさま」と聞こえると、羨ましくなる。たった一言が、こんなにも心に響くなんて。
独り事務所の静けさに耐えられなくなる日
自分で選んだ独立の道。自由もあるし、自分のペースで仕事もできる。だけど、誰とも話さない日が続くと、心がカサカサしてくる。事務員さんが休みの日なんかは特に顕著で、空気の流れすら止まっているように感じる。そんな日に限って、ミスしそうになる。誰かが見ている、誰かがいてくれる、それがどれだけ大きな支えだったかを痛感する。
誰とも会話しないまま終わる夕方
人と話さない日って、精神的な疲れ方が違う。書類に囲まれて、パソコンを睨み続けて、郵送作業に追われるだけの一日。気づけば「今日は声を出したっけ？」と不安になるほど無言のまま時間が過ぎることもある。そんなとき、ふと「これって本当に“仕事をしている”って言えるんだろうか」と考えてしまうのだ。
「一人の気楽さ」と「一人の重さ」
誰にも指示されず、好きな順番で作業できるのは気楽だ。でも同時に、その一人の責任がずしりと肩にのしかかってくる。もし失敗すれば、自分のせい。誰もフォローしてくれないし、相談する相手もいない。その重さが毎日少しずつ積み重なって、「やってられないな」と思う瞬間もある。
時計の針の音だけがやけに響く
静かな部屋にいると、壁の時計のカチカチという音がやけに耳に残る。それが妙にうるさく感じる日がある。作業がはかどらない日ほど、時間が過ぎていく音だけがリアルに響く。そして「この一日、誰かに覚えてもらえるのかな」と思ってしまう。そんなときは、誰でもいいから「おつかれさま」と言ってほしくなる。
事務員さんも帰ったあとの孤独感
夕方、事務員さんが「お先に失礼します」と帰っていくと、また一人の時間が始まる。「今日も一日ありがとう」と言うけど、返ってくるのは笑顔と「おつかれさまです」の一言だけ。でも、あの一言がどれだけありがたいことか、いなくなってから気づくのだ。
ありがとうは言えても、「おつかれさま」は言われない
仕事柄、人には感謝を伝えることは多い。「ありがとうございました」「助かりました」と伝えるのは日常茶飯事。でも、自分が「ありがとう」「おつかれさま」と言われる機会は少ない。逆に、言う側としての比率の方が圧倒的に多い。だからこそ、たった一言が染みる。心の渇きを潤すのは、高級なご飯じゃなくて、そういう言葉だったりする。
それでも続けているのは、なぜか
じゃあ、なんでそんな環境で続けているんだと聞かれると、たぶん「誰かの役に立っている」という感覚があるからだと思う。報酬ももちろん大事。でも、相談者の表情が少しだけでもやわらいだとき、「ああ、やっててよかったな」と思える瞬間がある。それだけで、また一日がんばれるから不思議だ。
「誰かのために役に立った」と思えた瞬間だけが支え
以前、登記の相談に来た高齢の女性がいた。手続きが終わった帰り際、「助かりました。本当にお世話になりました」と深く頭を下げられた。その一瞬だけで、それまでの忙しさも孤独も帳消しになるくらい、心が温かくなった。そんな些細な出来事が、僕のような司法書士にとっては、何よりのご褒美なんだと思う。
