昼下がり、ひとりと納期とコーヒーと

昼下がり、ひとりと納期とコーヒーと

昼下がりの静けさが、今日は少し重たい

外の光がちょうど良く差し込む午後2時。ふつうなら、心地いい時間帯のはずなんですが、今日はどうも違います。事務所には私ひとり。事務員さんは銀行と法務局を回っていて、戻るのはもう少し先。静かな時間は好きだったはずなのに、今日のこの沈黙は、なんだか不穏で、重たくて、妙に落ち着きません。まるで、目に見えない「納期の影」が机の下からジワジワ伸びてきて、足元をすくってくるような感覚です。

事務所に響くのは、キーボードの音だけ

カタカタカタ……と、一定のリズムで打たれるキーボードの音が、事務所にやけに響きます。誰もいない空間に響く自分のタイピング音って、こんなに孤独だったかなと思う瞬間。時計の秒針すら気になるくらい、周囲の音がない。こんなとき、ふと「なんで司法書士になったんだろう」なんて考えてしまう自分がいます。別に後悔してるわけじゃない。でも、正解だったかと聞かれたら、うーん……と首をかしげたくなる昼下がりです。

電話が鳴らない時間が、逆にプレッシャー

午前中はひっきりなしに電話が鳴っていたのに、午後に入ってからはぴたりと止まる。普通なら「やっと落ち着いた」と思えるはずなのに、今日はその静けさが不安を増幅させている気がします。「これで本当に間に合うのか?」「何か忘れてないか?」そんな思考がぐるぐると頭をめぐって、キーボードを打つ手を何度も止めてしまう。静けさが、ありがたくない時もあるのです。

集中しろって言われても、心ここにあらず

「集中しよう」と自分に言い聞かせても、集中できないときは本当にできません。特に、なんのイベントもない火曜日の午後とか。どうせ誰も見ていないし、監視されているわけでもない。だからこそ、サボっても咎められないけれど、同時に頑張っても誰にも褒められない。そんな「無人島でサバイバルしてる感覚」が、ひとり司法書士の午後の実態かもしれません。

「納期」って誰が決めたんだ?

今日の案件、誰に急かされたわけでもなく、自分で「今日中に仕上げよう」と決めたもの。つまり、自分が自分を追い込んでる。だけど、一度口にした「今日中」という言葉が、まるで呪いのようにのしかかってきます。「明日でいいや」と言えたら楽なんですけど、なぜかそれができないのがこの仕事。特に、お客さんの不動産移転登記なんかだと、「あの人の新生活のスタートがかかってる」と思うと、逃げられません。

自分で自分を追い込んでいる気もする

司法書士って、ある意味ドMな職業かもしれません。納期も、精度も、自分が一番うるさい。事務員さんは「そこまでやらなくてもいいんじゃ」と言ってくれるけれど、「いや、気持ち悪いから直すわ」と返してしまう。結果、誰にも頼まれてないのに完璧を目指して疲弊する。そういう自分に気づいた瞬間、「あー、何やってんだろ」と一人で苦笑いするんです。

書類の山に、ため息ひとつ

机の右端に積み上げられたファイルたち。午前中にチェックしきれなかった分が、まるで「さぁ、やってくれよ」と言っているように見えてきます。視線をずらして、コーヒーに手を伸ばすも、すでにぬるくなっていて、がっかり。あれもこれも、今やらなきゃいけないってわかっているけれど、身体と気持ちが一致しないんですよね。ため息が出るのは、気合いを入れる前の儀式みたいなものです。

タイムリミットは午後五時。だけど今日も延長戦

「今日は17時までに終わらせて、早めに帰ろう」。そんな希望は、だいたい15時には砕けています。追加の連絡が入って、資料の確認も必要になって、気づけば「まあ、今日も残業かな」という流れに。時計の針を見ながら、「あのドラマ、録画しとけばよかった」とか、どうでもいいことが頭をよぎります。でも、不思議なもので、17時を過ぎると逆に集中できたりもする。皮肉なものです。

ひとりで抱えるには、ちょっと多すぎる

事務所をひとりで回しているわけではありませんが、最終的なチェックや判断はすべて私。責任の重さって、数値化できないけれど、肩にのしかかる感覚はズシリとあります。誰かに「これどう思う?」って気軽に聞けたらいいのに、それができない環境だと、どうしても自分の中にすべてを溜め込んでしまいます。書類よりも、自分の気持ちの整理が難しい午後もあるのです。

事務員さんに頼めない仕事の壁

頼れる事務員さんがいるのは心強いです。でも、登記の判断や法的なチェックとなると、「これは僕が見るしかない」となる。頼りたい気持ちと、「任せてミスがあったら…」という不安がせめぎ合って、結局ひとりで抱え込んでしまう。その繰り返しが疲弊を生んでいるんでしょうね。「もっと肩の力を抜いて」と自分に言いながら、今日もまたパソコンに向かっています。

外注できない事情もある

書類作成を外注するという選択肢もないわけじゃありません。でも、地方の小さな司法書士事務所にとっては、コストも大きな壁です。それに、結局最後に責任を取るのは自分だと思うと、どうしても外に出すことに抵抗がある。だからこそ、夜な夜な事務所で黙々と作業する日々が続くわけです。「効率化」って、言うのは簡単だけど、現場のリアルはそんなに単純じゃありません。

「やります」と言った自分を恨みたい午後

思い返せば、最初にこの案件を受けたとき、何も考えず「大丈夫です、やれます」と笑顔で答えた自分がいました。その時の自分を、今の自分が睨みつけています。「お前、何も分かってなかったな…」と。だけど、そんな自分がいたからこそ、今こうして必死に働けてるのかもしれません。まあ、文句は言いつつ、最後にはちゃんと仕上げるのが、自営業者の性なんでしょう。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。