登記簿から消えた影

登記簿から消えた影

登記簿から消えた影

午前八時半、いつものようにパソコンの前でコーヒーをすすっていると、サトウさんが書類を机の上に置いた。 その顔は、いつもの塩対応よりもさらに塩っぽく見えた。 「この登記、どう見ても中間省略です。しかも、売主の記載が抜けてます」とだけ言って、すぐ席に戻ってしまった。

朝一番の登記申請トラブル

該当の登記簿謄本を見ると、たしかに現在の所有者はA氏。しかし、売買契約書では買主はC氏。 B氏の記載がどこにもない。つまり、本来間に入るはずの中間者が「影」のように消えているのだ。 「やれやれ、、、また面倒なやつが来たな」と、思わず声が漏れた。

サトウさんの塩対応が冴える瞬間

「売買契約書の筆跡、ちょっと変じゃないですか?」とサトウさん。 よく見ると、たしかに筆圧が不自然だ。どこかで見たような書体にも感じる。 彼女の言葉に背中を押され、資料を一から見直すことにした。

中間省略登記という怪物

中間省略登記はすでに実務上は廃れたはずだった。 しかし一部の業者や不動産屋の間では、今なお根強く残っているのが現実だ。 つまり、この「影」は、意図的に作られた可能性が高い。

名前がない売主の不在

B氏の登記が一度もなされていないのに、C氏が登記権利者になっている。 これは正当な登記とは言えない。もしこのまま手続きを進めれば、責任問題になる。 俺の胃がまた一段と痛くなってきた。

古い司法書士の噂話

「昔、似たような事案でトラブルになったことがあるらしいですよ」 サトウさんが言いながら出してきたのは、10年前の新聞記事のコピーだった。 そこには、不動産業者とグルになって虚偽の登記をした司法書士の名前が記されていた。

依頼人の不可解な沈黙

C氏に連絡を入れたが、「全部業者に任せています」の一点張り。 肝心の業者B社にも電話をかけたが、「担当者が不在で折り返します」との返事ばかり。 何かを隠しているような沈黙が、妙に耳に残った。

売買契約書にあった違和感

日付の箇所に、修正テープの跡があった。 それも一か所や二か所ではなく、すべての書類に同じ処理が施されている。 「これは…誰かが意図的に日付を消しているな」と思わず声が出た。

登記簿に残されたわずかな痕跡

法務局で原本還付書類を確認すると、ひとつだけ見慣れない印影があった。 印鑑登録証明書には存在しないはずのB氏の印影。 誰かが”実在しない人物”を作り出していた可能性が見えてきた。

法務局での違和感と再確認

法務局の担当者が小声で「この印影、過去に見た記憶があります」と呟いた。 記録を遡ると、3年前に似たような事例が存在していた。 その時も、登記の中間者が存在していなかったという。

元所有者の正体を追って

A氏に事情を聞くと、「私は直接Cさんに売ったと思っています」とのこと。 しかし、それは記録上の話。実際には仲介業者を通じている。 その業者が、今は廃業していると聞いて、嫌な予感がした。

「一度もそこに住んでいない」という証言

近所の住民に話を聞くと、「Cさん?ここに引っ越してきた形跡はないよ」と口を揃えた。 つまり、登記だけが動き、実体のない所有権が宙に浮いている状態。 名探偵コナンなら「これは偽装工作です」と即断するところだ。

暗躍するブローカーの影

調査の結果、B社の代表が、過去に複数の宅建業法違反で処分を受けていたことが判明。 その背後には、同じ手口で登記を操作し利益を得ていたブローカーの存在もあった。 登記の世界にも、ルパン三世のような「仕掛け人」はいるらしい。

偽造書類と実在しない委任状

委任状を分析すると、B氏のサインがすべて同じ癖のある筆跡だった。 AIで照合してみると、同一人物が書いた可能性が高いと出た。 「こりゃ完全にアウトだな……」と独りごちた。

サトウさんが見抜いた矛盾点

「この委任状、紙質が最新すぎます」 サトウさんのひと言で、最後のピースが揃った。 書類の日付は3年前、だが紙は昨年製造されたものだった。

複写された印鑑証明の謎

印鑑証明もコピーされたものだった。しかもスキャナーの跡がくっきり残っている。 原本が提出された形跡はなく、すべてが偽装だった。 「サザエさんの花沢不動産でも、ここまで雑な仕事はしないぞ…」と呟いた。

司法書士シンドウの逆転劇

全ての証拠を整理し、依頼人に手続中止を申し入れた。 抵抗はあったが、サトウさんが淡々と事実を並べたことで、相手も観念した。 最終的に、不動産はA氏に戻され、関係者は刑事告発された。

登記簿が語る真実の声

登記簿は無口だが、嘘はつかない。 その代わり、読み解く者の目を試す。 「やれやれ、、、やっぱり登記って、奥が深いな」と、コーヒーをすすりながら思った。

終わらない取引の裏側に潜むもの

事務所の窓の外には、変わらぬ街の景色が広がっていた。 しかし、その裏側には、今日もまた誰かが「見えない登記」を企んでいるかもしれない。 そしてそのたびに、俺の胃は痛くなるのだろう。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓