ときどき「何やってるんだろう」と思う日々のなかで

ときどき「何やってるんだろう」と思う日々のなかで

朝のコーヒーとため息から始まる日常

朝7時、目覚ましを止めてからしばらく布団の中でぼんやり天井を見ている。誰もいない部屋で起き上がり、インスタントコーヒーを淹れるのが日課だ。香りが立つ瞬間、ちょっとだけ「今日もやるか」と気持ちが引き締まる——ような気もするが、実際には「また同じ一日が始まる」とため息をひとつ。司法書士として独立して何年も経つけれど、朝の感情はいつまでも慣れない。家が事務所であるこの暮らし、便利なようで、心が休まらない瞬間も多いのだ。

通勤時間ゼロでも、気が重い理由

人からはよく「通勤がなくていいですね」と言われる。でも、玄関を開けた瞬間から“仕事場”に切り替わるのは、精神的にしんどいときもある。オンとオフの境目が曖昧で、気分の切り替えがうまくできない。少し遅く起きた日は、そのままズルズルと集中できない時間が続くこともある。気を引き締めようと作業机に向かっても、目の前のパソコン画面に映る自分の顔に疲れがにじんで見えると、「なんだかなあ…」とつぶやいてしまう。

玄関を開けるともう仕事場——逃げ場のなさ

以前はアパートで仕事をしていたが、事務所用に家を改装してから、より強く感じるようになったのが「逃げ場がない」ことだ。リビングから電話が鳴れば仕事モード、玄関が鳴れば来客。プライベートと仕事が完全に地続きで、油断していると「いつから働いてて、いつ休んでたっけ?」と分からなくなる。旅行に出れば「休みすぎじゃないか」と不安になり、家にいれば「今日はもっとやるべきだったか」と自己嫌悪。このループは本当に厄介だ。

「昨日の疲れが取れてない」の常態化

寝ても疲れが取れない、というのが日常になったのはいつからだろう。体力の低下はもちろんある。だが、問題はむしろ「心の疲れ」が取れていないことにある気がする。気持ちを切り替えないまま、翌朝を迎える日が増えた。つい無理して仕事を詰め込んでしまい、ミスをして自己嫌悪。そんな日は、まるで自分が壊れかけのプリンターみたいに思えてくる。紙は吐き出すけど、どこかおかしい。でも誰もメンテナンスしてくれない。

登記申請の山と、ふとした疑問

毎日、申請、連絡、チェック、納期との格闘。登記はルーチンのように見えて、ミスは致命的。そのプレッシャーに押しつぶされそうになることがある。そんな中で、ふと「これ、何のためにやってるんだろう」と思う瞬間がある。依頼者のため?生活のため?それとも、やめる理由が見つからないから?

「これ、本当に人間がやる仕事か?」という気分

オンライン申請が進化しても、なぜか確認や手直しの作業は増えるばかり。結局、電子化されても責任の所在は人間にある。AIでは処理しきれない“ニュアンス”が多すぎて、結局すべてを自分で確認してしまう。書類に誤字を見つけたとき、画面越しに苦笑いしながら、独り言が出る。「またかよ…」。やってもやっても、終わった感じがしない。それでも淡々と、日々が過ぎていく。

オンライン申請が楽になった?いやいや…

世間では「電子申請で楽になったでしょう」と言われることも多い。でも、実際には処理速度が上がったぶん、求められる納期も短くなり、ミスもより許されない雰囲気になった。加えて、データの不具合やフォーマットの違い、電子署名のトラブルなど、機械的なトラブルも日常茶飯事。紙ならすぐ修正できたものが、電子化によって余計に面倒になったと感じることも多い。

電子化の波に呑まれて、手応えが減っていく

昔は紙に押すハンコの感触で、「ひと仕事終えたな」と感じられた。今はクリックひとつで送信完了。便利ではあるが、やりきった感覚が希薄だ。効率化と引き換えに、達成感や満足感がどんどん薄れていっている気がする。毎日仕事をしているのに、「今日、自分は何を成し遂げたんだろう」と思うことが増えた。効率とやりがいは、必ずしも両立しないのかもしれない。

事務員の一言が心に刺さるとき

たった一人の事務員。彼女の存在に日々救われている。でも、だからこそ、その何気ない言葉が心にずしんと響くこともある。「先生、ちょっと疲れてませんか?」その一言に、こっちが気づかないフリをしていた疲労や不安が、一気に押し寄せてくる。優しさが染みる反面、自分の不甲斐なさに落ち込むのだ。

「先生、今日は元気ないですね」って言われた朝

ある朝、コーヒー片手に事務所に入ると、彼女が心配そうに声をかけてきた。「先生、最近、顔色よくないですよ」。たしかに、その前の晩は寝つきが悪く、朝まで書類の確認をしていた。そんな自分を見透かされたようで、情けなさとありがたさが同時にこみ上げてくる。誰かが見てくれている安心感と、「見せちゃいけない弱さを見せた」ような敗北感。どちらも本音だ。

優しさに救われて、同時に焦る

彼女のやさしさに触れた瞬間、「自分もちゃんとしなきゃ」と思う。でもその“ちゃんと”がよく分からない。もっと売上を上げること?もっと早く仕事を回すこと?はたまた、もっと笑顔でいること?答えは見つからないまま、ただ焦燥感だけが増していく。感謝してるのに、プレッシャーも感じてしまう。そんな自分がまた嫌になる。

ひとりじゃできない現実と、依存の怖さ

開業当初は一人で全部やっていた。だからこそ、今誰かと一緒に働けていることがどれだけありがたいか分かっている。でも同時に、彼女に頼りきっている今の状況には少しだけ怖さもある。もし辞められたらどうする?今の自分にまた全部抱えきれるのか?人を雇うことの責任と、人間関係の難しさ。それでも、ひとりでは続けられないことはもう分かっている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。