もうやめたいって言いかけた日

もうやめたいって言いかけた日

朝起きた瞬間から心が重い

司法書士の仕事って、華やかなイメージを持たれることもありますが、実際は地味で神経をすり減らす作業の連続です。朝起きて、カーテンを開ける前から「今日もまた一日が始まるのか」とため息が出るようになったのは、いつからだったでしょうか。身体よりも先に気持ちが布団から出たがらない。そんな日が続くと、自分の中の何かがどんどん薄れていくような感覚になります。

布団から出るのが一番の仕事になった

「よし、今日は頑張ろう」と思える朝なんて、正直なところ、最近ではほとんどありません。アラームが鳴っても手を伸ばす気にもなれず、何度もスヌーズを繰り返す。結局、ぎりぎりになって慌てて身支度をするのが日課です。前の晩に「明日は早めに出て、書類の整理を…」なんて考えていた自分に「お前、甘いな」と突っ込みたくなるくらい、気力が湧かない。布団から出る、それだけで一仕事。

「今日だけでも休みたい」と思ってしまう自分

「今日は無理かもしれない」そんな思いが頭をよぎることもあります。でも、休めばその分だけ仕事が溜まる。信頼も揺らぐかもしれない。そう思うと、無理してでも事務所に向かうしかないわけで…。独立したからこそ自由があるはずなのに、その自由はどこかに消え去って、むしろ責任という名の重しばかりが残った気がします。少しでも休んだら、自分が崩れてしまいそうで怖いんです。

それでも這うように事務所へ向かう理由

なぜ、それでも事務所のドアを開けるのか。正直、自分でもよくわかりません。ただ、放り出してしまうことが怖い。あのとき野球部で、どれだけ悔しくても試合を投げ出さなかったように、どこかでまだ「踏ん張ればなんとかなる」と信じたい気持ちがあるんです。あの頃と違って、今は応援の声もないけれど、それでも誰かが自分を必要としてくれているかもしれない。その可能性にすがっているのかもしれません。

電話のコール音にビクッとする毎日

電話が鳴るたびに、心臓がギュッと縮こまる。そんな感覚が当たり前になって久しいです。昔は「新しい依頼かもしれない」と前向きに受け取れていたのに、今は「何かトラブルでも起きたか」と身構えるようになってしまいました。そんな自分に、また落ち込む日々。電話一本で一日が台無しになることもあるこの仕事、心の平穏なんてどこへやらです。

依頼じゃなくてクレームじゃないかと疑ってしまう

ある日、朝一番の電話が明らかに怒気を含んだ声で始まりました。内容は、書類の到着が遅いことへの不満でした。発送手続きも期限も守っていたのに、相手の期待値とずれていた。それだけのことなのに、まるで自分が犯罪でも犯したかのような責められ方をする。そんな出来事が一つでもあると、次に鳴る電話が「爆弾」に思えてしまう。まるで地雷原を歩くような気分です。

自分の仕事に自信が持てなくなる瞬間

クレームを受けた後、机に戻っても手が震えて書類がめくれないことがあります。「あれは自分が悪かったのか?」「いや、正しかったはずだ」と頭の中でぐるぐる考え続けてしまう。自信というものは、一度崩れると立て直すのが難しいですね。誰かに「大丈夫ですよ」と言ってもらえるだけで救われるのに、それを求める相手すらいない日常が、また自信を奪っていきます。

それでも「先生」と呼ばれる違和感と救い

それでもやっぱり、「先生、ありがとうございます」と言ってもらえる瞬間があります。そのたった一言で、ギリギリの自分がもう少しだけ頑張ろうと思える。妙に皮肉ですよね。「先生」なんて呼ばれる資格があるのかと自問することもあるけれど、それでも呼んでくれる人がいる限り、自分を完全に否定せずに済んでいる気がします。

それでも明日も事務所の鍵を開ける

やめたいと思う日なんて、数えきれないほどありました。でも、何度もそう思って、それでも次の日にはまた事務所のドアを開けている自分がいる。たぶん、それがもう習慣になっているんでしょう。仕事に愛着があるというより、離れることのほうが怖い。自分が自分でいられる場所を、自分自身が守ろうとしているような、そんな気がしています。

この仕事に救われた過去も確かにある

思い返せば、仕事に救われた瞬間もありました。たとえば、母の入院時、依頼人からの感謝の手紙を読んで、涙が出るほど励まされた日。誰かの人生に関わって、少しでも役に立てたという実感。それが自分の存在価値を確認させてくれた。その瞬間だけは「この仕事をやっててよかった」と、素直に思えたんです。

やめたいと思う日があるからこそ続けられる

きっと、やめたいと思うくらい真剣に向き合ってるからこそ、ここまでやってこれたのかもしれません。どうでもよければ、悩まないし苦しまない。今日を乗り越えた自分を、少しだけでも褒めてやりたい。そんな積み重ねが、意外と力になっていたりします。

あなたにも、そして昔の自分にも伝えたいこと

もし今、「もうやめたい」と思っている人がいるなら、どうか自分を責めすぎないでください。そんなふうに感じるのは、頑張っている証拠です。昔の自分にもそう伝えたい。誰かに「つらいよな」と言ってもらえるだけで救われることもある。この文章が、その小さな「うなずき」になれたら、それだけで報われます。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。