不動産業者と話すたびに胃が痛くなる日々

不動産業者と話すたびに胃が痛くなる日々

不動産業者と話すたびに胃が痛くなる日々

不動産業者との会話がなぜこんなにも疲れるのか

司法書士という立場上、不動産業者と関わる機会は多い。特に売買や相続関連の登記に絡む場面では、彼らと連携を取らねばならない。しかし、何度やっても感じるのが「話が噛み合わない」こと。相手は商売、こちらは法務。見ているゴールが微妙に違うせいか、こちらの常識が通じない場面も多い。最初は「自分の説明が悪いのか」と思っていたが、ある日ふと「いや、これは文化が違うのでは」と気づいた。

スピード感が合わないと感じる瞬間

不動産業者とやり取りする中で、一番しんどいのはスピード感の違いかもしれない。彼らは「即日対応」や「即決」が基本スタイル。だが、司法書士は慎重に確認しながら進めるのが当然だ。ある日、「今日中に売買契約を締結したい」と言われた依頼で、重要事項の説明があやふやなまま書類だけが先に届いた。確認するにも資料が不十分。夜の8時に「明日までに頼む」と連絡が来て、思わず胃がキリキリした。冷静にやらないといけない仕事なのに、急かされるとミスが出る。それがどれだけ危険か、あまり伝わっていない気がする。

向こうは今日決めたいこっちは来週でもいい

実際、こちらとしては「契約なんて来週でも良いんじゃ?」と思うような案件でも、業者は「今日中に」「今決めたい」と強く言う。理由を聞くと「このお客さん、他に流れる可能性があるから」など、営業的な理由ばかり。気持ちは分かるが、登記に必要な書類が揃っていない状態で進めようとするのは本末転倒だ。私たちの「ちゃんと揃えてから動こう」という感覚は、営業サイドにはどうも伝わりづらい。

話が早すぎて内容がすり抜けていく

ときどき電話の会話が早口すぎて、内容が頭に入ってこないこともある。確認のために「すみません、もう一度お願いします」と聞き返すと、少し間があってから「いや、大丈夫です、進めてください」と返される。何が大丈夫なのか分からないまま、進めてしまうことの不安。昔、そうやって一度痛い目を見た。買主の名前の表記が違っていて、あとから訂正登記になったことがある。焦るとロクなことがないのに、どうしても彼らのスピードに巻き込まれてしまう。

契約や書類の認識のズレがストレスになる

登記に必要な書類を揃える段階でも、ズレは頻繁に起きる。「これで足りますよね?」と渡された資料一式を見て、こちらが言葉を失うこともある。契約書の原本がない、印鑑証明の有効期限が過ぎている、そんなことがざらにある。あちらは「これまでこれで通ってきた」と言うが、だからといって今回も大丈夫だとは限らない。

あちらの「簡単」はこちらの「危険」

「今回の取引は簡単ですよ」と言われたときほど、むしろこちらは構える。実際には、売主と買主の住所が違っていたり、建物が未登記だったりと、手間のかかる案件が多い。お互いの「簡単」の基準がまるで違う。彼らの「すぐ終わる」は、単に「目立ったトラブルが表面化していないだけ」で、裏で爆弾を抱えているケースもある。笑って済ませるわけにはいかないのが司法書士のつらいところだ。

書面に残らない会話の怖さ

口頭でのやり取りが多く、あとで「そんな話しましたっけ?」となる場面も多い。特に問題になるのが報酬や手数料の部分。司法書士としては報酬について明確にしておきたいのだが、不動産業者が「あとで調整しましょう」と曖昧なまま進めようとすることがある。メールで確認を取るようにはしているが、それすら嫌がる業者もいる。何かあったとき、証拠が残っていないことの怖さは計り知れない。

感情の温度差が心にくる

一番しんどいのは、やっぱり「気持ちの温度差」だと思う。こちらが慎重に丁寧に進めようとしているのに、相手が「ちゃちゃっと終わらせましょうよ」と軽く扱うと、なんだか心が削れる。人によっては「堅いですね~」と笑ってくるが、それを堅くやらないとトラブルになるのがこの仕事だ。

こちらは一人の人生相手はノルマ

登記はただの作業ではない。依頼人にとっては人生の大きな節目である売買や相続の場面なのだ。だからこそ、慎重に、正確に行う責任がある。しかし不動産業者にとっては「月に何件成約できるか」が大事。扱っているものが同じ「不動産」でも、見ているものが違うと、こんなにも気持ちが通じ合わないものかと思う。

事務的な態度にどうしても温度差を感じる

特に仲介業者から「ハンコもらえればOKですから」と言われると、心の中で「いや、OKじゃない」とツッコミたくなる。こちらとしては印鑑をもらう前に確認すべきことが山ほどあるのに、まるでそれが無意味であるかのような言い方。仕事とはいえ、時々心が折れそうになる。

「早く決めた方が得ですよ」の圧がしんどい

顧客にもプレッシャーをかける場面に遭遇することがある。「早く決めた方が得です」「他にも検討してる方がいますよ」といった営業トーク。その場に立ち会うと、依頼人が困惑しているのがわかる。そういうとき、司法書士として中立でいたいのに、つい依頼人の側に立ってしまう。信頼関係を守るためにも、こうした圧にどう向き合うかは悩みの種だ。

地方ならではの不動産事情のズレ

地方で司法書士をやっていると、都会とは違う独特の不動産事情に直面する。空き家が多いのに、なぜか価格が下がらない。買い手も少ないのに、業者は強気。そのあたりの感覚にも、業者とのズレを感じずにはいられない。

空き家が多いのに価格が全然下がらない

自分の事務所のある地域でも空き家は年々増えているが、不動産業者は相変わらず「この価格で売れる」と言い張る。たとえば築40年の家に対して、依頼人が「これ、100万くらい?」と聞いても、業者は「いや、最低でも400万です」と即答する。そう言われると依頼人も混乱するし、結果として取引がうまくいかないこともある。地元の相場と業者の価格感が一致しないと、どこか虚しさを感じる。

業者の強気な態度にモヤモヤ

ある時など、「値下げ交渉には応じません」と最初から突っぱねた業者がいて、依頼人が「やめようかな」と言い出した。結局、その案件は流れてしまった。こちらとしては登記の準備まで済ませていたので、時間も労力も無駄に。そうした強気な態度が、逆に商機を逃していることもあるのに、なぜ気づかないのか。愚痴っぽくなるが、もっと柔軟にやってくれれば…と思わずにはいられない。

地元民の相場感覚との乖離

地域に根差した司法書士として、地元民の「これぐらいで売れたら御の字」という相場感覚はわかる。だが、業者は首都圏の価格感覚を持ち込んでくることがある。「このエリアなら坪単価15万は出ますよ」と言われても、現実には10万も難しい。そのギャップが取引の障害になることもあり、もどかしさばかりが募る。

司法書士としての立場でもどかしい瞬間

私たちは「登記のプロ」として関与するが、時に「書類係」扱いされることもある。本来は法的なリスクを管理し、トラブルを未然に防ぐ役割を担っているはずなのに、その価値が十分に理解されていないと感じる瞬間がある。

登記や権利の説明が雑に扱われがち

「登記のことはあとでまとめて聞きます」と後回しにされたり、「そのへんは司法書士さんにお願いしてあるんで」の一言で全てを片付けられることもある。依頼人との打ち合わせ時間が短くなり、必要な確認が十分にできないまま進むと、後でトラブルになる。司法書士の本来の役割が軽視されているようで、悔しい。

「細かい話は司法書士さんに」で丸投げ

とくに契約締結の場で「細かい部分は司法書士さんがやってくれますから」と業者が言うと、依頼人は「じゃあ任せます」となってしまう。だが、こちらにはその「細かい部分」が一番重要なのだ。人の人生を左右する話を「ついで」にされると、やり切れない気持ちになる。

それでトラブルになったらこっちの責任

最終的に問題が起きれば、「司法書士がちゃんと確認していなかった」と言われかねない。説明責任やリスク管理は、こちらが背負うことになる。だからこそ、曖昧なまま話を進められるのが何より怖い。実際に、ある案件では名義変更の確認不足で相続人の一部が抜けており、補正対応に追われた。疲れ果てたが、結局誰も謝らなかった。

まとめ 本当にズレているのは誰なのか

不動産業者と司法書士、それぞれの立場の違いがズレを生むのは当然だ。けれど、そのズレを放置してしまうと、依頼人にとって不利益になる。それだけは避けたい。そのためには、こちらが「面倒くさいやつ」と思われようとも、言うべきことは言うしかない。今日もまた、胃に優しくない一日が始まる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。