誰に頼まれたわけでもないけれど印紙には詳しくなった
別に好きで覚えたわけじゃない。だけど、司法書士を長くやっていれば、いやでも印紙の扱いには詳しくなる。気づけば、金額を聞けば即答で「それなら2000円です」と出てくるようになっていた。最初は戸惑ったものだ。「この登記に貼る印紙は…?」と何度も調べていた頃が懐かしい。今じゃ、印紙の金額を暗記しているのがちょっとした自慢になっている。何の役にも立たないけど、間違えたら怒られるし、実は地味に重要な知識なのだ。
毎日のように貼っていると自然と覚えるもの
ルーティンというのは本当に侮れない。毎日同じことを繰り返していると、意識せずに身体が覚えてしまう。印紙もその一つだ。登記申請のたびに必要になるので、手が勝手に動くようになる。だからといって楽しいわけじゃない。日々の忙しさに追われながら、印紙を取り出して、貼って、申請書に収めていく。ただそれだけ。でも、だからこそ間違いが許されない。印紙は地味だけど、正確さが求められる世界だ。
印紙の扱いを間違えると怒られるが恋愛はそもそも始まらない
印紙を貼り間違えたら、クライアントからの信用を失うことだってある。だから真剣にやる。でも、恋愛は…そもそも始まりすらしない。怒られることもなければ、感謝されることもない。反応がゼロだ。それなら印紙の方がまだマシだ。数百円単位の話でも、「よく知ってますね」なんて言われることもある。人との関係がうまくいかない分、書類との関係が密になっていく。悲しいけれど、それが今の私のリアルだ。
結婚相談所より法務局の場所の方がすぐ出てくる
「結婚相談所の場所?」と聞かれても、たぶん5秒では思い出せない。でも「○○法務局ってどこにあります?」なら、即答できる自信がある。そんな自分が、ちょっと嫌になることもある。婚活が必要な年齢はとっくに過ぎたけれど、それを放り出して、登記のことばかり考えて生きてきた。気づけば、結婚という言葉がどこか遠いものに思えてきた。代わりに、登記完了の達成感にささやかな喜びを感じている。
婚姻届より登記申請書の方が書いた回数多い
一般的な人は、一生に一度か二度しか書かない婚姻届。でも、登記申請書は週に何枚も書いている。自分の名前を書くことは少ないけれど、他人の人生に関わる書類を日々作っているのだ。皮肉なことに、そうした他人の人生を整えることには慣れてしまった。自分の人生?それは書類の合間に、なんとなく置き去りにされている。気づいたときには、もう婚姻届を書くタイミングを逃してしまった気がする。
独身の理由は忙しさか性格かそれとも印紙か
よく「なんで結婚しないの?」と聞かれる。毎回「忙しいから」と答えるけれど、本当はよくわからない。ただ、性格の問題もあるかもしれないし、もしかしたら印紙に詳しくなりすぎたことも原因かもしれない。冗談のようで、本気でそう思う時もある。休日も仕事のことを考えているし、恋愛に割く心の余裕がない。気づけば、結婚のチャンスを見送ってきた結果が、今のこの生活なのだろう。
モテなさすぎて優しさが染み出てしまった
人と関わる時間が少ないからこそ、誰かと話すときには丁寧になりすぎる。それが「優しい」と言われる理由かもしれない。でも裏を返せば、そうでもしないと繋がりを持てないのだ。モテる人は自然体で人と接する。でも私には無理だ。意識しすぎてしまうし、相手の顔色ばかり気にしてしまう。結果として、どこか壁を感じさせてしまうのだろう。優しさと距離感が、ますます独りを深めていく。
相談は受けるけど恋の話にはならない
クライアントからの相談は多い。不動産のこと、相続のこと、登記のこと…。真剣な相談ばかりで、こちらも本気で応える。でも、恋の相談なんてされたことがないし、自分からもしたことがない。恋愛は、なんだか自分には無縁なテーマになってしまった。もし相談されたら困るだろうな…と思うくらいには、遠い話だ。そんな自分が、少し寂しくて、少し情けない。
自分の優しさは仕事用に全振りしている
たぶん、優しさを発揮する場所を間違っているのだと思う。事務所では、クライアントにできる限り丁寧に接するし、ミスがあれば全力で謝る。事務員さんにも気を遣う。でも、プライベートではその優しさを誰に向ければいいのか分からない。恋人がいれば…と考えることもあるけれど、その優しさをどこかに持っていく場所がないのが現実だ。仕事で使い果たして、夜にはただの無口な男になる。
たまに事務員さんにだけ優しさがバレてしまう
「先生って、意外と優しいですよね」と言われたことがある。事務員さんに、不意に言われて、ドキッとした。いや、優しくしてるつもりなんてなかった。ただ、気遣っただけ。でも、その一言が妙に心に残った。もしかして、誰かに気づかれるくらいには、寂しさが滲んでいたのかもしれない。普段は無口でも、誰かが少しでも見ていてくれると、少しだけ救われた気がする。