なぜ「気になる人がいても動けない」のか
好きな人ができた。でも声をかけることすらできない。そんな葛藤を何度も経験してきた。司法書士という仕事柄、人と接する機会はあるものの、プライベートとなると途端に臆病になる。自分の中に芽生えた気持ちをどう扱っていいのかわからず、ただただ時間だけが過ぎていく。そして気づけば何もせずに終わっている。そんな自分に嫌気がさすけれど、また同じことを繰り返してしまう。なぜ自分は動けないのか──その理由を見つめ直してみたい。
気持ちだけが先走って、行動がついてこない理由
心の中では「あの人と話したい」「もっと知りたい」と願っていても、実際には何も行動に移せない。相手に迷惑をかけるかもしれない、嫌われるかもしれない、そんな思いが頭をよぎり、一歩を踏み出せない。私はかつて、何度もお昼時にコンビニで同じ女性と出くわしていたことがあった。「今日も会えるかな」と期待するくせに、すれ違うだけで声をかける勇気は出なかった。気持ちだけが膨らみ、行動はいつもゼロ。それが現実だった。
仕事に追われて自分の気持ちを見失う
地方で一人事務所を構えていると、毎日が事務処理と登記申請との戦いだ。朝から電話に追われ、午後は役所回り。気がつけば一日が終わっている。「忙しい」を言い訳にしているつもりはなかったが、実際にはそれが自分の気持ちから目を逸らす道具になっていた。気になる人がいても、「今はそれどころじゃない」と思い込もうとしていた。でも本当は、単に勇気がなかっただけなのかもしれない。
失敗したくないという防衛本能
恋愛で傷つくことを、年を重ねるほどに恐れるようになった。若い頃は勢いだけでアプローチできたものが、今では慎重さばかりが先立つ。「断られたらどうしよう」「周囲に変な目で見られたら嫌だな」。こうした思いが、無意識のうちに行動を抑えつける。まるで自分の中の防衛本能が「やめとけ」とブレーキをかけているようだった。だがその結果、なにも始まらないという現実だけが残るのだった。
独身司法書士の哀しき日常と恋愛のすれ違い
地方で独身、司法書士、男性──この三拍子が揃うと、なかなか人との縁に恵まれない。そもそも出会いが少ない上に、仮に気になる人ができたとしても、生活リズムがまったく合わなかったりする。自分にとってはほんの少しの勇気が必要な場面でも、相手にとってはただの一瞬かもしれない。その一瞬を逃すと、次はもうやってこないことも多い。だからこそ、すれ違いの苦しさはいつも心に残る。
平日も土日も予定が埋まる「忙しいふり」の現実
忙しいふりをしているつもりはなかった。でも実際には、予定帳を埋めることで自分の寂しさをごまかしていたのかもしれない。平日も土日も、つねに仕事関連の予定を入れて、「動けない理由」を無意識に作っていた。それが誰かと向き合う時間から逃げる手段になっていたことに、後になって気づくのだ。誰かと向き合うには、まず自分と向き合わないといけない。その覚悟が足りなかった。
「時間ができたら」なんて来ない
「仕事が落ち着いたら」「時間ができたら」なんて言い訳は、結局ずっと時間ができないままで終わる。タイミングを見て動こうとする自分は、実は動く気がないのだ。気になる人がいても、「今は時期じゃない」と逃げるだけ。だが、気持ちには有効期限がある。何もせずにいれば、相手もどんどん遠くなっていく。動くなら「今しかない」と、自分に言い聞かせる必要があるのだと思う。
誰にも相談できない恋愛の悩み
恋愛の悩みって、案外誰にも話せないものだ。特に司法書士という肩書きがあると、変にプライドも邪魔をする。同業者や関係者に相談すれば噂が立つのでは、と身構えてしまう。だからこそ、ひとりで抱え込んでしまいがちで、結果として動けないまま終わってしまう。そういう悩みを打ち明けられる相手がいれば、少しは状況も変わるのかもしれない。
同業者には話しづらい微妙な距離感
地方では業界内の人間関係が狭い。誰に何を話したかがすぐに広まる。だから「気になる人がいる」なんて話を同業者にはなかなか言えない。距離が近すぎると、逆に心の距離が遠くなってしまうこともあるのだ。実際、昔ある同業の先輩に相談したことがあったが、いつの間にか話が広まっていて、気まずくなってしまった。それ以来、人に話すことが怖くなってしまった。
噂が立つのが怖い
「○○さんのことが気になるらしいよ」なんて噂が、役場や取引先にまで広がったらどうしよう。そう考えると、口を閉ざすしかなかった。地方というのは、良くも悪くも人間関係が密接だ。親切な人も多いが、裏を返せば噂話も早い。だからこそ、誰かを好きになるという気持ちすら、抑え込んでしまうのかもしれない。
プライドと孤独の間で揺れる気持ち
「バレたくない」「馬鹿にされたくない」というプライドがある一方で、「誰かと繋がりたい」という寂しさもある。その間で揺れる気持ちに、自分でもうんざりする。気になる人ができたのに、素直になれない自分。そんな自分に対して、情けなさと苛立ちが交錯する。でも、それが今の自分なんだと認めるところからしか、始まらないのかもしれない。