甘えたいけど甘えられない僕の事件簿

甘えたいけど甘えられない僕の事件簿

甘えたいけど甘えられない僕の事件簿

甘えるってなんだろう 僕には見えなかったもの

司法書士としてそれなりに長くやってきたが、人に頼るのが苦手だ。
幼い頃から「しっかりしなさい」と言われて育ったせいか、弱音を吐くことに妙な罪悪感がある。
その日も、疲れた顔ひとつ見せずに書類の山をさばいていた。
サザエさんで言うなら、僕はいつも裏で波平の小言を処理しているカツオの担任のような存在だ。誰からも見えないところで淡々と働く役回り。

子どもの頃から「しっかり者」だった

長男気質で、親の手伝いをして、弟たちの面倒も見て、塾にも通っていた。
「甘える暇があるなら努力しろ」そんな空気が、家には常に漂っていた。
その延長線上に、今の僕がいる。
甘え方がわからないまま、大人になった。

頼られる側に回ったままの人生

司法書士という職業柄、相談されることが多い。
人の悩みは受け取れるのに、自分の感情はどこか置いてけぼり。
昔、誰かが言っていた。「聞き上手ほど孤独」だと。
ああ、それは僕のことかもしれないなと思った。

助けてほしいのに「大丈夫」と言ってしまう

どんなにしんどくても、「大丈夫です」と口が先に動く。
「助けて」と言えたら、どれだけ楽だったろうか。
でも、弱さを見せたとたん、誰かが離れていくような気がして。
結局、一人で抱えるクセだけが育ってしまった。

事件は静かに始まった 見えないSOSのサイン

その依頼人は、30代後半の女性だった。
相続手続きの相談だったが、話の節々に違和感があった。
書類の不備、確認ミス、そして何よりも「必要以上に謝る癖」。
僕はどこかで彼女に自分を見ていた。

依頼者の違和感 見落とされた書類の痕跡

彼女が持参した戸籍には、なぜか出生地の記載が欠けていた。
普通はあり得ない。誰かが意図的に外したとしか思えない。
「これは、誰かに止められませんでしたか?」と聞いた瞬間、彼女の目が潤んだ。
甘えられない人間は、間違いを認めることもまた、怖いのだ。

サトウさんのひと言に刺された胸の内

事件の調査中、サトウさんがぼそっと言った。
「先生こそ、誰にも頼ってないですよね」
やれやれ、、、その通りだ。
自分では気づかないフリをしていたことを、あっさり突かれた。

無意識のメッセージに気づいた時

書類に記された些細なズレ、会話の端々の不自然な笑顔。
あれは彼女なりの「助けて」のサインだったのだろう。
まるで探偵漫画の伏線のように、最初からヒントはあった。
気づけなかった僕が、今度は彼女に甘える番だったのかもしれない。

心の壁を解く鍵は ほんの些細なやりとり

僕はついに出生地の件を法務局で裏どりし、封印された真実を突き止めた。
彼女の父が、正妻ではない女性との間に彼女をもうけたこと。
彼女の存在自体が「見えないもの」にされていたのだ。
僕の胸に、奇妙な感情が走った。「それでも、ちゃんと届けよう」
自分が甘えられないのは、誰かのせいじゃない。
でも、誰かのためなら、少しだけ素直になれる気がした。

最後の書類を届けた日 ほんの少し素直になれた

彼女は静かに頭を下げ、「ありがとうございました」と言った。
僕はそこで、いつも通り「いえ、大丈夫です」と答えかけて——やめた。
「こちらこそ、頼ってくださってありがとう」
僕の声が震えていたのは、たぶん気のせいじゃない。

甘える勇気と信じる心

甘えるって、誰かに迷惑をかけることじゃない。
信じて、心を少しだけ預けること。
そう気づけたのは、この小さな事件のおかげだった。
カツオのようにちょっとずるくて、ルパンのように軽やかで、でも最後には誰かを救う。
そんな生き方が、ちょっとだけ憧れに変わった。

甘えたいけど甘えられない僕の事件簿——完。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓