「別に急ぎじゃないです」が怖くてたまらない
「別に急ぎじゃないですから、時間のあるときで大丈夫です」と言われた瞬間、私はむしろ緊張してしまう。これは司法書士という職業病なのかもしれない。たしかに、文字どおりに受け取って、他の急ぎ案件を先に処理すればよいのだろう。でも過去に「急ぎじゃないと言われた案件」を後回しにしていたら、のちのち「まだですか?」と催促された経験が数えきれないほどある。結局、“急ぎじゃない”の裏には“忘れないでね”とか“なるべく早く”というニュアンスが含まれていることが多い。こういうの、ほんと心に悪い。
一見やさしい言葉ほどプレッシャーになる矛盾
人間っておかしなもので、「急いでください」と言われるより「急ぎませんよ」と言われたほうが、プレッシャーを感じることがある。特に私は、もともと真面目というか、断るのが苦手な性格なので、「急ぎじゃないから後ででいいよ」という言葉が逆に心に重くのしかかる。まるで「気づいたらやってくれるでしょ?」という期待が込められているようで、やらなかった場合の罪悪感が倍増する。結局のところ、“やさしさの皮をかぶった爆弾”みたいな言葉なのだ。
本当に急ぎじゃないなら最初から頼まない説
経験上、本当に急ぎじゃない人は、わざわざ「急ぎません」とすら言わない。ぽつんと書類を置いて、「暇なときにでも見といてください」とだけ言って帰っていく。むしろ「急ぎじゃないです」とわざわざ口に出す人ほど、内心は“早くやってくれると助かるなあ”と期待している気がしてならない。たとえば昔、商業登記の依頼で「締め切りは来月だから本当に急ぎませんよ」と言われた件を1週間寝かせたら、「進捗どうですか?」とメールが来た。いや、早く知りたかったんじゃん。
無意識に「気を利かせてくれるよね」と思われてるかもしれない
こういうのは、たぶん相手が悪いわけでもなく、無意識なのだと思う。依頼者からすれば、「急がない」と伝えることで相手に気を遣ったつもり。でも、こちらからすると“気を遣っているようでいて、実は配慮のボールを投げられている”感じ。結局そのボールを拾って走るのはこちらなんだよね。そもそも、気を利かせてくれるだろうという前提がどこかにある。そういう見えない期待に応え続けていると、気づかぬうちにこちらが疲弊してしまう。
後から責められるのが一番つらい
「急ぎじゃないです」と言われた手前、こちらも他の案件を優先する。でもそういうときに限って、時間が経つと「まだできてませんか?」と連絡がくる。心の中では「いや、あなたが急ぎじゃないって言ったから…」と叫びたくなるけど、表情は平静を装って「もう少しでご用意できます」と答える自分がいる。たった一言で責められたように感じてしまうのは、自分の気の小ささかもしれないけど、そういうプレッシャーの蓄積って、本当にボディブローのように効いてくる。
「言わなくても察してほしい」は無理ゲーです
そもそも、「急ぎじゃないって言ったけど、実は急いでるんです」という気持ちを察して動けというのは、こちらにとっては不可能なゲームだ。司法書士って、そんなにエスパーじゃない。言葉通りに受け取って動くのが基本なのに、裏を読めと暗に要求される。昔、「あえて急ぎじゃないって言ったんですけど、やっぱり今日中がよかったんです」と言われたときは、さすがに椅子からずり落ちそうになった。察しの文化もほどほどにしてくれ。
やらなかった自分が悪いのかやっぱり
そんなふうに言われたあと、自分の中で“いやいや、相手が悪いでしょ”と思う一方で、“でも言葉をうのみにした自分も悪いのかも”と自己嫌悪にもなる。この「どっちも悪くないけど、誰かが傷つく」状態が一番しんどい。なまじ自分が優しい性格なぶん、責められても相手を責め返せないし、ただただもやもやが残る。結局、誰かが明確に「これは急ぎ、これは後で」と線を引いてくれたらいいのにな…と、子どもみたいなことを考えてしまう。
事務員さんの一言が判断を左右する現実
うちの事務所は事務員が一人。もちろん頼りにはしているけど、人手が少ない分、事務員のちょっとした言葉がこちらの判断に大きく影響することがある。「あの人、急ぎじゃないって言ってましたよ」という一言で、優先順位を変えることもある。でもそれが裏目に出るときもある。事務所の規模が小さいって、こういうところにもしわ寄せがくる。
「急ぎじゃないって言ってたから」って伝えたのに…
ある日、事務員が「この案件は急ぎじゃないらしいです」と教えてくれたので、他の案件を優先して処理した。ところが数日後、「〇日までにできるって聞いてたんですが」とお客様から電話。冷や汗ダラダラで「確認します」と答えながら、心の中では「どこでそんな話が?」と混乱した。どうやら依頼者は軽く「急ぎませんよ」と言っただけで、その後に事務員が「じゃあ〇日以降でいいですね」と言ってしまったらしい。つまり、二人の“なんとなく”が合体して、誤解になった。
伝言ゲームで火種が育つこともある
小さい事務所では、ひとつの言葉が変換されて伝わるだけで、大問題に発展することがある。依頼者の曖昧な言葉、事務員の気遣い、私の解釈。これが三段活用されて、いつの間にか「依頼内容と納期が変わってる」という事態になる。これ、伝言ゲームですよ。責任の所在が曖昧になるのも厄介で、謝るのは最終的に司法書士である私。何度もこういうことがあると、「もう全部自分で聞いて処理したい」と思うけど、現実的にはそれも無理なんだよね。
だからと言って全部自分で抱え込んでると潰れる
結局、事務員を信頼しないとやっていけない。でもその信頼が裏切られたと感じると、もう自分でやったほうがいいってなる。でも自分で全部やってたら、業務がまわらない。こうして今日も、「急ぎじゃないけど大事」な案件が、机の上で静かにプレッシャーを放ち続けている。誰か、「急がない仕事をどう扱えばいいか」っていうマニュアル作ってくれないかな…。そう思いながら、今日もせっせと地雷案件に手をつけている。