崩された一日のリズム──また呼び出しか
司法書士という仕事をしていると、「予定通りに一日が終わることが奇跡」なんてことを、つい口にしてしまうことがある。朝、自分なりにその日のスケジュールを組み立て、「今日は書類整理と不動産の登記関係を進めよう」と決めるのだが、気づけば予定はぐちゃぐちゃ。理由は簡単。「急な呼び出し」だ。予定していない電話が鳴り、「今からちょっと来れますか?」と頼まれれば、断りきれず出かけてしまう。まるで自分の時間が他人の一言でコマのように回り始めてしまうような感覚に襲われる。
せっかくの段取りが水の泡
私は毎朝、その日のタスクをノートに書き出す。優先順位も付けて、効率よく回せるよう工夫しているつもりだ。でも、それは“何も起きなければ”の話。午前10時を過ぎたあたりから「先生、今日の午後、立ち会いお願いできませんか?」の連絡が飛び込んでくる。しかもそれが、片道1時間かかるような場所であることもざらにある。こうなるともう、その日立てた計画など存在しないも同然。自分の段取りなんて、他人の急用の前では風前の灯だ。
朝から練っていた計画の崩壊
ある日、午前中に重要な書類を仕上げ、午後から役所に出す段取りをしていた。珍しく、うまくいきそうだと心の中でガッツポーズした矢先、携帯が鳴った。「どうしても今日中に…」という常連のお客様の声。たしかにお世話になっている方だった。結局、午前中のペースは崩れ、午後の役所行きもキャンセル。気づけば、机の上には出しそびれた書類が溜まり、夜遅くに虚しく片付ける羽目に。あのガッツポーズ、返してくれ。
「午後に片付けよう」と思っていた書類の山
午後にまとめてやろうと“寝かせていた”仕事たちが、急な対応によってすべて夜行きに変更になる。しかも、急な外出があると、戻ってきた頃には頭も体も疲れ切っていて、「この後に書類整理?」という絶望感すら覚える。最終的に、終電近くまで電気をつけたまま、机の前で寝落ちしていたこともある。何をやってるんだろうと、自分が情けなくなる。
依頼人の「ちょっとだけ来て」に振り回される
「ちょっとだけ」という言葉ほど、信用ならないものはない。特に司法書士業界では、その“ちょっと”が1時間2時間は当たり前。移動時間を含めれば半日消えることもある。「すみません、5分だけでいいんです」と言われても、それが5分で済んだ試しはない。いつしか私は、「ちょっと」という言葉に過剰反応するようになってしまった。
その「ちょっと」が重たいんです
とある取引先から「ちょっと書類の説明だけお願いしたい」と言われたことがあった。すぐ終わると言われ、車で1時間かけて現地に向かう。着いてみると、準備がまったくできておらず、「実はこの内容も確認してもらいたくて…」と追加案件が次々と登場。終わってみれば、帰宅は夜9時。交通費も出ないし、事務所の仕事は溜まるしで、帰り道のラジオすら虚しく感じた。
現地対応はいつもイレギュラー
現地に行ってしまうと、どうしてもその場の空気に飲まれてしまう。登記書類だけでなく、相続人の確認や契約書の文面の見直しまで、急に「せっかく来てもらったので…」と追加されるのが日常。最初はやさしさから引き受けていたが、最近では「これは誰の予定なんだ?」と虚しさが先に立つ。そう思いながらも、怒れない性格なのがまた腹立たしい。
急ぎ案件ほど下準備ができていない不安
急な呼び出しには、なぜか「準備不足」がつきまとう。しかも、そういう案件に限って「今日中に」と期限がタイトだ。何の資料が必要なのかもよくわからないまま現場に向かい、現地で初めて「これは…無理では?」と冷や汗をかくこともある。結果として、あとから慌てて書類を作り直す羽目になり、結局二度手間三度手間。効率とは真逆の世界に生きているようだ。
事務所に残された事務員さんの焦り
私が急な呼び出しで外出すると、事務所には事務員さん一人が残される。もちろん事前に予定を共有していないので、「あれ、先生いないの?」と訪問者に不審がられることもしばしば。電話応対や来客の対応もひとりでこなすことになり、明らかに事務所の空気がピリついてくる。
「今日は暇そうですね」の直後に鳴る電話
「今日は落ち着いてますね」なんて会話を事務員さんとした直後に限って、電話が鳴る。不思議と、そういう日に限ってイレギュラーな案件が連続で飛び込んでくる。「すみません、ちょっと出てきます」と告げる私に向けられる事務員さんの不安そうな目線。彼女も大変だろうなと思いつつ、出て行かざるを得ない自分が情けない。
事務員さんひとりのプレッシャー
私が外出中、事務員さんが来客対応や電話対応を一手に引き受けている。ありがたいと思う一方で、やはり負担をかけてしまっているのは否定できない。過去には「先生いないなら帰ります」と言われてしまった依頼人もいたそうで、罪悪感が募る。小さな事務所だからこそ、ひとりの不在が全体に影響する。呼び出しに応じるたびに、信頼と効率のバランスに悩まされる。