お客様の「ありがとう」で泣きそうになる日

お客様の「ありがとう」で泣きそうになる日

疲れ切った日の終わりに

司法書士という仕事は、見た目以上に神経をすり減らす業務が多い。特に地方で事務員一人、実質ほぼワンオペ状態で回していると、毎日がタスクの山に飲まれるようだ。朝からメール、電話、訪問対応に追われ、気づけば昼食もそこそこに終業時間。そんな中、ふとした瞬間に「今日もダメだったな」と独りごちる日も少なくない。何をしても報われないような気がして、正直、やるせなくなる。だけど——そんな日の終わりに、お客様の「ありがとう」がふと心に刺さることがある。

業務量に押し潰される日常

誰かに頼ることもできず、目の前の業務を黙々と処理する毎日。気づけば肩こりと頭痛がセットでついてくる。書類のチェック漏れが許されないからこそ、常に気を張り詰めている。こんな働き方、いつまで続けられるのか自分でもわからない。依頼者はどんどん増えるのに、人手は増えない。「なんで自分だけこんなに…」と思うこともしばしばある。

朝から晩まで電話と書類の嵐

午前中は登記関係の相談、午後は相続関係の面談、合間に銀行や法務局とのやりとり、そして夜には書類の作成とチェック。トイレに行くのも忘れるほど忙しい。電話が鳴るたびに、「今は出たくない」と思ってしまう自分がいる。でも出なきゃいけない。業務は待ってくれない。

一人事務所の限界

事務員も頑張ってくれてはいるが、やはり専門知識が必要な業務は自分の肩にのしかかってくる。人を雇う余裕なんてないし、そもそも田舎じゃ人も来ない。気づけば「自分が倒れたら終わりだな」なんて思うこともある。限界に近いときほど、心はすり減っていく。

不安定な収入とプレッシャー

月ごとの依頼件数で収入が変動するこの仕事。忙しい月とそうでない月の差が激しく、将来設計もままならない。案件が減れば不安になり、増えれば増えたで地獄のような忙しさに陥る。どっちに転んでも精神的には落ち着かない。

「次の依頼が来るのか?」という不安

登録から20年近く経っても、「来月も仕事あるかな?」という不安は消えない。特にコロナ以降、依頼者の動きが読めなくなってきた。ネットに強い事務所が都市部で増えている中、地場の小さな事務所がどう生き残るのか。いつも自問自答している。

突然の「ありがとう」に心が動く

そんなモヤモヤを抱えたまま日々を過ごしていると、不意に届く「ありがとう」に全てが報われたような気持ちになる時がある。正直、それを糧に今日も何とかやっていけている気がする。たった一言が、心に深く刺さる。

何気ない一言の重み

「本当に助かりました」「○○先生でよかったです」──そんな言葉をもらうと、不思議と胸が熱くなる。普段は機械のように仕事をこなしている自分が、その一言で人間に戻るような感覚すらある。どんなに疲れていても、この瞬間だけは心が緩む。

事務所の電話越しに聞こえた感謝

ある日、登記完了の連絡をした時、受話器の向こうから「本当にありがとうございました」と泣き声まじりの声が聞こえてきたことがあった。事情があって急ぎだった案件で、徹夜して仕上げた仕事だった。あの時は、こっちも泣きそうになった。

声のトーンで伝わる気持ち

声のトーンって不思議で、言葉以上に感情が伝わることがある。お礼を言うときの安心したような、ほっとした声。それが全てを物語っていた。自分の仕事は、書類以上に「人の心」にも関わっているんだと実感した瞬間だった。

手紙やメールに綴られる言葉

手書きの手紙や、丁寧なメールもとても嬉しい。何年も経ってから「先生にお願いしてよかったです」と突然届くお手紙は、ファイルにしまってある。読み返すたびに、「やっててよかった」と思える。報酬よりも嬉しい瞬間がそこにはある。

書面に宿る想いの強さ

活字であっても、そこににじむ感謝の気持ちってある。絵文字や句読点の使い方、丁寧さ、その一つひとつから、依頼者の人柄や真心が伝わってくる。こういうものが届くと、苦労がすべて報われたように感じて、目頭が熱くなる。

心が疲れた司法書士へ

同業の方へ伝えたいのは、「泣きそうになる日があるなら、まだ自分は大丈夫」ということ。感情が動かなくなったら、たぶん本当にまずい。その一言で心が揺れるうちは、きっとまだこの仕事に希望がある。報われない日もあるけれど、たった一言の「ありがとう」がそれを帳消しにしてくれることもあるのだ。

「泣きそうになる日」があるからこそ

感情が揺れる仕事って、案外そんなに多くない。士業ってもっとドライで淡々としてると思われがちだけど、人の人生に関わるぶん、むしろ情緒が付きまとう。だからこそ苦しいし、だからこそ続けられる。「ありがとう」で泣きそうになる日があるから、また頑張ろうと思えるのだ。

しんどい日々も、無駄ではない

どんなにしんどくても、それを経験したからこそ得られる共感や理解がある。無駄だと思える仕事の中にも、誰かの役に立っている場面は必ずある。自分がしていることを、誰かはちゃんと見てくれている。そう信じて、今日も机に向かう。

その涙が、次の一歩になる

「泣きそうになる日」は、決して弱さじゃない。むしろ、それがあるから強くなれる。涙は無駄じゃないし、感情は前に進むエネルギーになる。そう信じて、明日もまた「ありがとう」に出会える日を目指して、今日も書類をめくる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。