デート中も仕事の電話が来る

デート中も仕事の電話が来る

デートにまで追いかけてくる「お仕事」

せっかくの休日、久しぶりに気になる女性と食事でも…そう思って予約したレストラン。雰囲気のいい照明、やわらかい音楽、いい感じの会話。なのに、ポケットでスマホが震える音で空気が一変する。「ごめん、ちょっと出るね」。気まずさを抱えながら外に出て電話対応。戻ってみれば、彼女のテンションはどこか遠くへ。司法書士という職業柄、緊急の連絡は避けられない。でも、それがどれほど相手の心を冷やしてしまうのか、痛感させられる瞬間だった。

鳴りやまないスマホに気まずい沈黙

仕事用とプライベート用にスマホを分けていても、番号を知っている人はこちらの都合などお構いなしに電話をかけてくる。登記の進捗、書類の不備、相続人とのトラブル…。出ないと後が怖い、でも出れば目の前の人を裏切る。以前、食事中に3回連続で電話に出た結果、相手に「もういい」と言われ、そこで関係が終わったこともある。たった数十分の静寂すら守れないのが、この仕事の現実なのだ。

たった一度の外出にも自由がない現実

「自由業っていいよね、自分で時間決められるし」と言われることがある。でも本当は「常に誰かに呼び出される仕事」だ。たとえ予定を入れていても、緊急連絡一本で予定は崩れる。前に、温泉旅行に誘われて、やっとの思いで一泊の休みを確保したのに、宿に着いた瞬間に「相続人が怒鳴り込んできた」との連絡。結局すぐに引き返す羽目になった。あれ以来、泊まりの予定は入れなくなった。

本当は「ごめんね」と言いたいけど

「仕事だから仕方ない」と言い訳をするたび、自分の小ささが嫌になる。本当は彼女の気持ちも大事にしたいし、ちゃんと向き合いたい。でも、現実は「今すぐ来てほしい」「今日中に登記出したい」ばかり。優先順位をつけたくても、どちらも大事で、どちらも選べない。だからこそ「ごめんね」とも「ありがとう」とも、うまく言えないまま、関係がフェードアウトしてしまうことが多い。

相手の表情が曇っていく瞬間

以前付き合っていた人が、ふとした瞬間に言った。「あなたといると、いつも仕事と競ってる気分になる」。その言葉が、今も忘れられない。自分ではそんなつもりはなかった。けれど振り返ってみれば、LINEの返事も遅れがち、土日もドタキャン、食事中も電話対応。そりゃあ笑顔も減るはずだ。好きでやっていたわけじゃない。でも、相手にとっては「いつも二の次にされている」ように感じたのだろう。

気づかぬうちに信頼を失っていた

一度、「あなた、信用できない」と言われたことがある。驚いて理由を聞くと、「どんな約束をしても、仕事で覆るから」と。それは…言い返せなかった。たしかに、予定変更は常だったし、「今度こそ」は守れなかった。信用とは、日々の小さな積み重ね。忙しさを理由にその積み重ねを怠れば、結果は当然なのかもしれない。信頼は、謝っても戻らない。

「今だけは出ないで」そう言われた記憶

一度だけ、デートの前に「今日だけは仕事の電話、出ないでほしい」とお願いされたことがあった。その時、自分は「わかった」と答えたのに、食事中に電話が鳴ると無意識に席を立ってしまった。戻ってきたら彼女の姿はなかった。あれはもう何年も前の話だけれど、今でも心に引っかかっている。「わかった」の重みを理解していなかった自分が、恥ずかしい。

司法書士という仕事の「枷(かせ)」

司法書士の仕事は、人の人生の節目に立ち会うことが多い。登記、相続、贈与、離婚…どれも「早く処理してほしい」という圧が強く、待ってもらえないケースが多い。結果、こちらの予定はいつも後回し。誰かの人生を支える責任の重さに、誇りもある。けれど、それに縛られている自分も確かにいる。私生活にまで侵食してくる仕事の影を、どうすれば振り払えるのか、答えはまだ見つからない。

クライアント優先の意識が染み付いている

「お客様第一」「困っている人の助けになる」。その思いが、この職業の原動力になっている。それは間違いではない。でも、いつの間にか「自分を後回しにするクセ」になっていた。恋人との時間を削ってまで対応した登記も、振り返れば「あれ、急ぐ必要あったのか?」と思うこともある。どこかで「仕事人間=かっこいい」と思っていたのかもしれない。けれど、孤独の代償はあまりにも大きい。

「今対応しないと困るでしょ」と自分に言い聞かせる

誰かから電話が鳴ると、「今すぐ対応しないとクレームになる」「評判が落ちる」と、条件反射のように応じてしまう。だが本当に全ての案件が緊急だったのか? 数日後で問題なかった依頼も多い。いつの間にか、自分で自分を追い詰めていた。無理をして、疲れて、でも「この仕事しかない」と思い込んで、孤独が深まっていく。このループに気づいた時、初めて少しだけ自分を労わろうと思った。

でもその“今”が恋愛を壊していく

仕事における“今”は一瞬の判断が重要だ。でも、恋愛にも同じく“今”という時間がある。目の前の相手の気持ちが高まっている“今”、安心して一緒にいられる“今”。その“今”を逃せば、関係は簡単に壊れてしまう。仕事と違って、恋愛には納期も契約もない。だからこそ、壊れてからでは遅い。仕事の“今”を守って、恋愛の“今”を失うことがどれだけ大きな代償か、私は何度も痛感してきた。

オンとオフの境目が消える日常

昔は「18時で業務終了」と思えていた。だが独立してからは、夜中でもメールが来るし、土日も動かざるを得ない。オンとオフの切り替えがうまくできず、つねに神経を張り詰めた状態。誰かと一緒にいても、どこかで“次の連絡”を待っている。そんな自分を見て、ある友人に「今、誰と一緒にいるのか、ちゃんと感じた方がいい」と言われたことがある。図星だった。

休日でも連絡が途切れないという地獄

「今日は一日、誰からも連絡が来ませんように」と祈る日がある。でも、それはほぼ叶わない。たとえカレンダーに「休日」と書いてあっても、現実には何かしら動く。スマホをオフにする勇気もないし、休んでいる罪悪感に苛まれる。この状態を10年以上続けていると、「仕事していない自分が不安」になってくる。それって、普通なんだろうか。

それでも恋愛をあきらめたくない

仕事に追われる日々の中で、恋愛なんて贅沢なのかもしれない。けれど、ふとした時に誰かの優しさに触れると、心が動く。「もう一度信じてみようかな」と思える瞬間がある。だからこそ、どこかで誰かと向き合う時間を大切にしたい。完璧な両立は無理かもしれない。でも、不器用でもいいから、自分なりのバランスを見つけたい。そう思えるようになってきた。

誰かに必要とされる喜びと切なさ

仕事でもプライベートでも「あなたがいてくれて助かった」と言われることがある。それはこの上ない喜びだ。でも同時に、それがプレッシャーにもなる。期待に応えたい、でも応えきれないこともある。その狭間で心がすり減ることもあるけれど、それでも人に必要とされる人生は、孤独よりはましなのかもしれない。恋愛も、そんな“必要とされる関係”でありたい。

「結婚する気あるの?」と聞かれて黙った夜

昔付き合っていた人に、ある夜「あなた、結婚する気あるの?」と聞かれた。その時、自分は何も言えなかった。結婚したい気持ちはあった。でも、そのための準備も、時間も、覚悟も足りていなかった。むしろ「いつか落ち着いたら」と先送りしているうちに、相手は先に歩き出してしまった。あの夜、自分の弱さが浮き彫りになった。

仕事を言い訳にし続けることの限界

「忙しいから」「今はタイミングが悪いから」。そうやって仕事を言い訳にしてきた。でも、いつまでもそのままでは、自分の人生そのものが“言い訳の塊”になってしまう。誰かと生きていくには、時間を取る覚悟がいる。少しの勇気と、少しの余裕。そのどちらも、自分にもっと必要だったのだと、今ならわかる。

それでも待ってくれる人に出会えたら

すべてを理解してくれる人なんて、そう簡単に現れない。でも、少しだけ歩調を合わせてくれる人がいれば、救われる。過去にはいなかった、でもこれからはわからない。仕事も恋も、きっと両立できる道はある。無理をしすぎず、でもあきらめずに、自分のペースで進んでいけたらと思う。

仕事も恋も、両方大切にできる日は来るのか

答えはまだ出ていない。でも、そう信じて、今日も誰かの電話に応えつつ、次の出会いを待っている。司法書士として、人として、もう少しだけ優しく、もう少しだけ勇気を持って、生きていこうと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。