筆が裁く血の境

筆が裁く血の境

依頼人の名は田所

境界線を巡る不穏な相談

「この境界杭、昔はもう少し奥にあったはずなんです」 田所という老人が、地図と写真を突きつけてきた。 半世紀前の地積測量図に比べ、現在の筆界はわずかにずれている。が、それが相続財産の範囲を大きく左右するらしい。

隣地の主張と古びた地図

昭和の境界と令和の感情

隣地の主、浜中家は地元でも有名な旧家。 「この境界線は父の代からこうだ」と声高に言い張る。 けれど、その言い分と古地図の記録とは食い違っていた。

相続人ではない隣人

養子縁組と筆界未定地の接点

不思議なのは、田所家と浜中家にかつて血縁があったという噂だ。 浜中家の次男は、幼少期に田所家に養子に出されたという記録がちらつく。 だとすれば、この土地には法的な相続の可能性が生じる。

法務局に眠る地積測量図

数値が語る先祖の秘密

地積測量図に書かれた微妙な角度の変化。 数字は嘘をつかない、けれど人間の記憶は都合よく変わる。 田所の祖父が勝手に杭を動かした形跡が残っていた。

DNA鑑定という脇道

血の繋がりが導く土地の真実

筆界と血縁は、本来交わらぬはずだった。 けれど、田所は浜中に「鑑定を受けてみろ」と詰め寄る。 もし血縁が事実なら、境界線の主張は新たな意味を帯びる。

境界標を動かしたのは誰か

石のズレと心のズレ

現地を確認したサトウさんが、古い杭の痕跡を見つけた。 「このコンクリ、昔の型のやつですね」 その発見は、境界標を意図的に動かした人物がいたことを示していた。

サトウさんの冷静な推理

家系図に足りなかった一人

「戸籍をすべて確認しました。昭和42年に分籍された人物がいます」 サトウさんの指摘に、私は目を見張った。 それは浜中家の隠された三男であり、現在は田所家の養子となっていた人物だった。

やれやれと嘆く午後の現地調査

草むらに隠れていた手がかり

真夏の午後、汗だくになって雑草をかき分けた。 「やれやれ、、、どうしてこんなことに」とぼやいたその時、 草の中に埋もれていた古びた杭が、ひっそりと姿を現した。

亡父の残した登記申請書

筆界確定に潜む伏線

事務所に戻ると、田所が封筒を差し出してきた。 「父が死ぬ間際に、これをお前にと」 そこには未提出の登記申請書と、浜中家との合意書が同封されていた。

最後に笑った者

家と土地と血縁の落とし所

筆界の問題は和解により解決された。 そして、血縁の真実は静かに封印された。 誰も訴えず、誰も損をしない。それが司法書士としての落とし所だった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓