借地に眠る真実
夜の訪問者
午後7時を回ったころ、事務所のドアが控えめにノックされた。こんな時間に依頼人とは珍しいと思いながらドアを開けると、初老の男性が立っていた。手には古びた書類鞄、顔には不安の色が浮かんでいる。
借地契約書の違和感
話を聞けば、その男性は亡き父から借地権付きの建物を相続したという。ところが最近、地主の息子を名乗る人物から「不法占拠」との通知が届いたらしい。見せられた契約書を見た私は、すぐに奇妙な点に気づいた。
亡くなった地主の謎
地主は数年前に亡くなっているはずなのに、契約書には今年の日付が記されていた。まるで死んだはずの人物が契約を結んだような話だ。サトウさんは無言で書類をスキャンし、PC画面を睨んでいる。
サトウさんの冷たい推理
「この筆跡、去年の固定資産評価証明と同じです。死亡届の提出が遅れてたか、意図的な操作かもしれませんね」 サトウさんの鋭い声に、私は思わず背筋を正す。彼女の目には、すでに犯人の輪郭が見えていた。
土地に残された灯りの痕跡
翌日、現地を訪れると古い家の周囲に小さなソーラーライトが等間隔に並んでいた。夜中に誰かが土地の境界を強調するかのように設置したのだろう。まるで「ここからが私の領分」と言いたげだった。
消えた筆界確認書
役所で土地の図面を確認すると、確かに境界線に変更が加えられていた。しかし、その変更の根拠となるはずの「筆界確認書」が見当たらない。どこかで故意に隠された可能性がある。
シンドウの昔の知人
筆跡鑑定の協力を仰ぐため、私は大学時代の友人で今は鑑定人のアキラに連絡をとった。彼は元野球部の同僚でもある。「お前、相変わらずトラブルに巻き込まれるの好きだな」 やれやれ、、、確かに否定できない。
法務局での不審な記録
法務局に保管されている過去の変更履歴を閲覧すると、あるタイミングで突然「所有者変更」の記録が消えていた。これには明らかに裏がある。誰かが故意に操作を加えたのだ。
登記簿の空白と改ざんの可能性
空白期間を埋めるように現れた新たな記録には、あの「不法占拠」を主張する男の名前が載っていた。しかしその時点では、まだ地主の死亡登記は完了していなかった。時間を逆転させるような改ざん。怪盗キッドでもやらない離れ業だ。
地主の息子と名義の秘密
調査の結果、その男は地主の実の息子ではなかった。養子縁組を装った不正な相続を画策し、契約書を偽造した疑いが浮上した。「戸籍を見ればバレるのに…」とサトウさんが小さくため息をついた。
やれやれ、、、まさかの再婚相手
さらに調べると、地主は亡くなる直前、介護ヘルパーと再婚していたことが判明。つまり、真の相続人はそのヘルパーで、息子と名乗った男はただの交際相手だったのだ。 やれやれ、、、なんて昼ドラみたいな展開だ。
売買か使用貸借かの分かれ道
問題は契約書に記された内容が「使用貸借」か「売買」かという点だった。登記がされていなければ、口頭の約束だけでは弱い。だが、この契約書には不自然な印影があった。押印が3枚とも異なる角度で押されていたのだ。
土地の価値に隠された動機
件の土地周辺は、ここ数年で再開発の話が持ち上がっていた。古びた借地に見えて、実は将来性抜群。つまり、相続者を装い土地を手に入れる動機としては十分だったのだ。
サトウさんの一喝と真相解明
「こんな杜撰な偽造、子どもの工作と変わらないですね」 サトウさんの一言がすべてを締めくくった。後日、偽造契約書と登記の虚偽申請について警察に通報。事態は刑事事件に発展した。
書き換えられた契約日の真実
私の友人アキラの鑑定により、契約書のインクの成分が不自然に新しいことが証明された。つまり、本来の契約は存在せず、書き換えられたものであると確定した。これで地主の再婚相手が正式な相続人であることが裏付けられた。
解決編 証明されたのは誰の夜か
借地の境界に置かれたソーラーライトは、亡き地主が晩年に自ら設置したものだったという。夜でも明るくしておけば、土地を巡る争いが起こらないようにと願っていたのだ。 誰のための灯りだったのか。それがようやく証明された夜だった。