朝の事務所に届いた封筒
その朝、僕が事務所に入ると、机の上に一通の封筒が置かれていた。差出人の名前はなく、宛名も達筆すぎて読めない。どこか古臭い紙の手触りに、妙な既視感があった。
「また誰かの忘れ物ですか?」とサトウさんがコーヒーを差し出しながら言った。その声には、わずかに呆れと警戒が混じっている。
無記名の封筒と古い登記簿謄本
中には、茶色く変色した登記簿謄本のコピーと、短いメモだけが入っていた。メモにはこう書かれていた──「この家の真実を暴いてください」。
それだけだった。差出人の情報も、具体的な依頼内容もない。登記簿を見ると、地元の片田舎にある築五十年の古家が記録されていた。
サトウさんの鋭い指摘
「この住所、空き家のまま10年は経ってます。なのに所有権が3回も移ってますね」
サトウさんの冷静な指摘に、僕も思わず身を乗り出した。確かに通常では考えにくい。誰が何の目的でこの家の名義を頻繁に変えているのか。
依頼人は現れない
数日経っても、封筒の差出人は名乗り出なかった。連絡先もなければ、追加の情報もない。仕方なく、僕たちは自力で調査を始めることにした。
「まるでサザエさんのエンディングで波平が植木鉢にぶつかるくらい、予測不能ですね」と僕がぼやくと、サトウさんは「昭和すぎます」と冷たく言った。
差出人不明のまま進む調査
まずは法務局で過去の登記履歴を洗い直した。確かに短期間で名義変更が繰り返されているが、その間の所有者にはどれも実体がないように見える。
仮登記ではなく本登記ばかりだというのも、妙に気になる。仮面ライダーの変身ベルトみたいに、持ち主がクルクル入れ替わっていく。
古びた一軒家の謎
現地へ足を運ぶと、古びた家が風に軋んでいた。鍵は壊れていて、内部には埃をかぶった家具と、火のついていないろうそくが置かれていた。
「不気味ですね」とサトウさんがつぶやく。その家の壁には、ある家族の集合写真が残されていた。裏には日付と、ひとつの苗字だけ。
名義の変遷と謎の空白期間
登記履歴を見ると、ある5年間だけぽっかりと記録が空白になっていた。その間に、何が起きたのか。誰が、なぜ記録を消したのか。
「この時期、地元で火事があったってニュースありましたよね」とサトウさん。そう言えば、うっすらと聞き覚えがある。確かに何かあった。
登記簿の所有者が飛んだ理由
不思議なことに、その火事の後に家の所有者はすべて姿を消していた。登記だけが残り、実態のない人物が所有者となって記録されていた。
「誰かがこの家を“持っている”ことに意味があると考えてるのかもしれませんね」サトウさんの声が静かに響いた。
関係者の証言が食い違う
当時の隣人に話を聞くと、「あの家には誰も住んでなかった」と証言する人もいれば、「中から子供の声が聞こえた」と言う人もいた。
どちらかが嘘をついているか、あるいはどちらも本当なのか。僕の頭の中で、事実と記憶がねじれていく。
近隣住民の噂話
「夜になると、あの家に灯りがついてた」と語る老人もいた。その証言を聞いたとき、僕の背筋はぞっとした。
誰も住んでいないはずの家に、誰が灯りを? 幽霊の仕業か、それとも、、、?
夜な夜な現れる誰かの影
ある晩、再び家を訪れると、確かに障子越しに人影が見えた。慌てて駆け寄ったが、誰の姿もなかった。室内は静まり返っていた。
「これは、、、サザエさんで波平が突然カツオに怒鳴るぐらいの唐突さですよ」と僕が言うと、「もう黙ってください」とサトウさん。
古い約束が破られた日
家の奥から見つかった古い手紙には、こう書かれていた。「この家は、あの子が戻ってくるまで誰にも譲らない」
誰が書いたのか。誰のことを“あの子”と呼んでいたのか。その答えは、やがて明らかになることになる。
思い出したあの事件の記録
僕の記憶の底から、昔の新聞記事が蘇ってきた。火事で焼けた家と、行方不明になった一人の少女の話。それがこの家だった。
新聞には、家族が心中を図った可能性もあると書かれていた。しかし、少女だけは見つかっていない。
かつての失踪事件との奇妙な一致
この登記の変遷は、その少女の所在を隠すためのものだったのかもしれない。所有者を偽装し、家の存在をあいまいにするために。
「そうだとしたら、これ、、、犯罪ギリギリですね」とサトウさん。いや、ギリギリではなく、完全にアウトだ。
サトウさんの冷静な分析
「この筆跡、メモと登記申請書、同じ人ですね」
サトウさんの一言が、すべてを繋げた。差出人は元所有者、あるいはあの少女本人か。真実を告白する代わりに、僕たちに整理を託したのかもしれない。
書類の筆跡が導く真相
筆跡鑑定をしたところ、10年前の所有者と今回の封筒の差出人は一致した。つまり、少女は生きていた。そして誰かになりすまして、この家を守っていたのだ。
登記簿が語るのは、法の記録だけじゃない。人の記憶や後悔、愛情までも、じわりと染み込んでいる。
意外な犯人とその動機
全てを偽ってきたのは、少女の兄だった。彼は家族を失った後、妹の存在を世間から隠し、必死で守り続けてきたという。
「やれやれ、、、なんでこう、いつも最後は人情話になるんだ」と僕は天井を見上げた。
封印された過去が暴かれる
彼は罪を認め、自ら出頭した。妹は新しい名前で生きていたが、これでようやく重荷を下ろせることになる。
登記簿に残された不自然な足跡。その裏にあったのは、犯罪でもあったが、同時に切ない家族の物語でもあった。
解決と切ない後日談
「今回は…珍しく良いことをした気がしますね」と僕が言うと、サトウさんは「気のせいです」と一蹴した。
それでも、少しだけ心が軽くなったような気がした。登記簿の謎を追う日々は、時にこうして人の運命を動かす。
やれやれと言いながら帰路につく
「やれやれ、、、また残業ですね」と言いながら、僕たちは事務所に戻った。ネオンの灯りが滲む中、次の依頼はすぐにやって来そうだった。
まるで次週も放送が続くサザエさんのように、僕たちの一日は終わらない。