登記簿に刻まれた死

登記簿に刻まれた死

登記簿に刻まれた死

朝一番の訪問者は血の匂いをまとっていた

その男は、事務所のドアが開くと同時に現れた。寝起きの頭に響くほど、彼の足音は重かった。 白い封筒を持つ手が微かに震えており、目はどこか焦点が合っていない。 「登記の相談で…」そう言った瞬間、サトウさんが黙って立ち上がった。

登録免許税の控除に潜む違和感

提出された書類には、不自然に高額な登録免許税が貼られていた。 どう見ても不動産評価額と一致しない。あれか、またどこかで誰かが“節税”と称して無理をしたのか。 「印紙、貼り直されてますね」サトウさんが淡々と指摘した。

遺産分割協議書の偽造疑惑

協議書を見れば、フォントがまちまちで日付欄が異様に新しい。 「親族全員の実印があるのが逆に不自然ですね」とサトウさんが呟く。 まるでルパン三世の偽札工場みたいな整い方だ。きれいすぎるものには裏がある。

登記完了通知が届く前に消えた男

週明けに登記完了予定だったその日、依頼人の連絡は途絶えた。 法務局も住所に送った通知を宛所不明で戻してきた。 「逃げましたね」とサトウさん。俺は頷くしかなかった。

やれやれ血は水より重いらしい

相続人たちへの電話は、ひとつとして穏やかなものはなかった。 「兄が金を持ち逃げした」と叫ぶ妹、「そんな協議書見ていない」と怒鳴る弟。 やれやれ、、、また骨肉の争いか。司法書士は仲裁人ではないのに。

元野球部の直感が告げる次の一手

ふと浮かんだのは、あの依頼人が書類に押した印鑑だった。 やたら綺麗な“実印”。あれ、どこかで見た気がする。 「サトウさん、法務局の印鑑カード、今すぐ取り寄せてもらえますか」

亡き父の判を巡る暗号

確認の結果、印鑑カードに登録されていた印は、すでに死亡した父親のものだった。 つまり彼は、死人の印鑑で協議書を捏造し、登記しようとしていた。 「死人に口なしって言いますけど、印鑑がしゃべってくれましたね」とサトウさんが笑った。

サトウさんの塩対応が導く証拠の一片

「この書類、FAXで送ってきた原本と違います」 サトウさんの一言に、俺は背筋が寒くなった。まるで名探偵コナンの小五郎のおっちゃんのように、あとは推理を進めるだけだった。 たしかに、日付欄のかすれが微妙に異なっていた。

司法書士が踏み込む遺産の闇

依頼人の兄は、亡父の預金と不動産の名義変更を一気に進めようとしていた。 だがそれには、全員の協力と時間が必要だった。時間の無い者は、道を外す。 俺は警察に偽造の証拠を提出した。珍しく刑事もすぐに動いた。

登録免許税が指し示す殺意の証明

最後の決め手は、過剰に貼られた印紙だった。 元々の価格では足りず、違法取得した遺産から差し引いた形跡があった。 税額という数字が、犯行の証拠となったのだ。

書類は語る沈黙の真実

紙は嘘をつかない。書類はすべてを記録し、そして静かに暴く。 依頼人は逮捕された。真実は登記簿に残されたまま。 「記載された氏名よりも、消された名前が物語ってますね」とサトウさん。

土地の名義人に託された復讐

亡くなった父親が、実は生前、長男を相続人から外す遺言を書いていた。 それが見つかるのに時間がかかったが、土壇場で正義が追いついた。 「サザエさんの波平さんなら、怒鳴って終わりだけどね」と俺は呟いた。

解決の代償は冷たいコーヒーと疲労

事件が終わった午後、サトウさんが出してくれた缶コーヒーは常温だった。 「忙しかったので」と言って渡されたが、それがなんだかありがたかった。 静かな事務所に、蝉の声だけが響いていた。

書類のミスは命取り

登記という作業は、ただの事務手続きではない。 その一行一行に、人の感情と嘘と希望が詰まっている。 やれやれ、、、また明日も、紙とにらめっこか。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓