この道を選んだ日のことを思い出す
司法書士になろうと決めたのは、もう20年以上も前のことだ。あの頃は、とにかく「手に職を」とか「食いっぱぐれない資格を」とか、そんな言葉が頭の中を占めていた。別に夢や志があったわけじゃない。ただ、無職になるのが怖かったし、何者にもなれないことに怯えていたんだ。あのとき選んだ道が、こんなに長く続くとは思ってなかった。最近ふと、「本当にこの道でよかったのか?」と問いかけることが増えている。誰かに聞きたいけど、聞けない。だから自分で自分に問い続けている。
なぜ司法書士になろうと思ったのか
大学を卒業しても特に目立った特技もなく、人付き合いも苦手だった自分が「士業」という肩書きに救いを見出したのは自然な流れだったと思う。法律の世界は冷たくて理屈っぽくて、自分の性格に合ってる気がした。でも、実際には人間関係が避けられない仕事だった。登記の手続きも、相続の相談も、結局は人と向き合うことから逃れられない。机に向かって黙々とやるだけじゃなかった。その現実に気づいたとき、ちょっと遅かったかもしれない。
「資格さえ取れば安定する」そんな幻想
あの頃、資格予備校のパンフレットには「年収○○万円」「独立開業可」「安定職種」といった甘い言葉が並んでいた。そんな言葉に踊らされた自分が情けない。確かに独立はできたけど、安定なんてどこにもなかった。むしろ毎月の支払いに追われ、営業に頭を悩ませ、休日もろくに取れない。資格はスタートラインに過ぎなかった。ゴールなんて見えないまま走り続けているだけだ。時々、立ち止まる余裕すら奪われているように感じる。
世間体と親の言葉に背中を押されて
「資格を取れば立派だ」「手に職をつければ将来安心」——そんな親の言葉が頭から離れなかった。地元の友人たちが就職して家庭を持ち始める中で、親にとって自慢できる息子でありたかった。結果として司法書士になったけれど、それが本当に自分の望んでいた人生かどうかは今でもわからない。親孝行のつもりが、自分を追い込んでいたのかもしれない。気づけば、誰かの期待に応えるための人生を歩んできたような気がしてならない。
最初に抱いた理想と今の現実
司法書士になった当初は、「人の役に立てる仕事」として少し誇らしかった。相談者の不安を取り除き、登記をスムーズに終わらせ、ありがとうと言われる——そんなイメージがあった。だが現実は、トラブル処理や理不尽なクレーム対応、終わらない書類作業の連続だった。事務所経営という現実は、理想とあまりにかけ離れていた。いつの間にか「助けたい」という気持ちよりも、「ミスをしないこと」に神経をすり減らす毎日になっていた。
「誰かの役に立てる」そんな日々はどこへ
たまに来る感謝の言葉。それが支えになっていたはずなのに、最近ではそれすらも受け取り方が変わってきた。「ありがたいけど、それだけじゃ食っていけないんだよな」なんて、ひねくれた考えが浮かんでしまう。心の余裕がないからか、素直に喜べない。自分で選んだ道なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。役に立てる喜びよりも、疲弊する日々に飲まれてしまっている気がしてならない。
気がつけば、書類と電話に追われる毎日
朝9時から始まり、気づけば夜の9時。ご飯もろくに食べずに、ひたすら書類と向き合う日々。電話は鳴り止まず、急な相談に予定も崩される。気づけば、「また1日が終わった」とため息をついている。そんな日常の中で、ふと鏡を見たとき、自分がどんどん老けていくのがわかる。「あの頃の俺は、こんな生活を夢見ていたのか?」そんな疑問が心に浮かぶ。疲れが染み込んだ顔を見ながら、ため息だけが深くなる。
ふと我に返る瞬間がある
何か大きな出来事があったわけじゃない。むしろ、何もない日こそが怖い。ふと朝の車の中で、エンジン音だけが響く静かな時間に、「本当にこれでいいのか?」と心の中でつぶやいている自分がいる。忙しさでごまかしてきたけれど、心のどこかではずっと迷っていたんだと思う。正解かどうかなんて、誰にもわからない。だけど、立ち止まる勇気が必要なときもあるのかもしれない。
朝の通勤、車の中でふとよぎる不安
毎朝同じ時間、同じ道を走る。その道中で、なぜか不意に涙が出そうになることがある。誰にも見られない空間だからこそ、本音が出てしまうのかもしれない。「もう少し、楽な道もあったんじゃないか」と思ったり、「やめたい」と思ってもやめられなかった自分を責めたり。エンジン音とウインカーの音だけが静かに鳴っている。その時間が、ある意味いちばん“自分と向き合う時間”になっているのかもしれない。
「俺、これでいいんだっけ?」という問い
家を出るときは「今日も頑張ろう」と思ってる。でも車を運転していると、だんだんテンションが下がってくる。「また同じような1日が始まる」「いつまでこれを続けるんだろう」そんな思いが頭を巡る。ラジオの声すら耳に入らず、自分の内側の声ばかりが響く。「俺、これでいいんだっけ?」そう問いかけても、答えは返ってこない。たぶん、どこかで気づいているんだ。この問いに答えられるのは、結局自分しかいないって。