登記簿が閉ざした真実

登記簿が閉ざした真実

登記簿が閉ざした真実

朝の電話と無愛想な依頼人

「おたくで相続の登記、できるんですか」
朝一番の電話は、ぶっきらぼうで無愛想な声だった。名前も名乗らず、必要な書類を尋ねても「そっちでわかるでしょ」と返される。
電話を切ったあと、サトウさんが呆れ顔で「感じ悪いですね」とひと言。俺はただ苦笑いを返した。

空き家にまつわる不審な記録

持ち込まれた資料は、山奥にある古びた木造住宅の相続登記。だが登記簿を見ると、妙な点が浮かび上がる。
10年前に所有権が一度移転しているのに、その後すぐに元に戻っているのだ。
これはただの相続じゃない。なにか隠している。俺の勘が、久々にうずいた。

サトウさんの的確すぎる指摘

「これ、偽装相続の可能性ありますね」
書類に目を通したサトウさんは、さっさと本質にたどり着いていた。
やれやれ、、、俺は元野球部で盗塁王だったが、頭の回転は彼女の前では空回りだ。

所有権移転の裏に潜む違和感

相続であれば通常、名義は被相続人から直系の親族へ移るはず。
だがこの家は、一度全く関係のない名前の人物に移転していた。しかもその人物の住所が架空のものだった。
まるで一度“リセット”するかのような名義移転。不動産業界でよくある手口——いわゆる「ババ抜き」だ。

消えた元所有者の足取り

市役所で調査すると、問題の元所有者は死亡届すら提出されていなかった。
近所の住人も「あの人は数年前に夜逃げしたと聞いた」と言うばかり。
つまり、この相続はそもそも“被相続人が生きてる”可能性すらある。冗談じゃない。

地元不動産会社との対峙

「あーその物件、うちでは扱ってないですね」
町の古株不動産会社に訪ねたが、そこの社長は明らかに目を泳がせていた。
俺は机の上に登記簿をトンと置いた。「この謄本、御社の名前が出てますが?」

昭和の名残りと平成の綻び

バブル期に転がされた土地、書面だけの売買、印鑑証明の使い回し。
昭和の時代に許された“ゆるさ”が、平成、そして令和の法制度に置き去りにされていた。
それが、今になってボロボロと綻びを見せ始めているのだ。

賃貸借契約書に残された謎の一文

調査の過程で、古い賃貸借契約書が見つかった。そこにはこう書かれていた。
「本物件の所有権者は、将来変更があることを了承する」
普通こんな条項は入れない。まるで“名義変更が予定されていた”かのような文言だった。

裁判記録が語る隠された過去

古い民事裁判の記録を漁ると、該当物件に関する訴訟記録が見つかった。
「遺産分割協議における無断署名の疑い」
つまり、10年前の相続は不正だった可能性が高い。その後、もみ消されたのだ。

登記簿に記されたもうひとつの家

登記簿の別表に気になる記載があった。「附属建物:離れ1棟」
現地調査では確認できなかった離れ。その存在こそが、この事件の“影”だった。
空き家バンクにすら載っていない物件の“影の部分”が、本質を隠していた。

追い詰められる嘘と沈黙

再度面談に応じた依頼人は、こちらの質問に言葉少なだった。
だが、「あなたが登記しようとしてるのは、本来の所有者の意思に反しますよ」と告げたとき、
一瞬だけ、目が泳いだ。沈黙こそが、何より雄弁だった。

サトウさんの一言で動く真相

「このまま登記するなら、私、司法書士会に報告してもいいですか?」
淡々としたサトウさんの声に、依頼人はついに観念した。
「……あの人はまだ生きてるんです」 真実は、静かに語られた。

司法書士が解き明かす権利関係の罠

本来の所有者と連絡がつき、俺は正規の委任状を得て登記をやり直すことになった。
誰のものでもなかった家が、ようやく帰るべき場所へ帰っていく。
「司法書士って、探偵と違って証拠で殴れないのがツラいですよね」とサトウさん。

やれやれ、、、また面倒な話だった

久々に腰が痛くなった。調査も面談も、本来の仕事じゃない気がするが、、、
「やれやれ、、、」 昔のアニメの波平さんが頭に浮かぶ。あっちは家族がいるだけマシだ。
俺はひとり、事務所でコーヒーをすすった。

真実は紙の向こう側に眠っていた

登記簿はただの紙だ。でもその紙には、過去と未来が刻まれている。
書かれていることよりも、書かれていないことに目を凝らすことが、この仕事の本質だ。
司法書士にしか見えない“真実”が、またひとつ浮かび上がったのだった。

日常に戻る司法書士とその背中

「次は建物表題の件です。かなり込み入ってますよ」
サトウさんの声が響く。ため息ひとつついて、俺は椅子から腰を上げた。
地味な仕事の先にも、きっとまた“謎”が待っている。それが俺の日常だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓