「まだ仕事してるの?」の破壊力
夜10時を過ぎた頃、LINEが一通届く。たったひと言、「まだ仕事してるの?」。その言葉は、まるで優しいようでいて、胸を突くような鋭さを持っている。相手に悪気はないと頭ではわかっていても、心のどこかで「責められている」と感じてしまう。誰よりも自分が、遅くまで働くことに疑問を持っているからだ。地方で一人事務所を営む司法書士として、業務の多さや不確定なスケジュールは日常茶飯事。それでも「まだ?」と聞かれると、自分の生き方そのものを否定された気がしてしまうのだ。
ただの一言なのに、胸の奥に残る
「まだ仕事してるの?」という言葉には、日常の中に潜むさりげない優しさがあるのかもしれない。しかし、忙しさに追われて心が擦り減っていると、その優しさが時に痛みに変わる。こちらとしてはやっと集中し始めたタイミングだったり、昼間できなかった事務作業を一つひとつ片付けていたりする。それなのに、まるで“働いていることが悪い”かのように感じてしまうのだ。たった一言が、今の自分の生活全体を映す鏡になってしまう。その言葉が心に残るのは、きっとどこかで「こんな働き方でいいのか」と思っているからなのだ。
好意か嫌味か、こちらにはもうわからない
「心配してくれているのかな?」と思う反面、「それって嫌味なのでは?」と疑ってしまう自分がいる。特に、相手が友人でも知人でもなく、久しぶりに連絡してきた人だったりすると、余計に警戒してしまう。「まだ働いてるってことは、うまくいってないのかな」とか「忙しいアピール?」なんて勘ぐってしまうのは、きっと自分の心に余裕がないからだ。相手の気持ちが本心であれ、表面的であれ、こちらに受け止める準備がないと、そのどちらでも苦しくなる。
“働きすぎ”に自覚がないわけではない
正直、働きすぎている自覚はある。だが、放っておくと誰も仕事をやってくれない現実がある。締切も、問い合わせも、急ぎの登記も、すべてが「今日中」になる。事務員に任せきれない案件も多く、気がつけば夜になる。それでも、「今日は早く帰ろう」と思っていた日に限って、夕方に急ぎの電話が鳴る。だからこそ、「まだ仕事してるの?」という言葉が、図星を突かれるように胸に刺さる。自分でもわかってる。でも、やめられない。それが一番の問題なのかもしれない。
地方の司法書士、帰れない夜の現実
都市部と違い、地方では司法書士の数が限られている分、頼られる範囲も広くなる。登記業務は相続、後見、裁判関係など、内容も多岐にわたる。たとえ1日5件の相談があっても、それに対応できる人手は自分と事務員のふたりだけ。しかも、ひとつひとつが簡単に終わる話ではない。いざ業務をこなすと、気づけば夜8時9時は当たり前。地域の信頼には応えたいが、身体は一つしかない。そんなジレンマの中、今日もまた「帰れない夜」を迎える。
登記だけじゃない、細かすぎる雑務の山
司法書士の仕事というと、登記だけを想像する人が多い。だが実際には、見積書の作成から郵便対応、役所とのやり取りまで、いわゆる“雑務”が多い。これらは誰かがやらなければ進まないし、少しでも間違えれば大きなトラブルに発展する。信頼第一の職業だからこそ、雑務にも慎重さが求められる。事務員がいても、全て任せきれないものも多く、自分の手を動かす必要がある。特に年度末や月末は、気づけば机に山積みの書類が広がっていて、退勤時間など幻になる。
事務員一人の限界、結局すべて自分に戻ってくる
ありがたいことに、事務員は一生懸命やってくれている。しかし、一人でできることには限界がある。専門性が高い仕事ほど、「結局これは自分でやるしかない」となる場面が増える。入力ミス一つが致命的になることもあるため、確認に時間を要する。するとまた、その確認が次の業務を遅らせてしまう。ルーティンがうまく回らない日ほど、結局自分が夜遅くまで残ることになる。「人に頼れない」というのは、性格の問題だけではなく、仕組みとしてそうならざるを得ない面もある。