婚活しても孤独、してなくても孤独——司法書士のダブルパンチな日々

婚活しても孤独、してなくても孤独——司法書士のダブルパンチな日々

誰とも繋がれない日常に、ふと心が折れる

司法書士という仕事は、案外「誰かと深く話す機会」が少ない。登記業務に追われ、顧客とは事務的なやりとりだけで終わる。事務員とも必要最低限の会話だけ。ふとした瞬間、「今日は誰とも心を交わしていないな」と気づくと、なんとも言えない虚しさが襲ってくる。仕事はしているのに、誰の記憶にも残っていない気がして、机の前で肩を落とす日がある。

「今日は誰とも話してない」そんな日が続いてしまう

人と話すのが得意なわけじゃない。でも、まったく話さない日が何日も続くと、さすがに心が乾いてくる。以前、仕事終わりにスーパーのレジで「ポイントカードありますか?」と聞かれただけで、「あ、今日は声をかけてもらえた」と安堵した自分がいた。そんな状態に気づいて、逆に怖くなったことがある。孤独って、気づいたときにはもう深く根を張っている。

事務員とは業務連絡だけ、誰かに甘えたい夜もある

優秀な事務員がいる。感謝している。でも、あくまで「職場の人」であって、こちらも余計な負担をかけたくない。だから仕事以外の話は控えてしまう。帰宅しても誰もいない。仕事の愚痴をこぼす相手も、頑張ったねと言ってくれる人もいない。そんなとき、昔付き合っていた人のLINE履歴を見返してしまうことがある。あの頃が懐かしいというより、あの頃の“誰かがいた日常”が恋しいのかもしれない。

帰宅後のコンビニ弁当と無音の部屋

自炊しようと思った日もある。でも、一人分のために食材を買って、洗い物をして…それが面倒で、結局コンビニで済ませてしまう。そして無音の部屋で、一人黙々と食べる。テレビもつけないまま、咀嚼音だけが響く空間に、自分の存在がぼんやりと消えていく気がした。何のために今日も頑張ったんだろう。そんな思いが、食欲と一緒に心まで奪っていく。

婚活アプリを開くたびに、自己嫌悪が育っていく

婚活アプリ、使っている。流行りだからというより、「何かしないとまずい」という焦りから。けれど、そこにあったのは希望ではなく、見たくなかった自分の姿だった。写真の加工、プロフィールの盛り、テンプレートのようなやりとり。気づけば、自分が何者であるかを伝えるより、「いかに魅力的に見せるか」に疲れていた。

「いいね」の数が気になりすぎて眠れない夜

自分の年齢、職業、見た目…「いいね」の数にすべてが評価されているようで、アプリを開くたびに一喜一憂する。自信なんて、どんどん削られていく。「あの子にはいいねが100件、自分は5件…」数字にすら勝てないと感じて、布団の中でスマホを握りしめたまま、眠れなかった夜がある。次の日も仕事なのに、気がつけば心が削れていく。

プロフィール写真を撮る気力ももうない

笑顔を作るのがしんどい。友人に「もっと爽やかな写真にしたほうがいいよ」と言われたが、そもそもそんな顔ができない。仕事では真顔、家では無表情。鏡に映る自分が、誰よりも遠い存在に思える。以前、思い切ってプロに撮ってもらったが、「誰ですか?」と言いたくなる仕上がりだった。嘘の自分で誰かと出会って、何がしたいのか、わからなくなった。

メッセージのやりとりにすら疲れてしまった

「趣味は何ですか?」「休日は何してますか?」決まり文句のような会話を繰り返すうちに、息が詰まってくる。深い話がしたいわけじゃない。ただ、もっと自然に会話がしたい。でもこの場では「選ばれる側」でいなくちゃいけない。取り繕って、愛想よくして、それで“既読スルー”されたときの虚しさときたら。もう、会話の文面を考える気力すらなくなってしまった。

それでもまた朝は来るし、仕事もある

どれだけ孤独でも、どれだけ夜に泣いても、朝は来るし仕事もある。それが司法書士の強みでもあり、弱さでもあるのかもしれない。とりあえず出勤して、書類を整え、申請を出す。人の人生に関わる仕事だからこそ、そこに救いがある日もある。でも本音を言えば、それが心の逃げ場になっているときもある。

淡々とこなす登記作業に、救われる瞬間もある

何も考えず、目の前の仕事に没頭する時間。少なくともその間だけは、自分が「誰にも必要とされていない人間」だなんて考えずに済む。ときどき、「先生、ありがとうございました」と頭を下げられる。その一言が、たとえ社交辞令でも、沁みることがある。誰かの役に立てているなら、もう少しだけ頑張ってみようかな、と思える。

人の人生に関わる仕事で、自分を保つ

不動産登記や相続登記の裏には、たくさんのドラマがある。夫婦で協力してマイホームを買った人、親を亡くしたばかりの人、老後に備える人…そういう人たちの節目に関われる。直接的な感謝を受けるわけではないが、少しでも不安を和らげられたら、自分がこの仕事を続けている意味もあるのかもしれない。

たまに「ありがとう」と言われる、それでいい

ある日、相続登記を終えたお客様が、静かに「先生、本当に助かりました」と言ってくれた。その人は高齢の女性で、手続きに不安があったという。涙ぐみながら感謝されたとき、こちらの胸も熱くなった。そんな瞬間があるから、また頑張れる。婚活で誰かに選ばれなくても、仕事では誰かに必要とされている。それだけでも、少しだけ救われる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。