誰にも知られていない司法書士の一日

誰にも知られていない司法書士の一日

朝が怖い司法書士の目覚め

司法書士の朝は、一般的なサラリーマンのそれとは少し違う。というより、まったく違う。目覚ましより先に、スマホの通知音で目が覚める日も多い。内容はたいてい「至急ご確認ください」や「今日中に対応お願いします」など、軽くプレッシャーをかけてくる文言。時計を見るとまだ6時台。寝起きで開いたメールの内容が登記の修正依頼だったりすると、ベッドの中でしばらく現実逃避したくなる。そんな毎日が続くと、「今日も無事に終わりますように」と祈るように起き上がる習慣がつく。

鳴り続けるスマホが朝のアラーム代わり

昔はちゃんと目覚まし時計を使っていたけど、今はスマホの通知音で起きるのが当たり前になってしまった。LINE、メール、チャット、そして留守電。なかには「今日の登記、何時頃終わりますか?」なんて、午前6時半に届いてることもある。こっちはまだ目も開いてないのに、世間はすでに稼働しているらしい。寝ぼけた頭で「これ、急ぎじゃないな」と判断して返信を先送りにするが、そのあとずっと気になってしまって、結局布団の中でスマホをいじる羽目になる。

目覚めた瞬間から戦いは始まっている

目が覚めた瞬間から“何か”が始まっている。それは仕事という名の戦いであり、今日一日がまた波乱含みである可能性を覚悟するということ。コーヒーを入れる手も、どこか重い。気持ちのスイッチが入らないまま、机の前に座ってメールチェック。だが、返信しようとすると今度は事務員さんから「昨日の分、まだ見てませんよね」と声が飛ぶ。いや、まだ朝なんですけど…。でも、それがこの業界のリアルだ。寝起きに戦闘モード。慣れたとはいえ、胃には悪い。

通知の内容はほぼトラブルの火種

スマホの通知は、9割が何かしらの“面倒の芽”だ。例えば「相続人が増えてました」「住所間違ってました」「登記済証が見つかりません」など、すべて一発で終わらせられない案件のオンパレード。これが日常的に続くと、通知音がトラウマになる。音を消しても気になるし、鳴らしても憂うつ。まるで爆弾処理班の気分でスマホを開く日々。それでも対応しなければ仕事が止まる。やっぱり、司法書士って“地味に命を削ってる”と思う。

出勤前の静寂と胃の重さ

自宅での静かな時間…と書きたいところだけど、実際は頭の中でタスクが走馬灯のように巡っている。出勤前の時間は貴重なはずなのに、「あの案件の印鑑証明届いてるかな」とか、「法務局からの連絡まだないな」とか、そんなことばかりが気になる。食欲もいまいち。コーヒーでなんとか胃をなだめながら、準備を始める。なんだかんだで、もう15年こんな毎日だ。

事務所に行くまでの葛藤

徒歩5分の距離なのに、事務所に向かう足取りがやたら重い。「今日は平和であってくれ」と祈りながら、ドアを開ける瞬間には少し身構えてしまう。実際、事務員さんの「ちょっといいですか?」が朝一番で飛んでくると、一気に目が覚める。もはや“事務所に着いた=仕事スタート”ではない。“ドアを開けた瞬間から勝負”だ。

コーヒーを淹れながら現実逃避

到着してすぐに机に向かわず、コーヒーを淹れることから始めるのが小さな抵抗。豆を挽きながら「今日の予定、どれが一番ヤバいかな」と頭の中でシミュレーションする。誰もいないうちに一息つこうとするが、だいたい途中で「先生、〇〇さんからお電話です」と遮られる。その時点で静寂は終了。現実が始まる。

「今日は電話少ないといいな」と願うだけの朝

事務員さんに「今日、電話多そうですか?」と聞いても、「うーん、どうでしょうねぇ」と苦笑されるだけ。それでも毎日聞いてしまうのは、願掛けみたいなものだ。電話が少ない日=奇跡。たまに本当に少ない日があると、逆に不安になる。嵐の前の静けさなのか、誰かが間違った番号にかけてるのか…不信感すら芽生える。もう病気かもしれない。

それでも辞めない理由がある

こんなに忙しくて、胃も痛くて、誰にも理解されず、恋人もできない。それでもこの仕事を辞めたいと思ったことは一度もない。理由は単純だ。依頼者に「先生、助かりました」と言われるその瞬間が、すべてを報われた気持ちにしてくれるから。別に感謝されたいわけじゃない。でも、誰かの人生の分岐点に少しでも関われたと実感できたとき、それは何ものにも代えがたい喜びになる。

依頼者の「助かりました」の重み

登記が終わって、書類を手渡した瞬間に見せる依頼者の安堵の表情。その「ほっ」とした顔を見ると、「また頑張るか」と思えるから不思議だ。報酬も大事。でもそれ以上に、「人の役に立てた」という自己肯定感こそ、この仕事を支えてくれている。

誰にも知られないけど、誰かの人生に関わっている

司法書士の仕事は、目立たないし、派手でもない。けれど、確実に人の節目に寄り添っている。不動産の取得、会社の設立、相続、離婚…。人生の大きな出来事に、こっそりと、でも確実に関わっている。誰にも知られていない日常の中に、確かに意味がある。今日もまた、誰かの明日につながる仕事をしているのだと思えば、少しだけ自分を誇らしく思える。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。