深夜のコンビニで急ぎの書類をスキャンして気づいたこと

深夜のコンビニで急ぎの書類をスキャンして気づいたこと

急ぎの書類と深夜のコンビニ

夜の10時を過ぎていた。そろそろ風呂にでも入って寝る準備をしようかという時間に、スマホが鳴った。依頼人からのLINE。「すみません、明日の朝一で先方に提出する書類、スキャンしてPDFで送っていただけないでしょうか?」。眠気が一気に吹き飛んだ。こういうの、たまにある。でも、今日はちょっとキツかった。なぜなら事務所のスキャナーが、昨日から紙送り不良で使えなくなっていたからだ。俺の頭に浮かんだのは、ただ一つ。深夜営業のコンビニだった。

依頼人からの突然の連絡

依頼人の文面は丁寧だったけれど、「お願いできますか?」という一文の背後に「すぐやってくれないと困るんですよね」というプレッシャーが見え隠れしていた。別に責めているわけじゃない。そういう業界だってのはわかってる。けど、こっちにも人間らしい生活はあるんだ。コンビニに行くしかないか……と着替えをしながら、小さくため息をついた。

「明日の朝までに必要です」と言われても

明日の朝までにって、そもそもこの時間にスキャンしてPDF化してメール送って、相手が確認して、って……。全部こっち持ちか。別にそれが嫌ってわけじゃない。これまで何度もやってきた。でも、「このままでいいのかな」って思う瞬間がある。こっちは一人で、機材も壊れてて、相談相手もいなくて、どうしてこんなに無理してるんだろうって。

プリンターもスキャナーも壊れていた夜

よりによってこんな時にスキャナーが壊れてるなんて、もはや笑うしかない。いや、笑えなかった。先週も紙詰まりで焦ったばかりだったから。買い替えよう買い替えようと思いつつ、バタバタしてて後回しにしていた自分を呪った。準備不足は自分の責任。そう思いながら、眠たい目をこすって車を出した。

コンビニで一人ぽつんとスキャン

深夜のコンビニのコピー機の前に立った。誰もいない。BGMだけがやけに響く。普段なら事務所で5分で終わる作業なのに、わざわざここまで来て、また5分……。時間よりも、この無力感がきつかった。「何やってんだろうな俺」とつぶやきながら、スキャンボタンを押した。

静まり返った店内で独り言が増える

自分でも気づかぬうちに、独り言が増えていた。「ちゃんとスキャンできたかな?」「PDFって名前どうしよう」「なんで俺が今これやってんだろう」……。深夜のテンションと疲れで、気が緩んでいたんだと思う。でも、誰にも見られてないと思って油断した瞬間、後ろを学生風の男の子が通って行って、ちょっと恥ずかしくなった。

スキャンしたファイルに写ったもの

スキャンを終えて、USBに保存したファイルを確認してみたら、意外なものが映っていた。書類の右端に、自分の指の影がうっすら写っていたのだ。情けなかった。やり直して、再度スキャンしなおした。「完璧じゃないと送れない」という妙なこだわり。誰かが気にするわけじゃないかもしれない。でも、自分が気になる。そういう性格なのだ。

誰も褒めてくれないけど頑張る理由

司法書士の仕事って、誰かから拍手されるようなものじゃない。表に出るわけでもなく、黙々と裏方で書類を整える。間違えたら怒られるけど、うまくやっても褒められることはまずない。でも、不思議とやめられない。たぶん、どこかで「この仕事が誰かの役に立ってる」と信じたい自分がいるんだと思う。

誰のためにやっているのか分からなくなる瞬間

夜中にこんな作業をしていると、「これ、何のためにやってるんだろう」ってふと思う。依頼人のため? 自分のため? 評価されるため? 答えは毎回変わる。けれど、「やらなきゃ」という義務感だけは常にある。それが一番厄介なんだ。逃げられないし、誰も代わってくれない。

感謝もされない仕事が重なると

たまに感謝の言葉をもらっても、それだけじゃ足りない日がある。体が疲れて、精神も削れてるときは、どんなに「助かりました」と言われても心に響かない。「それで?」って思ってしまう自分が嫌になる。優しくいたいのに、余裕がないときは無理だ。

それでも手を抜けない性分

高校時代、野球部で「妥協はミスの始まり」って何度も叩き込まれた。たぶん、それが今の仕事の姿勢にもつながってるんだと思う。誰が見てなくても、ちゃんとやる。それが信用につながるって信じてる。報われなくても、それをやめたくない。だから今日も、深夜のコンビニでスキャンをやり直す。

孤独と向き合う夜

事務員は帰ってしまってるし、頼れる人もいない夜。誰かに「おつかれさま」と言ってもらえたらどんなに救われるだろう。LINEの既読がつかないスマホを見ながら、また一人で作業する。結婚してたら違ったのかな。誰かが家で待っててくれたら、もっと気持ちも違ったのかもしれない。

家庭のある同期との温度差

たまに同業の同期と話すと、「子どもがさ〜」とか「うちの奥さんがね〜」なんて話が出てきて、正直ついていけない。こっちは家に帰っても誰もいない。あいつらは週末に家族と出かけて、俺は事務所で書類整理。何が違ったんだろう。人生の分かれ道って、いつだったんだろう。

「なんで俺だけ…」の連続

夜遅くまで働いてるのも俺だけ。休日返上してるのも俺だけ。そんな気がしてくる。でも、本当はみんなそれぞれ大変なんだろう。ただ、自分の孤独に飲まれそうな夜は、「なんで俺だけこんな思いしてるんだろう」って思ってしまう。答えなんてないけど、そう思わずにはいられない。

小さな失敗が教えてくれたもの

あの晩、焦ってスキャンしたファイルを送ったつもりだったけど、なんと添付し忘れていた。依頼人からの「すみません、ファイルが添付されていないようです…」のメッセージに頭を抱えた。やっぱり、焦りは禁物だった。

添付ファイルのミスで全部やり直し

再びコンビニへ。こんな時間に2回も来るとは。もう一度スキャンして、今度はちゃんと添付して送信。送信ボタンを押す指が震えていたのは、眠気のせいか、それとも自己嫌悪のせいか。どちらにせよ、自分の凡ミスで余計に疲れる結果になった。

焦ってやるとろくなことがない

たかが書類のスキャン、されどスキャン。焦ると基本的な確認すら抜けてしまう。チェックリストを作っても、そのチェックすら忘れるときがある。だから、焦ったら一回立ち止まる。コンビニの駐車場で深呼吸した自分を、少しだけ褒めてやりたい。

自分で自分を追い込んでしまう癖

誰かに責められてるわけじゃない。でも、自分で「ちゃんとしなきゃ」「完璧じゃなきゃ」って追い込んでしまう。それがしんどいって、わかってる。でもやめられない。これも昔の野球部精神かもしれない。手を抜けない。だから、疲れる。

それでも続けるこの仕事

それでも、やめようとは思わなかった。大変だけど、この仕事にしかない達成感がある。誰かの人生に少しでも関われる、そんな実感がふとしたときに湧いてくる。その感覚が、次の日の朝も机に向かわせてくれる。

誰かの支えになれていたら

依頼人からの「本当に助かりました」の一言が、心の片隅に残る。それがあるから続けられる。自分じゃ大したことないと思っていたことが、相手にとっては大きな安心だったりする。そう思えることが、たまにある。

地味な努力が報われる瞬間

派手じゃないし、誰も拍手なんてしてくれない。でも、自分の積み重ねが誰かの一歩になってる。そう感じる瞬間がある。その一瞬のために、今日も書類を整理して、スキャンして、送る。たとえ深夜でも。

いつかの「ありがとう」のために

未来の誰かが、俺の仕事を思い出して「ありがとう」と言ってくれたら。そんな妄想を抱きながら、また明日も仕事に向かう。コンビニのスキャナーと仲良くしながら、自分の不器用なやり方で、今日もまた司法書士として生きていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。