昼食はまたコンビニと沈黙の日々

昼食はまたコンビニと沈黙の日々

一人事務所の昼休みは孤独との再会

司法書士として地方で小さな事務所を構えてからというもの、昼休みの時間は「束の間の休息」などというものではなくなった。ただ時間が流れるだけの無音の30分。机の上にコンビニの袋を置き、電子レンジの「ピッ」という音が、部屋に響く唯一の音。誰かと「昼どうする?」と相談したり、笑いながら食べたりすることなんてもう何年もない。ふと昔の職場を思い出すが、もう戻れない世界だと実感するだけだ。

昼食は業務の合間の小さな息抜きだったはずが

昔、司法書士事務所に勤めていた頃、同僚とランチを取りながら雑談をする時間がとても気分転換になっていた。話題はくだらないものがほとんどだったけれど、それでも「誰かと共有する時間」が心の支えになっていたのだと、今はよくわかる。一人で独立した今、昼ごはんの時間はもはや「業務の延長」にしか感じられず、時計を見てはため息をついている。

外食の選択肢がない地方の現実

都市部と違って、地方では「気軽に行けるランチスポット」など簡単には見つからない。うちの事務所の周辺にあるのはコンビニが一軒と、なぜかいつも休んでいる定食屋だけ。クルマで少し出れば何軒かあるけれど、移動時間と混雑を考えると行く気がしない。結局「また今日もコンビニか…」という諦めに至る。

徒歩圏内にはコンビニしかない

事務所から徒歩で行けるのは、片道7分ほどのコンビニのみ。冷たい風の中、コートの襟を立てながら歩いていくのが冬の風物詩だ。選ぶ商品もいつも同じ、チキン南蛮弁当か、幕の内。コンビニの店員さんだけが、昼間に言葉を交わす唯一の相手になる。

「どこでもいい」が「もうどこもない」に変わる

昔は「どこでもいいから外に出たい」と思っていたけれど、今は「どこも行く場所がない」と本気で思うようになった。新しい店ができたとしても、誰かと一緒に行く機会がないと試す気にもならないし、一人で新しいことを試すのは妙に気後れする。気づけば、毎日同じコース、同じ選択肢の繰り返しだ。

誰とも話さないまま過ぎる午後

事務員さんは一人いるけれど、用件以外の会話はほとんどない。年齢差もあるし、お互い干渉しすぎない距離感が心地よいようで、かえって声をかけるきっかけもなくなっていく。午後はひたすらパソコンと書類に向き合い、電話が鳴らない日には「本当に人と関わってる仕事なのか?」と思う瞬間すらある。

事務員との会話も必要最低限だけ

お互い仕事に集中しているからこそ、余計な会話はしない。だがそれが裏目に出て、事務所の空気はどんどん無音になっていく。こちらが気を使って話しかけても、業務連絡に戻ってしまうような、冷静で効率的なやり取りばかり。悪くないけれど、なんとも味気ない。

会話がない日が週の半分以上ある

朝の挨拶と、退勤の「お疲れさまでした」だけの日もある。昼ごはんの話もしないし、こちらが先に食べていても何のリアクションもない。そんな日が週の半分以上を占めていると思うと、どこか自分が無人島にでもいるような気分になる。

元野球部の自分がまさかここまで静かな生活になるとは

高校時代、部室でふざけあいながらおにぎりを頬張っていたあの頃が、今では信じられない。あのときは「誰かと一緒にいる」のが当たり前だった。グラウンドの喧騒、ベンチのヤジ、昼休みの笑い声。その全てが、今の無音の昼食とあまりにも対照的すぎて、思い出すたびに少し泣けてくる。

声を出すこと自体が減った現実

独り言すら減っている気がする。朝から夕方まで一言も声を発しない日がある。電話すら来なければ、本当に誰とも話さずに一日が終わる。これが日常になると、久しぶりに人と話す場面で声がうまく出なかったり、変な緊張をしたりするようになってきた。

打ち合わせの「テンション」がきつい理由

たまに依頼者と面談するとき、自分でも驚くほど「テンションが上がらない」。声のトーンが一定で、表情も作れていないのが自分でもわかる。昔はもっと愛想よくできていたのに、今はそれがきつい。日常的に誰かと話す機会が減ると、表情筋もサボり始めるのかもしれない。

コンビニと沈黙と自分との向き合い方

この暮らしに慣れてしまっている自分がいる一方で、どこかで「このままでいいのか」と問いかける自分もいる。昼ごはんをもっと楽しくする工夫、小さな雑談のきっかけ、ちょっとした散歩。そんな些細なことでも、日常に潤いが戻るかもしれない。今さらだけど、試してみようと思う。

変えられることと、受け入れること

すべてを変える必要はないし、できるわけでもない。けれど「自分にはどうにもできない」と諦めていた昼の孤独に、少しだけ工夫を足してみようと思う。おにぎりを手作りにするとか、BGMを流してみるとか、ほんの些細なことでいい。まずはそこから、だ。

同じように頑張ってる誰かへ届けたい気持ち

一人で仕事をしていると、自分だけが孤独だと思いがちになる。でもきっと、同じような思いを抱えている司法書士さん、士業の方は多いはず。そんな誰かに、「あなただけじゃない」と伝えられたら、それだけで今日の昼ごはんもちょっとだけ温かくなる気がする。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。