あの日感じた自分への失望
人から見れば小さなことかもしれない。でも、自分の中ではどうにも許せない出来事というのがある。ある日、相続登記の案件で、たった一文字の打ち間違いが原因で補正通知が届いた。その瞬間、顔から血の気が引いた。忙しさにかまけて確認を怠った自分が情けなくて、しばらく机に突っ伏して動けなかった。そんな自分を見て、事務員が「大丈夫ですか」と声をかけてくれたが、返事もできなかった。あのとき、本当に自分を嫌いになりそうだった。
一つのミスが一日を壊すこともある
朝イチでその通知を見たときから、もう一日が終わったような気分だった。書類の誤字が原因で法務局に出直し。依頼人には平謝りで、こちらの責任ですと頭を下げるしかなかった。責められなかったのが逆につらかった。むしろ「気にしないでください」と笑顔で言われたのが、かえって心に刺さった。真面目にやっているからこそ、こういう時の自己嫌悪は深い。自分の不注意が誰かに迷惑をかけたという事実から、目を逸らすことができなかった。
些細な確認漏れが引き起こす大きなトラブル
ミスの原因は、単純な確認不足だった。申請書の氏名欄で、「高橋」を「高嶋」と書き間違えていた。登記官からすれば簡単なチェック事項だが、依頼人の信用を損なうには十分すぎる。一人で事務所をまわしているとはいえ、確認作業は自分の責任だ。誰のせいにもできない。この失敗があってから、書類チェックの前には必ず一度席を立ち、気持ちをリセットするようになった。それでも、完璧にはなれない自分が歯がゆい。
依頼人に見せたくなかった顔
その日の自分の顔は、本当に情けなかったと思う。笑おうとしてもひきつって、謝ってばかり。プロとして仕事しているのに、こんな顔を見せていいのかと自問自答した。依頼人の言葉はやさしかったけれど、その優しさが胸に重かった。もっと頼れる存在でいたかったのに、そうなれていなかった。鏡を見るのが怖い日だった。あのときの自分を思い出すと、今でも胃のあたりが重たくなる。
誰にも相談できなかった自分の不甲斐なさ
本当に苦しかったのは、誰にも弱音を吐けなかったことだ。事務員はいるけれど、責任者は自分。弱っている姿を見せるのが恥ずかしくて、無理に明るくふるまっていた。でも内心はボロボロ。こんなとき、相談できる誰かがいれば少しは救われるのかもしれないが、それができないのも自分の性分だ。昔から、誰にも頼れずに踏ん張ってきた。その結果、心の中が擦り切れてしまう。
事務員にも言えないプライドの壁
事務員は信頼している。でも、だからこそ言えないこともある。「先生、今日は疲れてますね」と言われた日もあったけれど、「いや、大丈夫」と返してしまった。ミスの内容も本当の意味では話していない。自分のプライドが邪魔をするのだ。「任せてください」と言った手前、情けない姿は見せたくなかった。でも、それが逆に壁をつくってしまっていたのかもしれない。
「なんでこんな性格なんだろう」と思う夜
夜、布団の中で何度も反芻する。「なんであんな言い方しちゃったんだろう」「なんでもっと早く気づかなかったんだろう」。自分に対する後悔と自己嫌悪が、眠りを邪魔する。人から見れば大したことないことでも、自分にとっては重すぎる。どうしてこんなに気にする性格なんだろう。もっと適当に流せたら楽なのに、できない。そんな自分がまた嫌になる、という負のループに落ちていった。
真面目すぎる性格が自分を追い込む
昔から「真面目だね」と言われることが多かった。学生時代は野球部で、どんな練習も手を抜かずにやった。今でもそのクセが抜けない。何ごとも全力でやらないと気が済まない。でも、それが裏目に出ることもある。融通が利かず、人に頼れず、結果として自分を追い詰めてしまうのだ。自分の首を自分で絞めるような生き方に、時々嫌気が差す。
完璧主義が引き起こす孤独
人に頼るのが苦手だ。だから、仕事はできるだけ自分で抱え込む。事務員には最低限しか任せず、ミスのないよう何重にもチェックする。その結果、夜遅くまで一人で仕事をしている。誰にも迷惑をかけたくないという気持ちが、逆に誰にも助けてもらえない状況をつくっているのかもしれない。孤独を選んでいるのは、自分自身なのだろう。
人に任せるのが怖いという矛盾
人に任せたら楽になると分かっているのに、それができない。過去に任せたことで失敗した経験が頭に残っていて、どうしても踏み出せない。信頼してないわけじゃない。ただ、「また同じことが起きたら」と思ってしまう。だから、自分でやるしかないと思い込む。そんな自分が疲れてしまうと分かっていながらも、性格は簡単には変えられない。
効率よりも「正しさ」を優先してしまう癖
この仕事では「正確さ」が命だ。それは間違いない。でも、その「正しさ」にこだわりすぎて、効率が犠牲になることがある。誰も気にしないような細部にまで神経を使い、時間がかかる。早く終わらせた方が良いのに、完璧に仕上げようとしてしまう。結果として、疲れだけが残る。それでも、手を抜いたら自分で自分を許せない。それがまた、自分を追い込む。
独り身の静けさがときに心を削る
仕事が終わって家に帰ると、誰もいない部屋。テレビをつける音だけが響く。誰かと食卓を囲むこともない。風呂に入り、布団に入るまで、ずっと無言。そんな時間が自分を見つめさせる。今日一日、何をした?誰と話した?そう問う声が、静寂の中から聞こえてくる。自分という存在が、ふと宙ぶらりんになる瞬間がある。