行政手続きと現場の板挟みに耐える日々

行政手続きと現場の板挟みに耐える日々

書類が整っても終わらないのが現場の現実

「これで提出OKだろう」と思った書類が、翌日には「様式違反です」と突き返される。そんなことが日常茶飯事だ。形式通りに作成した書類が、実務上の運用や担当者のさじ加減で弾かれるのは、もう慣れっこ…いや、慣れたくもないのに慣れてしまったというのが本音だ。書類一枚に振り回されるたび、胃の奥がじわっと重くなる。

形式的には完璧 でも実務では通じない

たとえば、「委任状の押印位置が少しずれている」と言われたことがある。朱肉も問題なく、署名も鮮明。にもかかわらず、「位置が左寄りすぎる」と突き返された。こちらとしては、依頼者の貴重な時間を使って取得した書類である。それが、フォントサイズや行間の違いでNGになると、どこに怒りをぶつけてよいのかわからなくなる。

役所に求められる様式と現場の実情の乖離

実際、法務局で配布される「記載例」通りに作っても、その通りで通るとは限らない。現場では「これでは受け取れない」と言われるケースがあるのだ。形式がルール化されているはずの行政手続きで、担当者によって見解が違うなんて、現場を預かる身からすれば冗談じゃない。ルールはどこにあるんだと言いたくなる。

押印漏れ 指摘 そしてまた一から

とくに印鑑関係の指摘は多い。たとえば「認印じゃなく実印で」と言われて出し直し、「実印でも登録されていない」とさらに突き返される。誰も得しないやり直しの連鎖。依頼者から「これ、また書くんですか?」とため息混じりに聞かれると、こちらも申し訳なさでいっぱいになる。

委任状の出し直しで依頼者にも迷惑が

一度だけ、委任状の再取得で依頼者の奥様に怒鳴られたことがある。「こんなことでまた夫の時間を使わせるのか」と。こちらも言い訳などできない。ただ謝るしかなかった。業務において最も苦しいのは、自分の責任ではないトラブルで、誰かをがっかりさせてしまう瞬間だ。

電話一本で崩れる予定表

朝、コーヒーを飲みながらスケジュールを立てたところで、その通りに進んだことはまずない。一本の電話で、予定はすべて吹き飛ぶ。大至急の案件が割り込んできて、優先順位はその都度崩される。事務員にも迷惑をかけているが、説明のしようがない。

「この件 至急でお願いします」が常に飛んでくる

「今すぐ登記をしてほしい」「今日中に書類を仕上げて」…これらのお願いは、“お願い”というより、半ば命令だ。断れば依頼を失う可能性もあるし、対応すれば自分の首が締まる。中小事務所に余裕などないから、結局どちらを選んでもストレスが蓄積する。

スケジュール表の余白はもはや幻想

予定表には一応「予備時間」を確保しているが、あれはもう幻想だ。1時間空けておいても、その時間が休憩になることはまずない。急ぎの電話対応や、戻ってきた書類の訂正、飛び込みの相談…。誰かが言っていた「司法書士はマルチタスクの鬼」という言葉が、今では呪いのように聞こえる。

事務員も戸惑う突発対応の連続

事務員には本当に感謝している。だが、その事務員すら「さっき言ってた話、もう変わったんですか?」と戸惑うほど予定変更が多い。指示を出すこちらも混乱しているが、フォローする側はもっと大変だろう。人を雇う責任を日々、重く感じている。

法務局との攻防は日常茶飯事

法務局とは、もはや「対話」というより「攻防」に近い。電話では優しく対応してくれても、書類となると別人のように厳しい。しかも同じ内容でも担当者によって反応が違う。どこまでが許されて、どこからがNGなのか、その基準がつかめないまま今日も書類を出している。

言っていることが日によって変わる不思議

「これは受付できますよ」と言われた内容が、数日後には「できませんね」と変わっていることがある。記録も残らない口頭のやりとりに頼らざるを得ない以上、こちらとしては不安だらけだ。できれば毎回録音しておきたいが、それも現実的ではない。

「前回は通った」それが通用しない世界

前回とまったく同じ内容で書類を提出しても、今回は通らない。しかも理由が「解釈が変わりました」とのこと。じゃあその解釈はどこに書いてあるのかと聞いても、「内部の運用なので」とはぐらかされる。こんな世界に、法と秩序を期待する方が間違っているのか。

担当者によって全然違う基準

名前を見ただけで「あ、今日はこの人か」とため息が出る担当者もいる。厳しい人と、少し柔軟な人。どうして同じ法務局で、こうも対応が違うのか。ある意味、こちらも“誰が担当か”で提出日を調整するという、妙な技術が身についてしまった。

依頼者と行政の間で疲弊する心

この仕事は、書類を作るだけでは済まない。行政の都合を依頼者に説明し、依頼者の想いを行政に伝える。まるで通訳のような役割だ。だがこの通訳、どちらからも感謝されにくい。そして、板挟みの真ん中で一人、心がすり減っていく。

説明しても伝わらないジレンマ

「それって役所の都合ですよね?」と依頼者に詰められるたび、「はい、そうです」としか言えない自分が情けない。理不尽なルールを正直に伝えても、それは言い訳にしか聞こえないようだ。もっと説明力を高めなければと反省するが、どこか限界も感じている。

「司法書士さんがなんとかして」で終わる話

依頼者からの「そこは先生の力でなんとか」というセリフには、正直、うんざりすることもある。まるで魔法使い扱いだ。制度を捻じ曲げる力なんて、こちらにはない。けれど、そう言われてしまうと、無理をしてでも対応してしまう自分がいる。

感謝されない仲介役に慣れていく悲しさ

仲介役という立場は、成功しても目立たず、失敗すれば責められる。感謝されにくいのがこの仕事だ。それに慣れてしまった自分を、「よくやってるよな」とたまには褒めてあげたい。けど、やっぱり今夜も一人でビールを開けるだけだ。

それでもやらなきゃ回らない現場

毎日が疲弊の連続。それでもやらなければ、依頼者も、事務所も、何も動かない。だから今日も、理不尽に向き合う。泣き言を言いながらでも、前に進むしかない。自分で選んだ道だからこそ、逃げずに立ち向かっている。

文句を言っても始まらない と言い聞かせる

「もうやめたい」と口にしながら、書類を修正している自分がいる。誰に頼まれたわけでもないのに、責任感だけは手放せない。だからこそ、この世界で踏ん張っている人たちには、本当に頭が下がる。文句を言い合える仲間がいるだけで、救われる瞬間もある。

それでも愚痴が止まらない夜

事務所を出て、コンビニで弁当を買い、テレビもつけずに食べる夜。ふと、「今日一日、誰ともまともに話してないな」と気づく。こんな孤独も、仕事の一部なのだろう。元野球部だった頃の仲間は、いまや家族持ち。そんなことを考えると、つい愚痴も増えてしまう。

焼酎片手に書類を見直す癖がついた

一日の終わり、焼酎を片手に書類を見るのが癖になっている。酔ってまで仕事するなと言われそうだが、不安を翌日に持ち越す方が怖い。そんな日々を繰り返している。もしこれを読んでいる誰かが、同じような夜を過ごしているなら、少しだけでも共感してほしいと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。