序章 古びた鍵と封じられた遺言
古道具屋から持ち込まれた不思議な相談
商店街のはずれにある古道具屋「三丁目の秘密」で、ひとつの相談が舞い込んできた。 古びた鍵と共に渡されたのは、封印された遺言書の写し。差出人はすでに故人となっていた資産家の女性だった。 「遺言書が無効になるかどうか、ちょっと調べてほしいんですよ」と、店主の澄ました顔が逆に怪しかった。
封印された遺言書と相続問題の火種
遺言書の内容は、財産をすべてある男性に譲るというもの。しかし登記簿を確認すると、その男性の名前は所有者として記載されていなかった。 現在の登記名義人は、まったく別の人物——しかも数年前に失踪しているという。 この時点で、私はただの相続手続きでは済まないと確信していた。
事件の予感 鍵の持ち主は誰か
相続人の主張と食い違う証言
名乗り出た相続人は、「鍵は母の形見」と主張したが、その話にはいくつも矛盾があった。 「母はこの店のことなんて話したこともない」と言う一方で、「鍵のことは小さいころから聞かされていた」とも言っていたのだ。 嘘をついているのか、それとも何かを隠しているのか——私の中で違和感が膨らんでいく。
不可解な筆跡と登記簿の矛盾
私は登記簿の写しと遺言書の筆跡を並べてみた。字体が似てはいるが、決定的な違いがあった。 「これ、サザエさんのノリスケが書いたと言われても信じるぞ…」そう呟いた私は、明らかな偽造の痕跡を見逃さなかった。 やれやれ、、、また面倒なパズルが始まったようだ。
サトウさんの冷静な視線
法務局の記録に残された空白
法務局の保存記録を調べていたサトウさんが、ふと顔を上げて言った。「この時期の閲覧記録、全部空白ですね」 確かに、過去の誰かが閲覧していれば足跡が残るはずだ。しかし、その部分だけ真っ白だった。 「デスノートでもこんなにきれいに消されてませんよ」とサトウさん。皮肉も冴えている。
鍵の形状が語る意外な真実
私は鍵を手に取ってじっと眺めた。細かく削られた跡、そしてやたらと古い作り。 これは家の鍵ではなく、金庫の鍵——しかも旧型の手動ダイヤル式に合わせて作られたものだった。 つまり、この鍵が使われるべき「扉」は、今この町のどこかに眠っているはずだ。
隠された事実と証言の穴
なぜ登記名義は変更されていないのか
遺言があったにもかかわらず、登記名義はそのままだった。手続きが行われなかった理由は何か? 被相続人が死亡したとき、登記変更を請け負ったはずの司法書士が実は「別人」だったのだ。 「司法書士ジョーンズ」なんて名刺、どこで作ったんだろうな。
近隣住民が語るもう一つの物語
古道具屋の隣に住む老婆がぽつりと言った。「あの人、昔は鍵屋だったのよ」 つまり、店主自身がこの特殊な鍵を作る技術を持っていたことになる。 ここでようやく点と点がつながった気がした。
シンドウの反撃と過去の影
昔の名義変更と消えた司法書士の記録
登記簿の過去の名義変更を辿ると、一人の司法書士の名前が出てきた——私の先輩でもあった人物だ。 彼は数年前、突然姿を消し、今も消息不明とされている。 だが彼の筆跡と偽造された遺言書の筆跡が、見事に一致した。
やれやれ 登記簿は何でも知っているらしい
「登記簿ってやつは、いろいろ喋りすぎるんだよな」 私は苦笑しながら、手帳にメモを取った。サトウさんは黙って頷く。 やれやれ、、、やっぱりこの仕事、体力勝負じゃないか。
真相解明 二重の鍵が開けた扉
封印されたもう一つの遺言の存在
もう一つの鍵が開いたのは、古道具屋の地下倉庫だった。そこには、日付が古い第二の遺言書が保管されていた。 内容は、現登記名義人への譲渡を明確に示していた。つまり最初の遺言書こそが偽造だったのだ。 全ては、財産を奪おうとした策略だった。
名義変更のトリックと本当の相続人
偽の司法書士は偽装名義を使い、古道具屋の店主と結託して相続登記を操作していた。 しかし、本物の登記簿は嘘を許さなかった。 正しい手続きを経て、ついに本来の相続人に名義が戻されることとなった。
終章 すべては登記簿の中に
鍵の正体とシンドウの独り言
事件が終わり、私は机に鍵を置いた。「鍵が開けたのは金庫じゃなくて、人の心だったのかもしれんな」 誰に言うでもなく呟いた言葉は、自分でも少し気恥ずかしかった。 けれど、これが司法書士という仕事の奥深さなのだろう。
サトウさんの塩対応とほんの少しの笑顔
「お疲れ様でした。で、次は何の登記ですか?」 サトウさんは、まったく労いの言葉もなく、次の書類を差し出してきた。 私は内心ちょっとだけ笑って、「やれやれ、、、」と心の中で呟いた。