奇妙なキャンセルの電話
午前十時の違和感
依頼人の田代から、突如として登記の手続きをキャンセルしたいとの電話が入った。 理由を聞いても曖昧で、「すみません、ちょっと事情が…」と歯切れが悪い。 しかも、もう法務局には申請済みで、完了証の交付も数日後の予定だった。
完了証をめぐる違和感
交付日に現れなかった男
法務局で完了証を受け取っても、田代は事務所に現れなかった。 電話も繋がらず、メールの返信もなし。 登記の完了証だけが事務所の机に取り残されていた。
完了証に記された異変
名義と日付の矛盾
何気なく完了証を見直していたサトウさんが、ふと首を傾げた。 「この名義、本人じゃないですね」 彼女の指摘で気づいた。登記識別情報の宛先が、田代ではない別人のものになっていた。
過去の登記記録を洗う
登記簿に残された足跡
不動産の履歴を確認すると、どうやら田代は「所有者」としては最後の一歩手前の段階までしか来ていなかった。 売買契約書もコピーをもらっていたが、印影が不自然に一致しすぎていた。 いわゆる“合成印影”だ。
そして現れた本物の所有者
もうひとつの登記申請
数日後、別の司法書士が同じ物件の登記申請にやってきた。 彼が持ってきた書類は、こちらが預かっていたものと明らかに内容が違っていた。 そしてそちらの書類の方が正規の登記識別情報と一致していた。
サザエさんに例えると
ノリスケの土地トラブル
「つまりこれは、ノリスケおじさんが波平さん名義の土地を勝手に売ろうとしたようなものです」 サトウさんが例えた内容は、妙に的を射ていた。 親族間トラブルを偽装して、不動産の名義をかすめ取ろうとしたのだ。
田代の正体
影武者登場
調査の結果、「田代」は本名ですらなく、依頼時に提出された免許証も偽物だった。 警察に通報したところ、同様の手口で複数の司法書士を回っていたらしい。 ただ、完了証の交付直前でストップしたのはウチだけだった。
塩対応と熱いお茶
サトウさんの勝利宣言
「まぁ、私がいなかったらアウトでしたね」 冷たく言い放ちながら、お茶を机に置いてくれたサトウさん。 やれやれ、、、こっちは胃がキリキリしてるというのに、よくもまあ平然としているもんだ。
うっかり司法書士の反撃
最後の一手
実は登記申請書に添付された委任状の「裏書」に、私がこっそりと別の認証印を押していた。 それが偽造発覚の決め手になったのだが、そのことをサトウさんに話すと、 「うっかりミスが役立つ日もあるんですね」と皮肉を言われた。
後日談と対策
身分確認の強化
それ以来、本人確認書類には第三者チェックを加えるようにした。 司法書士も騙される時代、という言い訳は通用しないのが現実だ。 まぁ、何にせよ事なきを得たのは、ひとえにサトウさんのおかげ、、、なのかもしれない。