恋の相談より相続の相談が増える

恋の相談より相続の相談が増える

かつては恋の話もあったのに、今や相続トラブルの嵐

「先生って、恋愛相談とかされるんですか?」と聞かれたことがある。若い頃はたしかに、そういう話もあった。登記の相談ついでに「彼と共有名義にしたいんです」なんて、ちょっとキュンとするようなエピソードも聞けた。だが今は違う。最近の相談といえば「親が死んで、兄が遺産を勝手に使っていて…」といった話ばかり。人は恋より、金で揉めるようになるらしい。いや、僕がそういう年齢の人にしか相談されなくなっただけか。

「先生って、恋愛相談とかされるんですか?」と聞かれた頃

あれはたしか、まだ開業して数年目のころ。近所の奥さんや若いお姉さんが、相続じゃなく恋愛についても話してくれた。相談に来たついでに「彼の親が土地を譲ってくれるって言ってるんですけど…」なんて、ちょっとした“恋と不動産”のミックス話。仕事というより井戸端会議に近かった。でも今は、誰も僕に「彼氏」の話なんてしない。そもそも僕自身、誰かと恋バナをした記憶なんて、どこかに置いてきた。

まだ若かったあの頃の相談内容

あの頃は、お客さんの年齢層も今より若くて、登記や贈与の話も「ふたりの将来のために」という空気があった。笑顔で「やっと家が買えるんです」と言われると、こっちまで少し嬉しかった。でも、年月は残酷だ。いまや「その家をどうやって売るか」「兄弟でどう分けるか」の話ばかり。話のトーンも空気も、すっかり変わってしまった。

婚約者との共有名義にしたい、なんて相談も今や昔

「共有名義にして大丈夫ですか?」なんて、ちょっと照れくさい相談。あの頃はまだ、希望や期待があった。けれど今は「元カレと共有にしたままなんですけど、これどうすれば…?」というような、終わった話の後始末の相談が多い。恋は始まるより、終わる時のほうが手続きがややこしい。そしてそれを処理するのが、僕の仕事だ。

今はもっぱら「兄が勝手に遺産使ってて…」

電話口から聞こえるのは、泣き声交じりのトーン。相続放棄や遺留分、登記名義の変更。感情と法律がぐちゃぐちゃに絡まった相談ばかりだ。時々、こちらの胃もキリキリしてくる。登記簿は無機質だけど、その裏側にはドロドロした人間模様がある。あまりにリアルで、恋の話を聞いていた時代が、嘘みたいに思える。

愛が終わり、財産でもめる時代へ

恋人と別れても、財産でつながっていると、そこに揉め事が生まれる。結婚していなくても、共有名義の不動産や、亡くなった親との財産が絡めば、話は簡単には終わらない。愛は儚く、遺産はしぶとい。書類を整理しながら、何度もそう思った。

40代独身司法書士の実感「人は恋より金で揉める」

僕の元に来る相談内容は、年を追うごとに重くなっている。相続、離婚、遺言、親の介護に関する財産のこと…。恋に悩む時間より、金に悩む時間のほうが多くなる。そう実感する日々だ。僕自身、恋の相談なんてもう何年もされたことがない。

信じたくないけど、これが現場のリアル

「実の兄がこんな人間だったなんて…」と泣きながら語る依頼者。その横で、どこか諦めた表情の配偶者。これが現場で見る“リアルな家族”の姿。お金が絡むと、人間関係の本性がむき出しになる。冷たい言い方かもしれないけど、それが仕事として日常になってしまうと、恋の話なんてどこか遠くに感じてしまう。

遺言書一枚で兄弟が絶縁する現場

公正証書遺言があっても、納得しない人は納得しない。「そんなの母が書いたとは思えない!」と声を荒げる姿を何度見ただろう。兄弟ってなんだろう? 家族ってなんだろう? そんな根本的な問いに直面しながら、登記の処理を進める毎日。答えなんて、もちろん見つからない。

愛情はどこに行った?と毎回思う

最後に一言、「でも仲良かったんです、昔は…」とつぶやく依頼者の声が、妙に耳に残る。そんなとき、ふと自分の兄弟との距離や、親との関係も考えてしまう。でも、答えは出ない。黙って、手続きを終えるしかない。

恋の相談が減ったのは、僕のせいなのか、時代のせいなのか

正直なところ、自分がモテないというのは自覚している。45歳独身、司法書士、地方都市在住。そんなプロフィールを見て「恋バナしたい!」と思う人は少ないだろう。だがそれにしても、恋の相談がゼロというのは、やはり寂しい。

独身男性司法書士への相談内容の変化

昔は「先生って独身なんですね」と言われるだけで、少し気まずかった。でも今では「独身なんですね(納得)」というニュアンスに変わっている気がする。相手の反応も、なんというか、腫れ物に触るような感じで…。たしかに僕は恋より、相続の話を語る方が得意になってしまった。いや、それが悲しいんだけど。

「先生も年取ったね」と言われるのが一番堪える

顔見知りの依頼者に「先生、白髪増えましたね」と言われることがある。笑ってごまかすけど、内心けっこう堪えてる。髪の話も、恋の話も、どっちももう、戻らないんだなあって思う。

それでも誰かの人生に関われる、司法書士という仕事

恋の話は減った。モテもしない。独身も長い。でも、誰かの人生に深く関われる仕事をしているという事実は、僕の救いだ。相続の相談を通じて、家族の絆をつなぐ手助けができることもある。

財産を守る仕事は、ある意味“愛”を守る仕事かもしれない

不器用な家族の愛情を、形にするのが相続登記なのかもしれない。愛し方は人それぞれで、遺言や財産にもそれがにじむ瞬間がある。そう思えるとき、この仕事を続けていてよかったなと思える。

たとえ恋の話は減っても、人の人生と向き合える

恋の相談はされなくなったけど、その分、深刻な人生相談は増えた。相続、死別、再婚、介護。そこには人の人生の重みがある。僕はその現場に立ち会う仕事をしている。それだけで、十分すぎるほど重たいのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。