感謝の言葉で腹がふくれるなら

感謝の言葉で腹がふくれるなら

感謝の言葉が唯一の報酬だった日

開業してまだ間もない頃、あまり仕事もなく、報酬も振り込まれるのは先延ばし。そんな中、依頼者の一人から「本当に助かりました」と丁寧なお礼の電話が入った。報酬は数千円だったけれど、あの「助かりました」の一言に妙に救われた。銀行口座は寂しいのに、心だけは少しあたたかかった。不思議なものだ。けれども、それが続くとどうなるか。人は感謝の言葉だけでは生きていけないと痛感するのだ。

「助かりました」の一言に救われた夜

その夜は冷蔵庫にろくな食材もなく、インスタント味噌汁だけが夕食だった。そんな時にかかってきた依頼者からの電話は、今でも忘れられない。「無理を聞いてくださって、本当にありがとうございました」その声を聞いて、しばらく電話を切れなかった。ありがとうって、こんなに力を持つのかと思った。でもその夜は、やっぱり味噌汁一杯で寝た。心は満たされても、腹は空いたままだった。

それでも口座には振り込まれない

どれだけ感謝されても、請求書を出さなければ振り込まれない。そんな当たり前の現実に打ちのめされる。ありがとうと言われたら、つい「お代はいいですよ」と言ってしまいたくなる性分だけど、それを続けていたら事務所ごと潰れてしまう。現実は残酷で、感謝の言葉は一銭にもならない。いや、なる時もあるけれど、それは稀で、幻想だ。

理想と現実のギャップがしんどい

「ありがとう」と言われて幸せになれるなら、どれだけ楽かと思う。でも実際は、仕事が終わるたびに請求書のことで胃が痛くなる。「お金の話をするのは気が引ける」という依頼者に、自分も同じように気を使ってしまう。結果、報酬が遅れたり、催促の連絡に心を削られる。理想と現実のギャップが、毎日のように押し寄せてくる。

ありがとうをもらえるだけマシなのか

そう考えるようになったのは、感謝の言葉すらないまま終わっていく仕事が増えてきたからだ。無言で書類を投げるように渡され、確認だけされて、報酬は支払われる。でも「助かりました」「ありがとう」の一言もない。それって、なんだか自分がただの機械になったような気分になるのだ。

感謝されない仕事もある

登記の仕事は、ミスがあってはいけないし、正確さが命。でも、それが当たり前になると「やってもらって当然」という雰囲気になってくる。問題が起きないことが成功なのに、その「何も起きなかった」ことは評価されない。逆に、ちょっとした遅れがあればクレーム。感謝なんて言葉、どこに行ったんだろうと思うこともある。

書類に魂を込めても誰も気づかない

一枚の書類に、何度もチェックを重ねて、印字ズレ一つにも気を配って提出する。でも、その努力は誰にも見えないし、評価されない。自分なりの「完璧」を目指して作った資料も、見た人にとっては「ただの一枚」でしかない。だからこそ、たまに「すごく丁寧ですね」と言ってもらえると、それだけで少し泣きそうになる。

感謝が欲しくてやってるわけじゃない

仕事はボランティアではない。生活のため、責任のためにやっている。でも、どこかで「ありがとう」の一言を期待してしまう自分がいる。プロなら黙ってこなせばいいという声もあるが、人間だもの。やっぱり認められたいし、報われたいと思ってしまうのだ。

だけど無視されるのは地味に効く

特に辛いのは、何の反応もないときだ。書類を送っても、メールしても、届いたのかどうかすらわからない。「了解です」でもいい、「ありがとうございます」でもいい、なんでもいいから、返事がほしい。ただの文字一行でも、そこに人がいると感じられたら、それだけでこちらの気持ちは救われる。

「ありがとう」より先にギャラください

感謝の言葉も大事だが、それ以上にありがたいのは、きちんと期日通りに支払われる報酬。現金が口座に入っていた方が、現実的には励みになるのは正直な話だ。とはいえ、その上で「ありがとう」の一言があると、心にも余裕ができて、次の仕事にも前向きになれる。

それでも「ありがとう」で少し生き返る

ある日、ふとした拍子に手紙をもらった。「手続きのとき、本当に心強かったです」と手書きで綴られたその文面に、思わず机の前で涙ぐんだ。食べていけるか不安な毎日の中で、その一枚の手紙が、なんだか「もう少しがんばってみようかな」と思わせてくれた。やっぱり、感謝って人を生かす力がある。

感謝はエネルギーのひとつ

腹はふくれないし、請求書も払ってくれないけど、「ありがとう」は心をあたためる燃料になる。特に孤独な事務所経営をしていると、自分の存在価値を感じる瞬間が少ない。でも、そのたった一言が「自分のやっていることに意味はある」と信じさせてくれることもある。

でも主食にはできないという話

感謝の言葉だけで生きていけるなら、どれだけ幸せだろう。でも、現実はそんなに甘くない。だからこそ、今日もまた、報酬の振込を確認してはほっとし、そして次の「ありがとう」を心のどこかで待ちながら、登記簿とにらめっこをしている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓